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【スーパーボウルまで追っかけ隊】QBティーボウの100ヤードランが炸裂!

2011年11月09日 23時21分更新

 NFL連載6回目は、デンバー・ブロンコズのQBティム・ティーボウに注目しましょう。フロリダ大で史上初の2年生ハイズマン受賞者となったティーボウは、プロでもその実力を発揮しています。

●NFL第6週トピックス●
ブロンコズが好調レイダーズにオプション戦術で勝利!

 今季2勝5敗と不調のブロンコズは、注目の2年目QBティム・ティーボウが先発。彼がフロリダ大学自体に慣れ親しんでいたスプレッド・オプションを採用することで、同地区ライバルのレイダーズに 38-24 で勝利を収めました。

 昨年のドラフト1巡(全体25位)指名でブロンコズに入団したQBティム・ティーボウは、ルーキーながらジャージの売り上げがいきなりリーグトップになるなど、まさに鳴り物入りでプロ入りしました。

 その人気と全米大学王者2回という実績のわりに指名順が全体25位と遅かったのは、ティーボウがプロ向きではないと評されていたからです。実際、ブロンコズが指名した時も「まさか1巡で指名するとは」という驚きの声も上がっていたほどでした。

 この「プロ向きではない」という評価は、カレッジで活躍した QB に対し、よく使われる決まり文句でもあります。その理由は、カレッジとプロではオフェンスの戦術が大きく異なるため、カレッジの戦術にフィットした選手は、プロでは実績を残せないということなのです。

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ブロンコズのエースQBティム・ティーボウ。カレッジ史上初めて、シーズン20TDパスと20TDランを同時に達成した、モバイルQBだ。

●カレッジで多用されるオプション戦術

 カレッジフットボールでは、多くの大学で“オプション”というオフェンス戦術を採用しています。選択肢という意味のとおり、オプション攻撃では QB が相手ディフェンスの陣形を読んで、ランにするかパスにするかを選択します。その戦術でプレーする QB を“オプションQB”と呼ぶこともあります。

 いっぽうのプロ(NFL)では、パスならパス、ランならランと最初からプレーが決まっていて、よほどプレーが崩れない限りは QB はじっくりと相手ディフェンスの出方を見て、レシーバーにピンポイントのパスを投げます。

 とくにパスプレーでは、相手ディフェンスのプレッシャーをラインメンが必死に防ぐあいだ、QB はポケットと呼ばれる自分のポジションに留まって、レシーバーを探します。こういったスタイルの QB は“ポケットパッサー”と呼ばれ、サックを恐れない強いハートと、わずかな動きでサックを避けるステップが要求されるのです。

 ちなみにポケットパッサーのランはスクランブル(緊急発進)と呼ばれ、相手から逃げるための苦肉の策とされています。いっぽうのオプションプレーでは、QB 自身もランプレーの主要なプレーヤーであり、ときには最初から QB が走るようにデザインされたプレーも少なくありません。

 ですが、QB が積極的にランに出れば、強力なタックルを浴びて負傷する危険も高まります。カレッジなら控えの QB がたくさんいますが(メジャーカレッジでは7番手くらいまでいます)、プロではせいぜい2番手まで。エース QB の負傷は即、チームの危機に繋がります。そのためプロでは、オプションを採用するチームはほとんどありません。

 ところが先週、ブロンコズはあえて、このオプション戦術を採用。自分が慣れ親しんだ戦術を得た QBティーボウ はまさに水を得た魚となり、キャリアハイとなる12回、118ヤードランを決めました。フロリダ大学在籍時でさえ、ティーボウの100ヤードゲームは4年間で5試合のみ。いかにオプションが有効に働いたかを示したと言えましょう。

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ブロンコズの地元紙デンバー・ポストには、ティーボウの入団時から“Tebow Watch”というコーナーを設置。ファンが注目するティーボウの一挙手一投足を報じている。

●オプション戦術の伝道師は全米大学王座2回の名将

 さてこのオプション戦術、カレッジではたしかに一般的な戦術ですが、近代的な戦術に発展させたのは、フロリダ大学でヘッドコーチを務めたアーバン・メイヤー氏です。

 そのメイヤー氏はまさにティーボウを武器に、全米王座を2回獲得。いまではメイヤー流のオプション戦術は全米で流行しており、プロでもそのスキームを取り入れるチームが出てきました。実は 2007 年にレギュラーシーズン16戦全勝を達成したペイトリオッツも、そのオプションを取り入れたと言われています。

 オハイオ州立大学出身のメイヤー氏は、ノートルダム大学のアシスタントコーチを務めていた1996年~2000年に、オプション攻撃のアイデアを磨きました。2001年には中堅校のボウリングリーン大学でヘッドコーチに就任。そこで全米3位となる平均40得点を挙げ、一気に注目を浴びます。

 そして2003年には、上位校のユタ大でヘッドコーチに就任。2004年には平均45.33得点、520ヤードという爆発的なオフェンスを構築し、無敗シーズン(12-0)を達成します。残念ながら所属カンファレンスが強豪ではなかったため全米王座決定戦には進めませんでしたが、チームは全米4位に躍進しました。

 ちなみに、このときのエース QB は、現 49ers のアレックス・スミス。2004年にはパスで2952ヤード、32TDパスを決め、ランでも631ヤード、10TDランを挙げています。いまはプロで本格派のパッサーとされるスミスも、カレッジでは立派なモバイル QB だったのです。

 このように実績を積んだメイヤー氏は、満を持して有力校のフロリダ大学に移籍。自らが完成させたスプレッド・オプションを武器に、2006年と2008年に全米王座を獲得しました。そのスプレッド・オプションは、次のような特徴を持ちます。

■常にオフェンスとディフェンスの人数を比較し、プラスかマイナスかで考える。

■オフェンスの隊形を横に広がるスプレッド隊形にすることで、ディフェンスの選手が孤立しやすくなる。

■狙うエリアにいるディフェンスの人数よりオフェンスのブロッカーのほうが多ければ、プラス1と考える。

■特定のエリアに5人のディフェンス選手がいるならば、5人以上のブロッカーを送りこめば人数で勝つことができ、フリーになる選手が生まれる。これがスプレッド・オプションの基本となる。

●プロでも機能したスプレッド・オプション

 11月6日のブロンコズ対レイダーズ戦ではまさに、この特徴に沿ったシーンが数多く見られました。

 たとえば、RBウィリアム・マゲイヒーが中央突破から 60 ヤードの独走 TD ランを奪ったシーン。ブロンコズが左に TE をセットしてラインをタイトにするなか、4-3 のレイダーズはラインに DL 4人と LB 1人(ウィークサイド)がセット。MLB はパスを警戒して後ろに下がり、右ワイドにセットしたストロングサイド LB はスナップとともにブリッツに入ります。

 この時点で、ランでの中央突破はオフェンス6人対ディフェンス5人となり、ランが進む条件が揃いました。スロットバックの位置にセットした RB マゲイヒーは、ショットガン隊形の QB ティーボウからハンドオフを受けると、迷うことなく左のオフセンターに突進。

 さらにセンターのウォルトンが好ブロックで MLB のブロックも受け止め、そこにポッカリ空いたホールを突いた RB マゲイヒーは、DB を振り切って独走 TD を決めました。

 この日は QB ティーボウのランも冴えます。たとえば RB マゲイヒーにハンドオフをフェイク。マゲイヒーを止めようとディフェンスが中央に集まった時点で右に抜け出し、あっさりファーストダウンを更新するというシーンが随所に見られました。

●ティーボウはプロでも活躍し続けられるか?

 この手のプレーは、前述のようにエース QB のケガを嫌う NFL では、決してメジャーな戦術ではありません。もちろん裏をかいたので成功したという面もありますが、そのぶんティーボウをタックルの危険にさらしているとも言えます。

 ただティーボウは、フロリダ大学時代からこの戦術に慣れており、敵のタックルを交わす技術も身に付けています。実際、レイダーズ戦の第4Qでは、ファーストダウンを獲得した後、自らベースボールスライディングでダウンし、タックルを受けないようにしています。

 そんなわけで少なくともこのレイダーズ戦では、スプレッド・オプションがプロでも有効であることを示しました。もちろん、戦術を深く理解している QB ティーボウの能力あってこそですが、RB マゲイヒーのような信頼できる RB がいるチームでは、スプレッド・オプションはよりその実力を発揮すると言えましょう。

 ティーボウの前任者である QB カイル・オートンは、いかにもプロ向きのポケットパッサーでした。ただパスで勝ち抜くためには、しっかりと QB を守れるオフェンスラインと、複数の実力派 WR が必要です。残念ながら現在のブロンコズでは、オートンのようなタイプが活躍する素地にはなっていなかったのかもしれません。

 ブロンコズはおそらく、来週以降もスプレッド・オプションを展開し、QB ティーボウを自由に走らせるものと思われます。カレッジよりはるかに速くて強烈なタックルを切り抜け、ティーボウが負傷することなく活躍するシーンを見続けたいものです。

●今週の余談

 カレッジフットボールは、プロフットボールの NFL と不可分の関係にあります。なかでもユニークなのは、コーチたちが カレッジと NFL を行ったり来たりする点です。

 それが可能なのは、カレッジのコーチでも高額のサラリーがもらえるから。前述のアーバン・メイヤー氏が 2005 年にフロリダ大学のヘッドコーチに就任したときは、7年間1400万ドル、すなわち1年200万ドルというプロ顔負けの契約を結んでいます。

 しかも全米王座の実績を積んだメイヤー氏は、2009年に6年2400万ドルで契約を更改。なんと年間400万ドルの高額年俸ですから、これならカレッジと NFL を天秤にかけるのも不思議ではありません。

 そのなかで、ノートルダム大学を全米王座に導いた伝説的なコーチのルー・ホルツ氏は、45年間におよぶコーチ生活のなかで1年だけジェッツのヘッドコーチを務めたものの、コーチ人生のほとんどをカレッジで過ごしました。

 筆者はノートルダム・ジャパン・ボウル2009にて、ノートルダム大学OBチームのヘッドコーチとして来日したコーチ・ホルツに、カレッジの魅力について尋ねたことがあります。ホルツ氏は、若い学生たちをフットボールを通じて教育することに、喜びを感じると話していました。

 いっぽうで、学生の面倒を見なければならないカレッジを嫌い、フットボールに没頭できるプロを好むコーチもいます。某プロチームのオフェンスコーディネーターから2007年、有力大学のヘッドコーチに転身したコーチは、2年間でカレッジのコーチ職がイヤになってしまい、再び NFL のオフェンスコーディネーターに舞い戻りました。

 その某コーチは 48 歳という脂の載った年齢にもかかわらず、現時点でカレッジでも NFL でもコーチ職に就いていません。コーチ職は全米のフットボール関係者にとってあこがれの職業ですから、こんな厳しい現実もあるというわけです。

■筆者 カゲ■
週アスの芸能デスクかつ NFL 担当。日テレ水曜深夜の NFL 中継でフットボールにハマり、1996年シーズンから現地観戦を開始。これまでレギュラーシーズンはファンとして 15 試合、取材では3試合を観戦。スーパーボウルは第40回大会から6回連続で取材している。好きなチームはグリーンベイ・パッカーズ。QBアーロン・ロジャーズが初めて公式戦に出場した瞬間をこの目で見たのがジマン。なお週刊アスキーは、専門誌を除く日本の雑誌メディアでは唯一、スーパーボウルを現地取材しています。

(了)

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