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Nexus 7日本発売の持つ意味とその影響は? Googleの今後を占う重要な話

2012年09月25日 20時00分更新

 9月25日、『Nexus 7』が日本でも発売された。背面カメラ無し、SDカードスロットなし、3G通信非対応とかなり割り切った仕様だが、高速CPU『Targa3』、16GBのストレージを搭載して1万9800円という価格、iPadの約半分の340gという軽さは、Kindle Fireが未発売の日本にも一定のインパクトを与えそうだ。

 とはいえ、6月には既に海外で発売されていた端末であり、ハードウェアそのもののニュース性は正直高いとは言えない。筆者が注目するのは、同日に開始されたGoogle Playでの日本語電子ブック販売だ。今回の発表で実質的な“新しい話”はこれに尽きると言えるだろう。そして、このことはGoogleの今後を占う“重要な話”でもある。

Nexus 7発表会

 7月の楽天『kobo』の国内サービス開始、またそこにぶつけるかのようにアマゾンは『kindle』の国内サービス開始を近日中と発表した。そこから既に3ヵ月が経過し、何度目かの正直という状況ではあるが、どうやら今度こそアマゾンはkindleを開始する準備を整えたという話が聞こえてくる。

 そんな中のNexus 7と日本語電子書籍の取り扱い開始である。発表会にはGoogleのエリック・シュミットCEOも来日し、みずから端末のプレゼンテーションを行なうなど、その力の入れようがよく現われていた。

kobo Touch

 Android 4.1(Jelly Bean)を搭載するNexus 7は、最新の電子書籍ビューワーアプリを搭載している。これまでGoogle Playで扱われる日本語書籍は画像形式が中心であり、リフロー(フォントサイズや画面サイズの変更によって、自動的に再レイアウトが行われる仕組み)に対応していなかったが、Nexus 7ではEPUB3で提供される日本語書籍の縦組みやリフローに対応している。

 同じくEPUB3を全面採用するkoboが、その取り扱いに苦慮している。書籍タイトルによっては、書籍コンテンツが正しく表示されず、画面が点滅し続けるといった不具合が報告されているが、これはEPUB3による日本語表示がまだまだ技術的にこなれていないことのひとつの表われと言えるだろう。実際、発表会でGoogleのビューワー開発担当者に話を聞くと、EPUB3でサポートしきれてない部分は、ビューワー側で補完を行なったということであった。

 具体的なフォント名は明らかにされなかったが、ビューワーには従来Android端末には搭載されてこなかった明朝体フォントが搭載され、発表会におけるデモンストレーションでは、禁則処理やルビなど日本語独自の組版にもきちんと対応している様子が見て取れた。ただし、ページのキャッシュを使えないジャンプや、フォントサイズを変更した後のリフロー処理についてはやや処理に時間が掛かっているようにも感じられた。日本語の取り扱いについても高い技術力を持つGoogleが、電子ブックの領域において持てる力をどの程度発揮し、チューニングを施していくのか注目しておきたいところだ。

Nexus 7発表会

 しかし、“重要な話”のポイントは実はそういった技術的なことではない。Googleがこの新しい“電子書店”に果たしてここ日本でどのくらいの作品タイトルを集められるのか、その成否こそが電子ブックリーダーとしてのNexus 7、引いてはGoogleのコンテンツ販売プラットフォームの実力を試す機会となる。

 振り返れば、Googleが電子書籍市場に参入するのはこれが初めてではない。2010年には“Googleエディション”を日本でも開始すると発表し、出版社が書籍をGoogleに提供するだけで、Google側でそれをスキャンして電子化し、電子書籍検索サービス“Googleブックス”に登録、販売も可能にするとした。コンテンツも含めたあらゆる情報を自動的、機械的に収集し、インデックス化し、利用可能にすることを社是にしているGoogleにとっては異例のアプローチであったが、残念ながら目立った成果を挙げることはできなかった。

Nexus 7発表会

 本日Google Playには、数社の出版社から提供された書籍やマンガがラインアップされている。Googleは交渉中も含めた出版社数やタイトル数を非公開としたが、現時点ではまだ限られたタイトルがサンプル的に並んでいるという印象だ。果たして、規模の小さい出版社が諸外国に比べ数も圧倒的に多く、それでいて、携帯電話の時代から既に電子書籍を展開している大手とのタフな交渉も求められる日本市場において、Googleがどれだけパートナーシップを構築できるのか、その成果が問われると言えるだろう。

 この構図は、日本国内においてヤフーが依然圧倒的なシェアを持っている状況にも似る。国内ユーザーに対するきめ細やかなローカライズと共に、コンテンツ提供事業者(CP)との関係構築は、一朝一夕に築けるものではないからだ。

Nexus 7発表会

 そして前述のとおり、kindleがいよいよサービスを開始する。米アマゾンのジェフ・ベゾスCEOは、米国での『kindle Fire HD』のプレゼンテーションを、それまでのニューヨークではなくITのメッカ、サンフランシスコで行なった。Kindleを電子書籍を買う端末から、広くデジタルコンテンツを楽しみ、Amazonを経由して消費する入り口として打ち出していこうという意図がそこには現われている。書籍や雑貨といったリアルアイテム販売を流通インフラの整備から整え、消費者の圧倒的な支持を得たアマゾンが、その調達力を背景にデジタルコンテンツ販売にも本格的に参入する段階に入った、という訳だ。

 検索連動型広告以外の収益源をいまだGoogleは開拓できていない。Facebookの興隆はこの広告領域を脅かすのではないかと指摘された(そして、それは今のところそれほど脅威ではなかったことがこのところのFacebookの株価に現れている)が、もうひとつの収益源たるデジタルコンテンツ市場において、果たしてGoogleがどの程度存在感を占めることができるのか? ――エリック・シュミット氏が「世界でも類をみないモバイル活用先進国」とするここ日本で成功できるかどうかが、ひとつの試金石となることは間違いなさそうだ。

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