iPadの画面サイズは、対角9.7インチ。タテ197ミリ×ヨコ150ミリなので、日本の文庫本の見開きにピッタリ合わせたようなサイズなのをご存じだろうか? 私の知り合いのデザイナーは、最初に見て「小さいな」と言った。
↑下からiPad2、Galaxy Tab、iPhone4。画面サイズは、それぞれ9.7インチ、7インチ、3.5インチ。 |
いま、スマートフォンやタブレットの画面について、フィロソフィーから大きく2つの勢力ができてきているのをご存じだろうか?
『本を作る男-シュタイデルとの旅』(ドイツ、2010年)というドキュメンタリー映画に、世界一美しい本を作る男、ゲルハルト・シュタイデルという人物が出てくる。錚々たる世界の芸術家たちが全幅の信頼をよせるシュタイデルの技術だが、iPhoneを使って電話で色あわせの相談をやっていた。
職人技に支えられているはずの美術印刷の世界で、なんとなくいいかげんな気もするが、本物の職人ほど合理的な方法を選ぶものだ。いまから30年も前、私は刀の研ぎ師とお話をしたことがあるが、彼はカナダの砥石を使っているといった。実は印刷の色見本も『DICデジタルカラーガイド』というiPhoneアプリになっているのだった。
↑出版の世界ではイロハのDICの色見本帳にあたるiPhoneアプリ『DICデジタルカラーガイド』。 |
要するに、第一の勢力は『iPhone』、『iPad』、『iPod touch』などアップルによるiOS勢力で、機種名を言っただけで画面サイズも色温度などの設定もピタリと決まる。それに対し、第二の勢力は、グーグルによる『Android』で、各メーカーから数百モデルも出ている端末によって、画面サイズ、アスペクト比、液晶の色の設定などがバラバラである。
実は、iPhoneのような第一勢力のほうがいままでのメディア機器ではめずらしかった。第二の勢力というのは、我々がふだん見ているテレビやPCの画面、映画のスクリーンなど、好みの画面サイズや設定で見ている感覚に近い。要するにiOSの世界は、その刷り上がりで買った人にどんなものが届くか分かる紙の世界に近い。つまり、私がシンパシーを寄せる世界だ。
しかし、私の知り合いのデザイナーがiPadの画面を「小さいな」と言ったように、紙の大きさはもっと自由なはずなのだ。
昨年10月、アップルのスティーブ・ジョブズCEOは、同社の決算報告会で、7インチのタブレットは“DOA”(Dead on Arrive=到着時死亡)だと発言した。スマートフォンはコンパクトでなければならないし、タブレットは9.7インチ以上ないとだめだと断固主張したのだ。
これは、毎日、7インチ液晶の『Galaxy Tab』を持ち歩いている私としては、少々げせない。私以外にもITジャーナリズム系には、Galaxy Tabを実用一本で使いたおしている人が何人もいる。ジョブズがなんと言おうが、ふだんから持ち歩いて使うデバイスに、この“バイブルサイズ”(『Filofax』にもある)という選択はありうると思うのだ。
それではなぜ、アップルは、ここまで7インチを否定するのか? 下は、これに関する参考図像である。左はアップルの『Newton』というOSを採用した初代『MessagePad』。これが、右の『Galaxy Tab』を連想させてしまう大きさと重さなのだ。そして、このNewtonを作ったのは、25年前、ジョブズをアップルから追い出したジョン・スカリーなのである。
↑左がアップルの初代Newton MessagePad、右がサムスンのGalaxy Tab。それぞれ114.3×184.2×19.1mm/410g、121×191×12.1mm/382gと、ほぼ同サイズだ。 |
この「Galaxy Tab = いまわしい思い出を想起させる」という説は、87パーセント以上ガセ(意外と低い)と考えていただいてかまわない。しかし、7インチのiPhoneでもiPadでもないデバイスというのは、やっぱりあってよいと思う。それとも、最近、アップルの攻撃対象になっているサムスンが「7インチは売らないよ」とでも言ったというのだろうか?(いままでの経緯からはなさそうだが)。
スティーブ、何があったか私は知らない。私は、10年ほど前に『アップルのやることはすべて正しい』という原稿を書いたこともある男だ。私のブログ、『東京カレー日記』では、iPhoneやiPadを褒め称えることを何度も書いてきた。あなたがiPadで広げたい世界はあのサイズだというのも気持ちとしてはわかる。あるいは、あなたは手裏剣でモバイルの大きさを研究して神の啓示を受けたとでも言うのだろうか? しかし、7インチタブレットはあると思うのだ。
●関連サイト
アップルのやることはすべて正しい
http://www.nttdata.co.jp/diary/diary2003/05/20030512.html
東京カレー日記
http://blogmag.ascii.jp/tokyocurrydiary/
スティーブ・ジョブズはどこにでもいる
http://research.ascii.jp/elem/000/000/066/66264/
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