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想いをつなぐ編集力

「伝える」ことの根本的な困難さについて考えてみた

2012年12月27日 19時00分更新

 なんと、年末になってしまいました。ぼくは会社をつくったりしたこともあって、驚きの速さで一年がすぎましたが、みなさんはいかがだったでしょうか。

 さて、この連載は「想いを伝える編集力」というタイトルです。今回は、年末ということで、ちょっと昔を振り返りつつ、「伝える」という根本の部分について考えていきたいと思います。


上から目線だと何も伝わらない

 ぼくの最初の職歴は、アスキー(現・アスキー・メディアワークス)です。2000年にアスキーに入社して、パソコンの入門雑誌の編集部に配属されました。アスキーに入ったのはなぜかというと、学生時代Linuxに凝っていて、『Linux Magazine』の創刊号に記事を書いたりしていたことがきっかけです。

 つまり、けっこうなコンピュータオタクだったわけです。そんな人間が、Windowsがフリーズして困っていたり、エクセルが使えなくて困っていたりするひとのための雑誌に配属されました。アスキーの編集者は、編集だけでなく記事を書いたりもします。ぼくの書いた記事は、しばしば編集長を怒らせました。

「なんでこんなに上から目線なんだよ。読者が傷つくだろ!」

 ぼくはただ、必要な情報を書いていたつもりなのですが、なぜか「上から目線」と言われました。しかも「読者が傷つく」と。じつは最初、編集長が言っていることに、まったくピンと来ませんでした。事実を伝えるのに、上からも下からもないだろうし、事実が伝わった人はトクをしたんだから、傷つくとか意味がわからない、と思っていたのです。

 ……はい。まったくもってアホです。

 当然ですが、やさしく伝えるのと、冷たく伝えるのは、効果がまったく違います。「言ってることはわかるけど、言い方がイヤなの!」と、女子に言われたことがある男子はよくわかりますよね(過日はほんとにすいませんでした)。

 編集長は、オジサンだったのですが、そういうことにとても繊細なひと(たぶん、ひと一倍、傷つきやすい人)で、本当によく怒られました。ぼくのつくったページがわかりにくいときも、心の底から不快そうに、ダメ出しをしてきます。人はわからないときも不快になります。「わかりにくい」にもいろいろあって、テーマが難解なとき、情報が整理されていないとき、気持ちとして腑に落ちないとき、など、たくさんの種類があることもそのときに知りました。

 つくる記事のほとんどが、編集長を不快にさせないようになるまでに、数年はかかった気がします。この経験は、ぼくのその後の仕事にとても役立ちました。著者さんが書いてくださった文章や、社内でつくった宣伝物などの一言一句に、ここはだれかが不快になるかもしれない、ここは誰かが傷つく可能性がある、ということがだいぶわかるようになったからです。

 さて、ここまでだと、単に「やさしく表現すること、わかりやすく表現することは大事」という話になってしまうのですが、もうちょっと深いテーマが潜んでいることに、最近、気づきました。


■コミュニケーションに潜む、根源的なワナ

 ヒントは、何度も出てきた「不快」というキーワードです。先日、以下のような命題が思い浮かびました。

もしかして「伝える」という行為は、本質的に不快なものなんじゃないだろうか?

 当たり前の話ですが、物事を相手に伝えるというのは、まだ伝わっていないことを伝えるわけです。すでに伝わっていることは伝える必要がありません。これは、大なり小なり、相手に変革を迫ることを意味しています。

「伝える」ことの根本的な困難さについて考えてみた

 ひとは、そのままで肯定されたいし、承認されたいものです。変わるのは基本的に面倒だし、他人にそれを迫られるのは、不快です。だから、ほんのすこしでもイマイチな伝え方だと、ぜんぜん伝わらないのです。昔のぼくのように「必要なことを言えば、ふつうに伝わる」なんて考えているのは、とても傲慢な態度なわけです(モテません)。

 内容をおもしろくしたり、やさしくしたり、ストーリーをつけたり、いいタイトルを考えたり、デザインを考えたり、うまい宣伝をしたり……物事を多くの人にうまく伝えるのは本当に大変です。でも、伝えたい相手に、伝えるためには、それくらい必要なんだなということにあらためて気づいた年末でした。

※ ※ ※

 でもでも、自分の想いが伝わったとき、ひとの想いに共感できたとき、うれしさは格別ですよね。ひとはそのために生きてるのかもしれない。と、ポエムな感じで2012年最後の原稿を終えたいと思います。

 来年も、どうぞよろしくお願いします!

【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。cakesをはじめておもしろいひとに会いまくった一年でした。会っていただいたみなさん、ありがとうございます!

■関連サイト
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