GoogleによるMotorolaの買収、AppleとSamsungの戦い、伸びる中国勢、など携帯電話業界を取り巻く環境は目まぐるしく変化しています。その中にあって、黙々と特定の層向けに製品を作っているメーカーもあるのです。それが富裕層向けの高級携帯メーカー、VERTU(ヴァーチュ)。今回、そのVERTUの1モデルを入手しました。
なんて書くとちょいとお店に行って買ってきた、って簡単なイメージを与えてしまいますが、超高級ブランドのVERTUだけに購入まではひと苦労。入手までの経緯やらレビューを2回に渡ってお伝えしましょう。
高級携帯電話メーカー、VERTU |
VERTUはコンシューマー層向けの一般製品は一切作っていません。端末の価格は最低のラインでも数十万円、上は数百万円はおろか一千万円台のモデルもあるなど、一般人が買うことは想定されていないレベルです。
これだけ高いのだからさぞかし機能もすごいのだろうと思いきや、スマートフォンは1種類のみで(2011年7月現在)、しかもその製品はラインナップの中では下の部類に属します。メイン製品はフィーチャーフォンであり、しかも特にこれといった機能は搭載していません。
一方で本体素材は金属を採用したしっかりとした作りになっています。金や銀を使ったモデルもありますし、ダイヤモンドを散りばめた製品などは“高い宝石を使っただけの携帯電話”と思われるかもしれません。ですがVERTUは“その程度の製品”ではありません。目の肥えた富裕層から支持を受けるだけの“本物”を作り続けているのです。
本体内部もステッカーではなく刻印表示 |
1台1台手作りの作り込まれたボディー、ベアリングを内蔵し数千回押してもぐらつきがこないキーパッド、セラミック製で傷のつかないスピーカー部分、サファイアグラスで保護フィルム不要のディスプレイグラスなど、VERTUの本体には“高級”というよりも“質感の優れた”素材が惜しげもなく使われています。スピーカー音質もまるで音楽プレーヤー。ベースだけでも高いパーツを組み合わせているのですね。
そしてそのベース上に高級な素材や宝石を組み合わせることで、富裕層が納得して購入できる製品を作り出しているのです。海外市場では同社製品の売れ行きは好調。いったいどんな人が買うんだろうと思われるでしょうが、高級腕時計や高級車のように、高級携帯電話を買う層というものが世界中には一定数存在するのです。
Nokiaのプレミア、8800シリーズ |
そもそもVERTUという製品は世の中にいきなり出てきたわけではありません。携帯電話の世界にも高級な素材を利用したプレミアモデルという存在が昔からあったのです。
金属ボディーの採用や美しいフォルムのデザインなど、持っているだけでも満足感を与えてくれる製品、その代表例がNokiaの8800シリーズで、ほぼ毎年、高級感ある製品がこれまでリリースされてきました。
初代のモデル、Nokia 8810こそ金属メッキのプラスチックボディーでしたが、アンテナレスと10キーが隠れるスライドボディーは20万円とも言われる価格が示すように“携帯界のポルシェ”とも言われたほど。その後はステンレスボディー採用で坂本龍一が着メロをアレンジしたNokia 8800シリーズとしてプレミア感をアップするなど、機能ではなく質感にこだわった製品として一定のファンを増やしていきました。
でも、いい製品でかつ高級だからといって、数十万円の製品を普通のお店が取り扱うのは困難です。Nokiaのブランドで売る以上はキャリアや家電店で販売されますし、Nokiaはエントリーの安価な製品もありますからNokiaそのもののブランドにプレミア感を持たせることは困難です。そこで高級・本物素材・富裕層向け、という特定のターゲットに絞った製品を作るべく、VERTUが別会社として生まれたわけなのです。
携帯天国な香港でハマル |
さて筆者は1998年から香港に住んでいます。日本にいたころからモバイル好きでしたが、そのころはまだiモードも始まったばかり。当時のモバイルといえばPalmなどのPDAや、LibrettoなどのスモールPCを指していました。
そんなモバイル好きが携帯電話の天国とも言われる香港に住み始めてしまったのだから大変です。あっという間に海外携帯電話の虜になってしまいました。
香港は世界中から携帯電話が集まってきます。最新モデルも輸入品としてガンガン入ってきますし、型落ちの旧モデルが格安だったり、中古屋やジャンク屋に行けば500円で幻のモデルが入手できたりと、携帯好きには恐ろしい国なのですね。
気がつけば海外携帯を買い集めてしまい、コレクションが900台以上も集まってしまいました。当然サイフの中身はいつもすっからかんです(笑)。
そしてVERTU誕生 |
そうやって世界各国から販売される様々な携帯電話を買っていくうちに、最新のハイエンドスマートフォンだけではなくシンプルで質感の高いプレミアムな製品にも興味が沸くようになっていました。
携帯電話は確かに機能は重要ですが、その一方で「今日は通話とメールだけでいい」なんて時は質感の高い1台を持ちたくなるわけです。そのため、スマートフォンを買う一方で、Nokiaのプレミアも毎年新機種が出るたびに買い揃えていました。
そして2002年、VERTUが誕生。でも最低モデルが100万円と、一般人の筆者が入手するのは絶対無理。
ただ、幸いなことに香港にあるVERTUショップは高級デパートなど一般人でも入りやすいところにもあるので、ショーウインドーを眺めによく立ち寄ってはため息ばかりついていました……。
VERTUが日本から撤退だなんて…… |
そのVERTUが2009年に日本市場に参入を開始。しかも日本語モデルも投入されたということで実用機としても使える製品が登場したのです。またVERTUのラインナップも上位モデルのSignatureだけではなく、Ascent、Constellationとより低価格なモデルも登場。
日本へ帰国のたびに三越や銀座のVERTUのお店に立ち寄っては、購入すべきかどうかいつも悩んでいたものです。
しかし2011年7月、VERTUが日本を撤退するというではありませんか。海外では好調な状況を知っているだけに「な、なぜなんだぁ!」という驚きと共に、「こりゃなんとかしなくちゃならない!」と焦燥感が沸いてきました。
海外へ行けば今でもVERTUは普通に買えます(お金があれば、ですけどね)。でも日本語モデルのVERTUは今後買えなくなっちゃうわけです。
残された時間はわずか。その間に決断しなくてはなりません。スマートフォンのハイエンドモデルは10万円以下ですが、それですら毎月悩んでいるというのに、VERTUは下のモデルでも100万円クラス。
「どうするんだ、オレ!」と悩むこと数十日。人生一度だけ。悩むくらいなら行動に出るべきです。
悩んだ結果…… |
後悔はしていません。いや、実は後悔どころか無理してよかったと思っています(笑)。そんなわけでVERTUのどんなところに魅力があるのか、買ってよかった点はどこなのか、それはこの続きでご紹介しましょう。
山根康宏さんのオフィシャルサイト
香港携帯情報局
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