前回は「成果を出している人が共通してやっていること」について書きました。自分や自分の周りの人に当てはめて考えていただいた人が多かったようですが、みなさんの日常の仕事で参考になれば幸いです。
■表現者の才能とは?
さて今回は、「才能」について考えてみたいと思います。才能にもいろいろあるわけですが、ぼくら編集者が気になるのは、表現者の才能です。はたしてどんなひとが表現者として才能があって、それが結果として表に出てくるのでしょうか?
講談社から独立してクリエイターのエージェント会社「コルク」を立ち上げた佐渡島庸平さんは、インタビュー(関連リンク)でこんなことを言っています。
佐渡島 僕が考える作家の定義は「心を微分して表現できる人」なんです。
人間の微細な心の動きを見つけて、それを表現する事ができる人が作家であるといった意味です。上のインタビュー記事で『宇宙兄弟』の小山宙哉さんに子どもが生まれた時のエピソードがとてもわかりやすいので、ぜひ読んでみてください。
ぼくも以前、この連載で「世界を見つめる解像度」という話を書きました。世界を見つめる解像度が高い人は、ネタ切れをせずに、いろんな深い考察を生み出し続けることができるという話です。
このふたつの話、ちょっと似ています。おそらく、解像度の高い目を、人の内面に向けることができるひとが作家であり、外側に向けることが得意なひとがコラムや評論を書くことに向いているのではないかと思います。
書かれたものが説得力を持つのは、みんなが見ている風景のなかに人と違うものを見出し、そしてそれが共感を得る時です。クリエイターの才能というのは、そういうことなのだと思います。
また、同じインタビューで、佐渡島さんが作家が伸びていくのに必要なものとしてあげているのが「素直さ」です。努力を続けていくためには、素直さが必要だというのです。ひとが成長していくためには、自分を常に修正していく必要があります。成長するというのは自分を変えるということであり、本質的に愉快なことではありませんから、自分や周囲の人を信じる素直さが必要なのです。
■才能を開花させるのに必要なもの
もう少し考えてみましょう。ぼくがめぐりあった才能ある表現者に共通しているものが、あといくつかあります。
ひとつめは「ギラギラしたマインド」です。この部分、ひとによって少しづつ違っているので一言で言うのが難しいのですが、すぐれたクリエイターや後にそうなる人は、人としてのエネルギーレベルが高いと思います。
エネルギーを発する根拠はひとによって異なっていて、漠然とエネルギーが出るひともいるでしょうし、愛や承認がほしくてやっているひと、お金や地位が欲しくてやっている人、いろんなひとがいます。見た目の話ではなくて、精神がなんとなくギラギラしている、そういう人を見ると「おお、クリエイターがいる!」とぼくは思います。
もうひとつは「強い心」です。ものづくりというのは、いままで世の中になかったものをつくるので、自分に対する信頼が必要です。だれでも最初はびくびくしながら、ものをつくります。でも彼らはちゃんとつくり終えて、それを人に見せるということをします。これには強い心があってできることなのです。
また、普通の人は、人に見せる前の「自分の目」の段階でつまづいてしまいがちです。どういうことかというと、何かをつくっている段階で、うまくできないダメな自分に耐えられなくなって、途中でやめてしまうのです。最初は誰でも初心者なので当たり前ですが、自分の至らなさに直面したままで、つくり続けるにはかなりの勇気が必要です。すぐれたクリエイターは、この段階を耐えてやり遂げる心の強さを持っています。
もちろん「表現する技術」も必要です。ただし、これはあとからでも身につけられます。文章力、画力、構成力、演出力といったものは、才能もありますが技術が大きな割合を占めているので、後からの努力で身に付けることが可能だと思います。
まとめましょう。
世界を見つめる微細な目を持って、強い心を持って、素直に努力して、燃えたぎるマインドを持っている人。こんな人が、すぐれたクリエイターになる可能性があります。
そして、すぐれたクリエイターが、相性のいい、すぐれた編集者(プロデューサー)と巡りあうと、すごい力を発揮するのではないかと思います。このようにしてできた幸せな作品が世の中にはたくさんあると思いますが、そのあたりはまたいずれ書きます。
今週はこのへんで。ではでは。
【筆者近況】
加藤 貞顕(かとう・さだあき)
株式会社ピースオブケイクCEO。cakesのUIやコンテンツを改善する会議を行なう日々です。
■関連サイト
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