今期の NFL ではケガで離脱する先発 QB が多く、各チームの戦略に大きな影響を及ぼしています。なかでもテキサンズはエース QB のマット・ショウブが右足の負傷でシーズンエンドになったうえ、あとを継いだ QBマット・ライナートまでもが鎖骨骨折で離脱しました。
今季は初のプレイオフ進出が期待され、現在 8勝3敗で AFC プレイオフ争いでトップに立つテキサンズですが、次の試合は第3 QB でルーキーの T.J. イェイツに託さざるを得ないようです。果たしてテキサンズはプレイオフに到達できるのでしょうか?
●NFL第13週トピックス●
テキサンズが先発 QB を失いながらも堅守で辛勝!
Houston Texans 20 - 13 Jacksonville Jaguars
今季7勝3敗で AFC 首位を走るテキサンズは、右足のリスフラン関節負傷で離脱した QB ショウブに代わり、QB マット・ライナートが先発出場。昨季は試合出場がなかったライナートですが、第2Qには2008年12月21日以来、3年ぶりとなる TD パスを決めるなど、オフェンスをけん引します。
ですがその13プレー後、悪夢がライナートを襲います。自陣 45 ヤード地点からのパスプレーで、DE ミンシーがライナートをサック。カラダを反転させて倒れこんだライナートは鎖骨を骨折し、シーズン終了となってしまったのです。
しかしテキサンズは、あとを継いだ QB イェイツが無難なプレーを見せ、いっぽうのディフェンスはジャガーズに TD を許さず、20-13 で逃げ切り。辛くも AFC トップの座を守り切りました。
●エース QB が次々と負傷の異常事態
今期はエース QB が負傷し、試合を欠場するケースが例年よりも多いように見受けられます。ざっと名前を挙げてみても、その多さがわかります。
・負傷でシーズン終了、もしくは休場中
テキサンズ QB マット・ショウブ 右足骨折
テキサンズ QB マット・ライナート 鎖骨骨折
イーグルス QB マイケル・ヴィック ろっ骨骨折
レイダーズ QB ジェイソン・キャンベル 鎖骨骨折
シーホークス QB ターバリス・ジャクソン 胸筋
チーフス QB マット・キャセル 右腕骨折
ベアーズ QB ジェイ・カトラー 親指骨折
・負傷を負いながらプレー中
バッカニアーズ QB ジョシュ・フリーマン 右親指
ライオンズ QB マシュー・スタフォード 右手人差し指骨折
カウボーイズ QB トニー・ロモ 鎖骨骨折
スティーラーズ QB ベン・ロスリスバーガー 左足負傷
ラムズ QB サム・ブラッフォード つま先負傷
タイタンズ QB マット・ハッセルベック 右ひじ負傷
フットボールにおいて、QB は替えが効かないポジションの最右翼に挙げられます。それもあってルールではできるだけ QB を保護するようにしていますが、それでも強烈なサックやタックルを浴びることにより、負傷の可能性は増すのです。
テキサンズの QB ライナートはまさにそのケース。フリーでサックを浴び、なんとかカラダを捻って背後から地面に叩きつけられるのは避けたものの、落ちた角度が悪く、鎖骨を折ってしまいました。鎖骨が折れた状態ではとてもパスは投げられません。
また、QB ならではのケガとして、パスのときに手をヘルメットにぶつけることがあります。なにしろ自軍のオフェンスラインと相手ディフェンスが密集している中でパスを投げるのですから、フォロースルーが誰かのヘルメットに当たることは少なくありません。豪腕 QB のブレット・ファーヴも晩年は、右親指のケガに悩まされていました。
●先発 QB のケガでチャンスをつかむことも
ほとんどのチームでは、先発 QB の離脱は大きな痛手です。その典型が、開幕11連敗と泥沼のコルツ。13年間エース QB に君臨し、チームを2回のスーパーボウル出場(うち優勝1回)に導いた QB ペイトン・マニングが首のケガにより、今季は出場できていないのです。
いっぽうで、エース QB のケガを乗り越えるチームもあります。たとえば 2008 年のペイトリオッツは開幕戦で、QB トム・ブレイディが足首を骨折してシーズンエンド。先発経験のない4年目 QB のマット・キャセルが後を引き継ぎました。
するとペイトリオッツはまるで、ブレイディ不在の影響がなかったがごとく勝ち星を重ね、11勝5敗の成績を残しました。この活躍が評価され QB キャセルは翌年、チーフスと6年間・62.7ミリオンという巨額の契約を手にし、現在も(負傷するまでは)エース QB として活躍しています。
※ちなみに2008年のペイトリオッツは、11勝を挙げたのにプレイオフに進めなかった史上2番目のチームとなりました。史上初は1967年のコルツですが、当時はワイルドカードがなかったのでどんなに好成績でも地区優勝しないとプレイオフに進めないシステム。ワイルドカードにも残れなかったペイトリオッツはまさに不運でした。
ちなみにキャッセルにチャンスを与えたトム・ブレイディも、2001年に QB ドリュー・ブレッドソーの負傷退場でチャンスをつかんだ人物。第3戦から先発を務めると、11勝5敗でプレイオフに進出。そのままスーパーボウルまで勝ち上がり、絶対有利と言われたラムズに競り勝って、王座に就いたのです。
さらに言うと、そのスーパーボウルでブレイディに屈したラムズにも、同様にケガでチャンスをつかんだ QB がいました。その名はカート・ワーナー(ウォーナーとも)です。
ワーナーはアリーナ・フットボールでもプレー経験があり、一時はスーパーマーケットで陳列のバイトもしていたという苦労人。1999年シーズンは第2 QB としてチームに参加していましたが、プレシーズン戦で先発 QB のトレント・グリーンがハムストリングス断裂の大けがでシーズンエンドとなり、開幕戦からエース QB を務めることになります。
NFL 初先発のワーナーは、その強肩を生かしてズバズバとパスを投げ、チームを開幕6連勝に導きます。その後も、WR アイザック・ブルースとWR トリー・ホルトとのホットライン“ワーナー・ブラザース”の活躍で快進撃を続け、13勝3敗の成績を引っ提げてスーパーボウルにまで進出します。
QB ワーナーによるパス中心のオフェンスは、“グレーテスト・ショー・オン・ザ・ターフ”( ターフは人工芝の意、本拠地のトランスワールドドームが人工芝だったため )と呼ばれ、その後の NFL に、バーティカル・ストレッチ・オフェンス( 長いパスで相手ディフェンスを縦に引き延ばす戦術 )を流行させたほどです。
そしてラムズはタイタンズに競り勝って、ジョージアドームで開催された第34回スーパーボウルに勝利。当時のオーナー、ジョージア・フロンティア氏の名にあやかり、「 take Georgia to Georgia 」を完遂させたのです。
●選手の縁は巡り巡る
その後ワーナーは、カーディナルスに移籍。2008年シーズンにはライバルを押しのけて先発 QB に抜擢され、またもやチームをスーパーボウルにけん引します。異なる2チームでスーパーボウルに進出したのは、クレイグ・モートン(カウボーイズとブロンコズ)に続き、史上2人目の快挙となりました。
そのワーナーに先発の座を奪われた QB こそ誰あろう、先週の試合で負傷したテキサンズのQB マット・ライナートなのです。カーディナルスのスーパーボウル出場シーズン、ライナートはワーナーの控えとして4試合に出場し、1TDパスを決めています。それが最初のほうで触れた2008年12月21日のペイトリオッツ戦だったのです。
そしてその時に対戦した QB は誰あろう、マット・キャセルです。奇しくも今季負傷した QB 2人は、3年前に直接対決していたのです。試合は 47-7 でペイトリオッツが大勝しています。
●テキサンズはプレイオフまで走り切れるか?
さて、ルーキー QB の T.J. イェイツに運命を託したテキサンズですが、悲願のプレイオフ出場は達成できるでしょうか? 残りのスケジュールを見るとパンサーズとコルツには勝利する可能性が高く、10勝には達しそうです。
いっぽうで地区2位のタイタンズ(6勝5敗)は、テキサンズを上回るには残り試合全勝が必要となり、かなり厳しい状況。仮に10勝で並んだ場合、地区内対戦で上回るテキサンズが地区優勝します。よって、ルーキー QB がいきなりプレイオフに進出する光景を見ることができそうですね。
さらに、もしかしたら QB イェイツが未来の大器という可能性すらあります。キャセルやワーナーのように、ケガでチャンスをつかんだ QB に名を連ねられるのか、注目していきたいところです。
●今週の余談
異なる2チームでスーパーボウルに出場。これは選手にとっては大きな勲章と言えるでしょう。QB では前述のとおり、クレイグ・モートンとカート・ワーナーの2人だけ。しかもモートンはカウボーイズ(第5回)とブロンコズ(第12回)の両方で負けていますので、片方だけでも勝利したのはワーナーただひとりです。
これまで偉大な QB の多くが、2チームでのスーパーボウル出場を目指してきました。その夢に大きく近づいた例としては、伝説的 QB のジョー・モンタナと、豪腕 QB ブレット・ファーヴの2人が挙げられるでしょう。
モンタナは 49ers で4回ものスーパーボウル優勝を経験。第16回、第19回、第23回、第24回ですから、なんと9年間で4回の優勝です。これは2000年代のペイトリオッツを上回る、一大王朝を築き上げたと言っていいでしょう。
ですが後輩のスティーブ・ヤングに先発 QB の座を奪われると、チームに大事にされていないと感じたモンタナはトレードを要求。その結果として1993年、カンファレンスの異なるチーフスに移籍します。ここでチームを13勝3敗の好成績に導き、AFC チャンピオンシップに進出を果たします。
しかしこの試合でモンタナは、第3Qに負傷します。パスを投げ終わったところを背後から DE ブルース・スミスにタックルされ、脳震とうを起こしたのです。結局モンタナは退場し、スーパーボウルへの夢は潰えました。
いっぽうのファーヴは、パッカーズのフロントと揉めに揉めたうえで2008年にジェッツに移籍。さらに翌2009年、パッカーズへの復讐を胸に、同地区ライバルのヴァイキングスに移籍します。
この年、パッカーズとの直接対決に連勝し、チームは NFC チャンピオンシップに進出。QB ドリュー・ブリーズ率いるセインツと対戦します。この試合は息詰まる展開で終盤までもつれますが、28-28 の同点で迎えたヴァイキングスのオフェンスで、ファーヴは痛恨のインターセプト。FG を蹴っていればサヨナラ勝ちという局面で、欲張ったファーヴの手から勝利がこぼれ落ちました。
しかもファーヴはこのプレーで負傷し、最後はオーバータイムでセインツが決勝 FG を決め、ファーヴの復讐劇は完遂せずに終わりを迎えたのです。
■筆者 カゲ■
週アスの芸能デスクかつ NFL 担当。日テレ水曜深夜の NFL 中継でフットボールにハマり、1996年シーズンから現地観戦を開始。これまでレギュラーシーズンはファンとして 15 試合、取材では3試合を観戦。スーパーボウルは第40回大会から6回連続で取材している。好きなチームはグリーンベイ・パッカーズ。QBアーロン・ロジャーズが初めて公式戦に出場した瞬間をこの目で見たのがジマン。なお週刊アスキーは、専門誌を除く日本の雑誌メディアでは唯一、スーパーボウルを現地取材しています。
(了)
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