みなさんは360citiesというサイトをご存知ですか?
Google Earthで時折見かける赤い四角のアイコン。そこをクリックしてみると不思議な球体が現われ、パノラマ写真が展開されていく、ちょっと素敵な仕組みになっています。それが360citiesへの扉のひとつです。
360citiesとは最大規模の360度パノラマ共有サイトであり、世界各地より投稿されたパノラマ作品、火星探査機から送信された360度パノラマまでを網羅した一大ネットワークです。そのコンテンツはGoogle Earthはもとより、Windows8のTravel AppやNokia map、そしてiPadのTHE DAILYなどにも供給されています。その拠点であるヨーロッパ、チェコのプラハから先頃ひとりの男が来日しました。
その名はJeffrey Martin(36歳)。360citiesの創立者であり、彼自身もパノラマ・クリエイターです。2010年9月の時点で世界最大の画素数となる800億ピクセルのパノラマ写真(関連サイト)をつくったことで、パノラマファンの間ではよく知られています。 そのJeffrey氏に滞在先のホテルでインタビューをすることができました!
――ロンドンのギガピクセルパノラマ(10億ピクセル以上のパノラマ写真)の制作はどのぐらいかかったんですか?
Jeffrey氏:およそ8000枚のカットを高所の4ヵ所から3日間かけて撮影し、すべてステッチ、オーサリングするのに3週間もかかったよ!
――そもそもパノラマに取り組む前はなにをされていたんですか?
Jeffrey氏:アメリカのシカゴで生まれ、幼少時代はヨーロッパで過ごし、その後、世界で最も美しい街のひとつチェコのプラハに移った。学校では3年間写真を専攻してモノクロのランドスケープなどを撮影していたんだ。それから新聞の仕事や、ファッション写真を撮りはじめた。フリーの写真家を経て、2004年ごろから360度パノラマを撮影するようになったんだよ。最初のころはパノラマ機能のあるコンパクトデジカメを試していたが、その後、パノラマ専用雲台を使って撮影しはじめた。今は360度パノラマのほかに、ギガピクセルイメージ、タイムラプス、タイムラプス・パノラマなども制作しているよ。
――360citiesのチェコのマップ上にはあなたがつくったプラハのパノラマが無数に配置されていますが、今までにどれくらいのパノラマを撮影しましたか?
Jeffrey氏:公開していないもの、ステッチしていないものを含め、幾千ものパノラマを撮影してきたね。
――360度パノラマの魅力とはなんでしょうか?
Jeffrey氏:写真に似ているけれどそれとも違う。ビデオのように受け身ではなく、画像をいろいろな角度からコントロールし、ブラウザー上でインタラクティブな経験ができるところかな。
――どのような機材で撮影していますか?
Jeffrey氏:通常のパノラマはキヤノンの5Dや7Dに360precisionのパノラマ雲台であるアトム、そしてシグマの8mm魚眼レンズ。ギガピクセルイメージの場合はCLAUSSのロボット雲台に70-200mm、または400mmの望遠レンズを使っている。
――360citiesについて紹介してください。
Jeffrey氏:2007年に立ち上げた最大規模のパノラマのコミュニティーサイトで、プラハで6人のスタッフで運営している。世界中から毎日高品質で美しいパノラマが投稿されている。教会や家、お店、山の頂上、空中、水中、世界中のおもしろい場所が見られるサイトだよ。すばらしい作品をピックアップした“編集者からのおすすめ”のコーナーなどもある。私の重要な仕事のひとつにパノラマを表舞台に押し上げること、そして制作や公開を容易にすることが挙げられる。プロアカウントもあり、360度パノラマの広告やウェブサイトへの使用ライセンス業務も請け負っているよ。サイトは日本語にもローカライズされている。マイクロソフトやNokia、Google Earthなどとはパートナーシップを結んでいる。今回の来日の目的である東京での作品づくりは富士通ヨーロッパもサポートしているんだ。
――好きなパノラマ作家はどなたですか?
Jeffrey氏:とてもたくさんいるのだけれど、振り返ると偉大な人たちといっしょに仕事をしてきたよ。あえて挙げるとすれば、ギガピクセルイメージ、そして360度パノラマの偉大なるパイオニアのアメリカのGreg Downing氏、先生でもあるイタリアのLuca Vascon氏、とてもフレンドリーな男で美しいイメージをつくりあげることで知られるブラジルのAyrton Camargo氏、完璧な手持ち撮影をする日本の平和良風呂氏、とても精力的にパノラマを制作している中国のJackey Cheng氏、ドイツの鉄道好きなWilly Kaemena氏、タイムズスクエアの大晦日のカウントダウンのパノラマで有名なアメリカのJook Leung氏、パノラマ閲覧ソフトの開発者でもあるオランダのAldo Hoeben氏、やはりイタリアのAndrea Biffi氏などなど、挙げていったらきりがないよ! でも、僕は彼らからたくさん影響を受けたんだ。
――今まで見た中で最も印象的な360度パノラマはなんですか?
Jeffrey氏:そうだな、ニューカレドニアでRichard Chesher氏が撮影した太平洋の水中パノラマかな。海の中で無数の白と黒のストライプ模様の魚がカメラを囲むように集まって来る様子を捉えていて、それはそれは素晴らしい作品だ。これを初めて360度パノラマを体験する人にiPadで見せたら(ジャイロの動きと連動するVRに驚いて)、きっと「美しい!」と叫ぶだろうね。
――今回で来日は何度目ですか? 日本の印象は?
Jeffrey氏:二度目の来日。東京は初めて訪れた。人の数が多く、すべてが過剰で、カルチャーショックを受けた。安全で清潔で、人々は親切。すべてうまくまとまって機能しているが、ルールから逸脱することは難しそうだ。チェコはもう少しおおらかなので、その点東京は少々、窮屈かもしれないね。でも、とてもエキサイティングな都市なので、また近々訪れたいと思う。日本食は大好きだし、今回行ったミシュランの三ツ星の寿司店“すきやばし次郎”のお寿司は最高だったね!
ところで、今回の来日で彼はひとつの奇妙なカメラを携えていました。それは風防マイクスポンジのようなものに等間隔で4つの小さなレンズがつけられ、その下にそれぞれ広角な画角のプレビュー映像が映し出されているものでした。
――見せたいものがあるとおっしゃっていたのはそれですね?
Jeffrey氏:これは今新たに取り組んでいる360度ビデオカメラなんだ。90度ずつ4つのレンズで撮影したものをひとつのSDカードに記録する。感度が高いので夜間の撮影にも対応できる。実は数週間前からキックスターターを開始して、出資者も募っているんだよ。
キックスターター(関連サイト)とは、映画や音楽、アート、ゲーム、テクノロジーなどのクリエイターや技術者がアイデアを公開して出資者を公募し、そのプロジェクトに賛同するパトロンが小口に寄付をする仕組みのファンド・プラットフォームのひとつ。
360度ビデオというと、iPhoneにも取りつけられる半球面ミラー型レンズ『GoPano micro』や、ソニーの『Bloggie』を思い浮かべるかもしれませんが、Google Street Viewで有名な『Ladybug』のように複数のカメラで全方向を撮影し、それらを統合してパノラマにするタイプもあります。今回彼が見せてくれたプロトタイプは後者の小型のものになります。
記録解像度は1280×720ドットですが、半球面ミラー型に比べ複数のカメラを使用したものは画角が広くとれることと、鏡をかませないために画質が良いことが利点としてあげられます。そして、彼がこのカメラで撮影し公開している映像はJeffrey氏のYouTube(関連サイト)で観られます。
ちなみにこのカメラは2000ドルで販売される予定だとのこと。「360度の映像はナビゲーションやプレゼンのツールとして、また記録のツールとして役立っていくはずだが、今はきたるべき世界の序章に過ぎない」と語る、彼の今後に注目です。
■関連サイト
360cities
(2012年11月1日19:20追記)記事初出時、Jeffrey Martin氏の紹介で360citiesの“CEO”と記載していましたが、正しくは“創立者”です。お詫びして訂正いたします。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります