『鏡音リン・レン』の追加ライブラリとなる『鏡音リン・レン Append』が発売。鏡音リン・レンは、少女のリン、少年のレンという双子の声がワンセットになったボーカロイド。今回のAppendにより、力強い声やウィスパーボイスなど、それぞれ3種類ずつバリエーションが増え、曲のイメージに合わせて表現を選べるようになった。
最初のパッケージが登場した2007年12月27日より、ちょうど3年という日に登場したAppendは、どんな雰囲気で収録されたのだろうか? 今回は鏡音リン・レンの声優、下田麻美さんにインタビューを実施。途中からスタジオ入りしたクリプトン・フューチャー・メディアで一連のボーカロイド製品を担当する、佐々木渉氏にも同席いただき、開発秘話をうかがった。
──鏡音リン・レンが店頭に登場してからもう3年ですね。
下田 そうですね。発売からは3年ですが、実際に収録したのは3年半弱ぐらい前です。その時点で、初音ミクがブームになっていたのを覚えています。最初に収録したときは、あくまで仮歌作成用のソフトだというお話でした。だから音楽業界の方、音楽を趣味とされる方に、楽しまれるDTMのソフトだと思っていたのです。
それがまさか3年目に突入してもものすごい勢いで愛されるキャラクターに発展するとは。「こんなことってあるんだな」と、本当にびっくりしています。今になっても完全に自分の手を離れて、知らないところでCDがいっぱいリリースされていたり。初音ミクでは、オリコンでCDが1位になったり、セガさんが発売した音楽ゲームが人気だったり。コミケとかに行って、コスプレイヤーのほとんどがボーカロイドだったことも驚きました。
──コミケにも行かれたりするんですか?
下田 よく行くんです。大好きなんです。
──みんなに“中の人が来たって”バレてしまいませんか?
下田 変装していくので大丈夫です(笑)。本当に国民的キャラクターの一人になったんじゃないかなぁというふうに思ってますので、関わった身としてこんなに嬉しいことはないなという気持ちでいっぱいですね。4年目も5年目も彼女たちに新しい出会いが続いていって、それをお祝いしていけたらな、というふうに感じています。
──リン・レンの声を当てたところで、変わったことってありますか?
下田 小学生とか、子供からお手紙をいただくことが増えました。
──小学生が聞いているんですか?
下田 今は子供もネットをする時代ですからね。「学校でもみんなで聴いてます」とか、「私は放送部なんですが、休憩時間に流したりしてます」とか、そういうお便りをいただくことが増えました。ニコニコ動画などを通してボーカロイドの曲を聴くっていうのは、学校でブームになっているみたいなんです。
イラストとかもよくいただきます。でも私は元の声を吹きこんでいるだけなので、「ごめんね、私が歌ってるんじゃないんだ」っていう気持ちもあるんですけどね。
──そもそも、リン・レンという名前は何に由来するんでしょうか?
佐々木 それはですね……。2007年の最初の収録時には、まだ名前が決まってなかったんです。その現場で下田さんが昔のアニメが好きで詳しいこともあって、たまたま『北○の拳』の話になったんです。で、作中に“リン”ってキャラクターが出てくるじゃないですか。その話になって、「その場のノリで、リンが喋った!ってシーンの話になったりして、もう、リンとケンでいいじゃないかー」って。
──えっ!
下田 ホント、相手がバットだとストレート過ぎるので、リンとケンでいいんじゃないか、とか(笑)
佐々木 北海道には“Shuren The Fire”という実力派のラッパーがいて、“シュレン”という『○斗の拳』のキャラクターをオマージュしているんですよね。そういうオマージュに慣れすぎているのもあるかもしれません。
下田 実は発売直前まで知らなくて、ある雑誌のインタビューを受ける前に「リンとレンです」ってクリプトンさんから聞いて、「ケンじゃなくてよかったと」安心しました。同時に「レンっていいじゃん!」って思って。頭文字がLとRになるし、音の響きもいいですよね。
──なんで片方は“レン”にしたんですか?
佐々木 冗談を半分だけ使うんです、いつも(笑)。クリエイトの現場の楽しかったノリとか、臨場感を、プロダクトに反映するのに、冗談とか思いつきを、スパイスにすることがよくあります。
──3年半以上前、最初に下田さんに依頼が来たときは、どういう話だったんですか?
下田 とにかく2人分の声と言われました。1人の人間が声を使い分けている感じが欲しいという。なので、男の子の声と女の子の声を演じ分けられる個性を汲んでくださってキャスティングしてくれたんだなと思って、すごく嬉しかったですね。
──オファーしたのは、ミクが出た後?
佐々木 前です。
下田 ミクの声が藤田咲さんだって決定して、割と間もない頃ぐらいですよね。
──じゃあその頃から双子っていう前提で考えられていたんですか?
佐々木 そうですね。アイドルマスターの動画が人気を集めていたので、「ああ、この双子の人か」って分かってもらいやすかったという。微妙に違うキャラクターとして演じ分けしているのもポイントでした。声優さんでも、そういう微妙な個別の存在に対して意識されていたのが魅力的だったり。
下田 そうですね、双子っぽい役よく演じているっていう方はあまりいらっしゃらないですね。
佐々木 だからこれだけ人気の出た双子と鏡合わせのキャラクターの2つを演じられたら、これからも双子的な仕事が来る可能性はありますよね。
下田 実際、他のところでも演じていたりします。あとアニメ関係者の方でもリン・レンが好きという人って結構多いんです。出演した某アニメでは、第1話の公園にさりげなくロードローラーが置いてあったり(笑)。
──すごい、そこまで広まってるとは。演じわける際、声の使い分けに何かコツみたいのはあるんですか?
下田 うーん、コツは……。あんまり意識してはやらない、感覚的なものなんです。
佐々木 ふっと入っていっている感じはしますよね。
下田 そうですね。感覚的な言葉でいえば、頭のてっぺんから出すのがリン、腹から出すがレンという差ですね。リンは、つむじのあたりから可愛くてブッ飛んだ声を出すイメージ。目をかっと開いて、高い声っていうのは割とその辺で作るんです。逆にレンの低い声はお腹の力で作らないと、しっかり出なくなります。お腹の芯の、下の方を通して喋るとことを意識します。
佐々木 それって聴き手も分かってると思います。リンの声が嫌いな人って、頭に響く、くらくらするって言い方をするんですよ。 元気な女の子がわーって言ってるのを好きな人と嫌いな人がいますよね。リン・レンの声は、稲妻のようにすとーんと落ちてくるというか、叫び声に近い。レンの高音とかすごい気にされますね。
──アペンドのデモが最初に出た時にすごい言われましたね。
佐々木 「まろやかになったらレンじゃない!」みたいな。
──Appendでは、6種類の声が追加されました。さらに細かい表現が必要だったわけですが、そこはどう演じ分けましたか?
下田 そこは佐々木さんに導いてもらいました。自分でリン・レンのセリフをしゃべったことがないうえ、ボーカロイドは収録した音声を加工してできあがるんです。現場では、例えばそれが本当にレンの小声に聞こえているのかどうかが分かりにくい……。
──難しかった声ってありますか?
下田 確かあったんですけど、どれだったかな?
佐々木 何日かに分けて収録してますし、あとから名前を付けるので、現場では分かりにくいですよね。一番最初は、少しテンションを抑え目にしたリンの声で、その後にちょっと不機嫌なのと、少しイケメン風なレンを録りました。途中は声を張ったヤツで、最後が小声。
下田 いろいろ録りました。今、佐々木さんが「不機嫌そう」とおっしゃられたんですけど、最初は確か「悲しそう」という指示でした。でも、それだと思ったようなニュアンスにならなくて、不機嫌そうという指示に変えてもらったら、「それだ!」ってなって。結構、時間がかかりました。
──収録時にしゃべるのは、確かセリフじゃないんですよね。感情を込めるのが大変という。
下田 「ざん、ざん、じー」みたいな独特な言葉で、基本的に全部均等に音を入れないといけないんです。普通のセリフなら、どこかにアクセントを置いて、「悲しそう」を表現できるんですが、それをボーカロイドの収録でやると音声にムラができちゃう。
──普通に役を演じるより、相当に高いレベルのものが要求されますよね。
下田 そうなんです。しかも、すごい集中力を使います。大体一日に4時間ぐらい、合計25時間くらい収録があるんですけど、ずっと同じ音を喋り続けているので、すごく集中してないと眠くなってしまうんです。アニメの現場とは違って、スタッフさんもエンジニアさんもとても静かで、聞こえるのは私の声だけ。しかも「たーん、たーん、たーん、たーん」みたいなリズムに合わせて、声を出すんです。
佐々木 ちょっと読経……。般若心経みたいな(笑)。
下田 本当にお経を聞いてるみたいでした。私もいつ寝るんじゃないか、半分夢の中みたいで言ってたような状況もあったりして。うっかり「あれ、今ちゃんと言えてたかな」みたいなところも相当あったんじゃないかなって。
佐々木 いや、大丈夫でした(笑)。
下田 大丈夫ですか? すいませんでした。楽しいって感覚はあんまりなくって。とにかく「よし、集中してやるぞ」と気合いを入れる感じで。
──終わったときはどういう気持でした?
下田 「はぁ…もう今日は働けない」って、全部のブトウ糖を使いきったという感じです。
──発売前は、どんなお気持ちでしたか?
下田 3年前と同じ日で、スゴイ~って。合わせたのですか?
佐々木 ええ、合わせました。3年前に出した時にも「せめてクリスマスに」とか「その日は本当に勘弁して下さいよ」と、販売店さんに怒られました。今年も本当にすいませんって頼んで怒られたという。
──確かにクリスマスの後でしたし、中途半端ですね。
下田 でも、3年越しで同じ日に発売というのは、キリがいいですよね。今後も12月27日をリン・レンの誕生日として毎年、何かイベントを出していけたらと思うんですが。
3年前のこの時期は「もうすぐ発売か」って思ってたんです。周りも人からメールがいっぱいきて、ようやく発売かーって思っていた。そしたらまた今年、お話をいただいたという。一回録ったらまた発売するなんて、個人的にはまったく予想してませんでした。
最初のACT1のときは感情もなくて、とにかく声を収録させていただいたんですけど、今回は悲しさとか、ウィスパーで甘くとか、そういう表現が含まれるようになった。より歌に深みが出るので、これを機にぜひボーカロイド初心者の方も触っていただければと思います。
──素晴らしいコメントですね。
佐々木 どこかの担当よりもちゃんと製品をアピールしてくれるという。どうですか、うちで働きませんか(笑)?
下田 人が足りてないですか?
佐々木 人も、笑顔も足りてないですね。
──(笑)。最後に、Appendでこういう歌が聴きたいってご意見はありますか?
下田 難しいですね。歌というと、世界一楽曲の多いアーティストは初音ミクだと思っているので、もうジャンルは出尽くしていると思うんです。だから、Appendを活かした歌い方を皆さんで見つけてくれたらと思います。例えばバラードを歌わせるとしたらここはウィスパーで悲しめにとか、あえてここは声を張らせて歌わせたいんだとか。
佐々木 あと、3Dソフトの『MikuMikuDance』でリン・レンを使って漫才、というものも面白いかもしれません。リンがレンをどついたら、レンの声がパワーからシリアスに切り替わって泣き声みたいになるという。とにかく、好きに使って頂ければ幸いです。
『鏡音リン・レン Append』
●1万6800円 ●クリプトン・フューチャー・メディア
Produced by 佐々木渉(Crypton Future Media,Inc)
All Voice Material by 下田麻美(Artsvision)
Kagamine Rin&Len's Original Illustration by KEI
Kagamine Rin&Len(Append ver)by オサム
RinLen Append Image Logo by BALCOLONY.
(C)Crypton Future Media,Inc
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