ピクサー最新作『メリダとおそろしの森』は、中世スコットランドが舞台。マーク・アンドリュース監督に話を伺いました。
マーク・アンドリュース
『メリダとおそろしの森』監督
PROFILE
2000年にピクサー入社。『Mr.インクレディブル』(’04)、『レミーのおいしいレストラン』(’07)のストーリー監修、短編『ワン・マン・バンド』(’05)の共同監督・脚本を担当。本作が初の長編監督。
週アス:ファンタジーで母と娘の物語はとてもめずらしいですね。もともとはブレンダ・チャップマン監督が自分の娘をモデルにされたということですが、その後、アンドリュース監督になってからも大きな変更はなかったのですか。
アンドリュース監督:母と娘の関係性、その関係から生まれる対峙はとてもすばらしいストーリーになると思っていたので、親子の物語を変えようとは考えませんでした。当初の問題点は、主要キャラクターが多すぎて、ストーリーがうまくまとまっていなかったことです。メリダをメインにして、彼女の物語を伝えるために、ひとつの筋道をつくることにしました。
週アス:これがディズニーのプリンセスストーリーだったら、恋の物語になると思うんですが。
アンドリュース監督:今回は素敵な王子様は登場しません。もともとそういう発想はなかったんですね。実際にディズニーはそういう物語をとてもうまくつくりますが、我々としてはほかでもやっていることをやりたいとは思いません。あくまでオリジナルの物語を伝えたい。魔法にかけられるとか、結婚しなくてはいけないとか、類似点はありますが、主人公のメリダはめでたしめでたしのエンディングを求めているわけではないんです。
我々が求めていたのは、人々を鼓舞して、インスピレーションを与えるような、ピクサーとしてのヒーローです。キャラクターをとおして自分自身でいることを伝えています。
週アス:スコットランドの森の情景がすばらしいですね。
アンドリュース監督:スコットランドの風景を絵として表現するには、木やヒース、石、コケ、シダなどたくさんの要素から何がいちばん重要か考えることが必要でした。
シェーディングやライティングに関しては、表現できる技術を我々はもっているので、コンピューターがオーガニックなことが苦手でも、機械にまかせることができます。
この作品は背景に関してアートディレクションを行なっていません。木や草を成長させるソフトを開発して、自然の風景のセットを作成しました。場面によっては岩を動かしたりしましたが、いってみれば、ロケ撮影しているような感じですね。
週アス:メリダのカーリーヘアを描くための技術に3年かかったとききましたが、途中で変更しようとは思わなかったのですか。
アンドリュース監督:あの髪型は、彼女の自由奔放な心や大胆さ、キャラクターを定義する象徴的なものです。あれだけのカールを表現するのは大変なので、たしかに、赤毛のままでボブに変えようという議論もありました。しかし、技術的な実現可能性に頼って作品をつくるとひどいものができあがっていまいます。ほかのスタジオはそれで良しとすることもありますが、ピクサーは妥協を許しません。
週アス:キルトなど、衣装の表現もみごとですが、ジョン・ラセターは「観客は髪や服を見にくるわけではない」と語っています。それでも細部に徹底的にこだわるのは完成した作品に影響があると考えるからですか。
アンドリュース監督:スクリーンに投影されているものが何かがちょっとでもおかしいと感じると、観客は感情移入ができなくなって、気が散ってしまいます。私たちが観客のみなさんに集中してご覧になっていただきたいのは、キャラクターたちの行動や言動です。
私はつねに「技術者たちには透明でいてほしい」と言っています。森や髪や服を描くのは大変な作業ですが、すべてがうまくいくと観客は純粋にストーリーを楽しんでくれるのです。
『メリダとおそろしの森』
スコットランドの王女メリダに結婚話がもちあがる。自由を愛する彼女は厳格な母と対立、城を飛び出し、森へと迷い込む。
●公式サイト
●7月21日よりTOHOシネマズ日劇ほか全国公開
©DISNEY / PIXAR
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