8月3日(水)に北京で開催されたファーウェイの新製品発表会のあと、グループインタビューの形で30分ほどの直接取材する機会が得られた。
ビクター・シュ(Victor Xu)氏は、ファーウェイ端末を語る上でのキーマンと言える人物で、'98年の入社以来、Computer Information System部門の副社長、ヨーロッパのテクニカルセールス部門の副社長を歴任してきた人物。現在はチーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)の立場にある、まさに幹部中の幹部だ。
この取材の模様をロングインタビューとしてお届けする。
●ファーウェイの成長目標――今後5年で携帯でもトップに
「まず日本は、ファーウェイにとって非常に大事な市場だと思ってます。これまでもPocket WiFiやデータ通信カードでは、日本の市場で非常に良い成績を収めてきました。
今後についても、4GとかLTEといったあらゆる商品を日本市場に向けて提供していきたいと思っています。
日本のモバイルブロードバンド市場は、我々から見ると世界の最先端を走っている市場であって、その市場の中で――オペレーション上も、商品開発上もそうですが――ある意味、いろいろと勉強させていただいた。そういう意味でも、日本は重要な市場です。
日本においては、いままで主要キャリア、オペレーター各社さんとお付き合いさせていただいていますが、今後はさらにいろいろな領域のパートナーとの提携、コンテンツプロバイダーとの提携もしていきます。(発表会に中国版モバゲーを出展していた)DeNAさんとは、実は水面下で色々な話を進めています。
↑北京での新スマートフォン『Vision』発表会に登壇したビクター・シュ氏。手に持っているのは、ホワイトのMedia Padと思われる。 |
具体的にビジネスの数字を申し上げましょう。引き続きグロバール戦略を推進していくことは変わりません。
今後3~5年のスパンで各ラインナップについて見ていくと、まずモバイルブロードバンド商品に関しては、引き続き業界トップを維持し続けます。
また、ホームデバイスについては、リーディングポジションをキープすることが目標です。
そしてハンドセット、つまり携帯電話の領域ですが、これは5年以内に世界のトップ3のベンダーになることを目指しています。
その目標を実現するためには、さまざまな戦略が必要だと考えています。例えばコスト戦略もその1つ、また品質戦略もその1つです。いままではミドル&ローレンジの製品が中心でしたが、これからはローエンドだけではなく、ミドルレンジ商品をさらに増やし、フラッグシップも増やし、全領域の製品を通じて、われわれの領域を増やしていきたいと考えています。
また、販売においては、グローバル市場の140カ国以上、500のオペレーターさんとの付き合いがあります。今までのオペレータービジネスに加えて、直販によるEコマースも視野にいれて開拓していきたいと思っています。
ひとつの目標としてはこれから3〜5年かけて、現状の販売チャネルの売り上げシェア(30パーセント)を、45パーセントにおしあげることを目標としています。
そして“ブランド戦略”も重要です。(ファーウェイという名前は)ケータイのブランドにおいては、ブランド認知が低い状態にあると我々は認識しています。調査によると、グローバルでは、約20パーセント程度の認知度ですが、今後はその数字を80パーセント程度まで持って行きたいと考えています。
その目標を実行するためには、ブランドの構築をしなければなりません。当然、各国の市場調査も不可欠だと思います。もちろん、製品を通じたユーザー体験を増やすことによって、我々のブランド価値を創造することも考えています。
実は、日本市場の売り上げは、中国、アメリカに次いで、第3位の市場になっている大きな市場です。従って、今後の製品戦略を考える上でも、トップ5に入る市場になると思います。
先ほども申し上げたように、日本は非常に高品質な市場なので、日本に受け入れられることは、そのほかのマーケットにおいても、品質の証明のひとつになると捉えています。
今後の商品については、フラッグシップ商品で牽引して、ミドルレンジ、ローエンド商品を普及させていきたいと考えています。
本日発表・展示した『Vision』と『MediaPad』については、いつ発売できるかは明言できません。ともかく非常に良い商品だと自負してますから、こうした商品を通して、日本のコンシューマーにも、より良いユーザー体験を提供できればと考えています。」
↑インタビュー会場に置いてあったVisionの実機。裏返すと、なんと素材色が違うものだった。同じアルミの素材感を活かしながら、右はグレー。テスト段階で検討されたカラバリなのだろうか? |
【質疑応答】
●自社のブランディングについて
自社のブランディングを考えるにあたって、例えば“○○らしさ”をどう獲得していくのか、という問題は“無料で誰でも使える・作れる”ことが特徴のAndroid OS搭載製品を扱う全スマートフォンメーカーに共通するテーマといえる。
素の状態で搭載しているだけでは、外観のデザインやスペックの違い以外に独自性を出せず、一歩間違うと泥沼の価格競争に巻き込まれてしまう。これについては、ビクター氏は次のように考えているようだ。
「OSについて、いままではAndroid1本でやってきました。そのなかで一部機種については世界初の発表がいくつかありました。たとえばAndroid2.2の世界初は弊社の『IDEOS』でした。そして、世界初のAndroid3.2端末も発表しました。『MediaPad』です。
つまり我々は、ただソースコードを受け取るだけのメーカーではありません。Google陣営に対して貢献もする存在だと認識しています。
OSというのは製品のバリューチェーンに大きく影響するものですから、市場のトレンドを見て慎重に考えていく必要があります。また、コンシューマーにとって重要なのはOSではなく、UI(インターフェース)やUE(ユーザー体験)です。
我々は、UIをとおして、ファーウェイらしさを出していくことが非常に大事だと思っています。美しく、簡単に使えて、シンプルなUIを開発することが目標です。
また当然、今日発表した『Cloud+』サービスと連携したUIの開発というのも念頭に置いています。」
●まとめ——隠れた巨人が動き出す2011年
↑インタビューの最後は囲み取材に。デュアルコアやクアッドコア搭載機の開発については、ユーザーにとってはフィーリングこそが重要で、スペック重視のみのマルチコア競争には意味がない、という実際的な意見を述べた。Visionについては日本への市場投入に前向きな姿勢も感じられた。 |
このほか、インタビューの最後では、日本国内への投入を期待したい7インチ液晶のMediaPadに関連して、10インチモデルの開発を進めていることが明言され、またIDEOSが世界70ヵ国で100万台以上の出荷実績があることも明らかにされた。
日本では通信キャリアの影で目立たないOEMメーカーという印象が強いファーウェイ。だが、冷静に周辺の数字を見れば見え方がまったく変わってくる。
例えば全社員11万人のうちの約半数が技術者(!)という強力な開発力をもつ企業で、また他方では中国で第2位の売り上げを誇る巨大企業、さらに中国では通信機器メーカーのトップシェアでもある。
そして驚くことに、今年のスマートフォンの販売目標は“1000万台”だそうだ。
これまでは、ある意味で“隠れた巨人”だった彼らが“ブランディング”という言葉を口にしはじめた。この事実は、通信業界、とりわけその日本企業にとって大きな出来事だと感じざるを得ない。
彼らが発表したCloudサービスは、アップルのiCloudの二番煎じとも表現できる。しかし一方で、日本企業が同じグランドデザインを描いて、このスピード感で実行できるか? と想像すると、そう簡単にはいかない気がするのも、また正直なところだった。
↑発表会場では展示がなかったアクセサリー群もあった。右から、レザーのVison保護ケース、袋状になった保護ケースと、その絵柄違い。また左上のVisionには、よく見ると画面保護シートが貼ってある。いずれも販売前提の製品。 |
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