週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

“新しい視点をひとつ増やすため” サカナクション山口一郎氏 インタビュー

2012年05月30日 14時00分更新

 5月30日にニューシングル『僕と花』をリリースしたサカナクション。バンド初となるドラマタイアップの新作についてたっぷりお話をうかがいました。週刊アスキー6月12日号(5月29日発売号)にはプレイリストと愛用品も掲載。併せてチェックしてください!

サカナクションphoto1

本質がにじみ出るようにした

――新作『僕と花』はバンド初のドラマタイアップ楽曲ですね。

山口 制作している段階からすごくドラマを意識していたんです。映像に乗った状態で聴いたら想像以上にポップで、テレビというメディアだと明るく聴こえるもんのだなと思いました。今までと違いテレビ用にミックスやマスタリングをして、歌声が強調されるぶん、トラックよりも曲そのものがもっているポテンシャルが反映されるのかなとも感じました。それに、“やり遂げた感”がすごくあります。

――“やり遂げた感”ですか。

山口 以前の僕からするとドラマのタイアップをするミュージシャンは敵だったんです。そういう人たちへのカウンターとして自分たちの存在に価値観を見出していたし。でも今は、そこに飛び込んだうえで批評をしようとしている。今回挑戦して、いろいろ受け入れてもらえたことは「してやったり!」って。そういう感覚がありました。

――なぜ今回この挑戦をしようと決めたのですか?

山口 Ustreamやツイッターなど自分のメディアを僕は手に入れ、表面的な活動とその裏側、その2つをはっきり受け手に見せることができるようになったからです。ドラマに楽曲提供している僕らと、それとは違う表現で音楽活動をしている僕ら。両方をちゃんと把握してもらえる。そういう時代になったのであえて飛び込もうと思いました。マジョリティーのなかの、マイノリティーになることの意味を具体的に模索できるようになったなと考えています。

――その裏側をきちんと伝えるためにツイッターなどで制作の様子を克明につづっていたのですね。赤裸々に公開していてとても興味深かったです。

山口 公開しない理由はなんなのか? というところが僕にはあって。見せることで曲に対する受け手の感じかたも変わる。ツイッターなどを見る人は完全にこっち側の人間、その人たちに僕らがアプローチしている理由を知ってもらいたいんです。ツイッターって世界に対して公開しているものだけど見ない人のほうが多い。僕自身のフォロワーも全員が見るわけじゃないし、全員が裏を知る必要はないんです。ただ、その中の何割かが見て、そこを受けて発信していく、それが重要だと思っているんです。

 タイアップをすることに対して否定的な意見と、こういう過程でやっているとことをわかっている人がいるバランス感覚。裏も表も知っている受け手の言葉が彼らのメディアを使って発信され理由づけされることで、知らずに批評をしている人は違うんだという統一見解も生まれてくると思うんです。

――新作は今までとは違うフィールド、層へ向けての挑戦ですが、意識したことはありましたか?

山口 無作為にたくさんの人に聴かれるので、歌詞を理解してもらえるよう丁寧に書いたつもりです。それに自分たちの作品でありドラマの一部でもあるということも大事で、注意する点でした。ドラマを意識しながら、僕らの本質がにじみ出るようにしました。また、自分自身の代表的な歌詞の書きかたなどもしました。

 以前に発表した『アルクアラウンド』という曲がロックや音楽を好きな若者に向けたのとは異なり、『僕と花』は音楽自体にさほど興味の無い層にも自分たちを発信するという部分でのわかりやすさを考えたんです。

“目”は“芽”、“花”は“鼻”

――楽曲は“目”を使った印象的なフレーズから始まります。“僕の目 ひとつあげましょう だからあなたの目をください”という言葉はつまりサカナクションが新しい見方を得たいという意志を表わしているのだろうなと。

山口 そうですね。ドラマの曲をつくるのは挑戦だったし、新しい視点をひとつ増やすためだったんです。これをきっかけに僕らの音楽に触れる人たちに自分たちの視点や方向性を提案するかわりに、みんなの考えたかたや視点を手に入れたかった。交換というか、相互関係であるものだなと思ったんです。

――“目”は“芽”という意味もあるのだろうなと思いました。

山口 体の部位を何かに例えて隠喩することは僕はよくやるから。そういう意味で今回、歌詞にある“目”は“芽”、“花”は“鼻”と掛けてあるんです。僕は片方の耳が聴こえなくなってから感覚や直感で物事を決めることが多くなって。自分の感覚はとても大事だし、それがドラマの主人公のもつ感覚や、自分を信じる部分と重なったんです。

 ドラマとの共通点を歌にするのは重要だし。それに、主人公の彼女を“花”として、主人公と彼女の話と言う意味もあるんです。謎解きじゃないけれど、話が進むにつれ、歌詞の内容が理解されていくギミックもあるんですよ。

――ところでカップリングの『ネプトゥーヌス』。こちらと『僕と花』には似ている部分があるなと思いました。


山口 実は2曲はつながっているんです。『僕と花』は社会との関係性を意識して心象風景を描き、『ネプトゥーヌス』はリアルな個の夜、深い時間で、そのなかからこぼれてくる光。1日の流れの中で常に人は考えていて、ハッと閃くときや落ち込むときがある。もやもやしている感覚や、考えて悩んだりしていることに対して僕は信頼感があるのですが、そこがなくなったときのもの悲しさを歌いたいと思っているんですよ。『僕と花』の続編が『ネプトゥーヌス』で第一章、第二章の関係なんです。

――2曲ともに聴いたほうが理解が深まるのはそのためだったんですね。リミックスを含めて3曲収録されたシングル。今後のサカナクションの展開がとても楽しみです。

山口 音楽が好きな人がワクワクするようなこと、どんどん裏側を見せるようなことをしていきたいですね。テレビという大きなメディアで発信したぶん、自分たちのメディアでなにを発信し受け手の血を濃くしていくのかが重要な気がしています。それに自分のもっている音楽的知識をみんなと共有していきたい。“音楽の復興のため”に僕らはやっていきたいと思っています。

――サナカクション自体のメディアにも要注目ということですね。今後本当にたくさんの人たちが音を耳にして、よりリスナーが増えると思いますが。そのあたりは?

山口 おそらく『僕と花』で僕らを知った人たちは次にYouTubeに行くと思います。そこでMVを目にして、間引かれるとも考えています。僕らのMVはパンチのあるものが多いし。ビジュアルで判断している人は離れ、作品性を重視する人は入ってくる気がします。

 自分たちの輪が広がったぶん、無作為に全部いれるのではなく、細分化され、枝分かれしていく物だと思うんです。そういう濾過器的なものがネット上にあることはとても大切で、それがあることで健全に広まっていくんだと考えています。もちろん負の意見も受け入れながら綺麗に濾過していくのが大切ですね。

――全てを受け入れずに濾過していくんですね。

山口 すべては無理だから。ただ、全員に合わせるのではなく、合わせるようなことをやりながら、どこに着地させるのかだと思います。その着地させるためのルートが僕らにとってはMV、そして濾過された先にUstreamが待っていると。そのルートや濾過器が多ければ多いほど母体が大きくなる。今はそういうことを考えていますね。

――なるほど。新たな視点を得てサカナクションの向かう先が楽しみです。

山口 今回、ドラマというチャンスをもらえてとてもうれしかった。今回獲得できる数だったり、年齢層は今までとは比較にならないものがあるだろうし。CDは手にとってもらえなくとも、僕らの名前だけは知っているという人たちがすごく増えると思うんです。そういう人たちも含め今後どうアプローチしていくのかを、ある程度リリースがおわったときに、判断して活動の糧にしていきたいし、自分たちはどう表現すべきかを考えていきたいです。

【ニューシングル】
サカナクション ニューシングル
『僕と花』

新たな一歩を踏み出した先は

ドラマの内容を意識したうえで生まれた新作は、優しくも決意を感じる楽曲を収録。バンドの今後の展開が楽しみだ。
●1200円 ●発売中 ●ビクターエンタテインメント 

【プロフィール】

山口一郎(Vo.&Gtr.)、岩寺基晴(Gtr.)、草刈愛美(Ba.)、岡崎英美(Key.)、江島啓一(Dr.)によるロックバンド。5月31日よりZEPPツアー“SAKANAQUARIUM 2012 ZEPP ALIVE”を開催中。夏フェスにも多数出演予定。
 

●関連ページ サカナクションオフィシャルHP

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります