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『幻魔大戦』BD制作現場に聞く! 高音質・高画質の舞台裏

2009年12月14日 16時14分更新

週刊アスキー763号(11/30発売)、特集『BDノート5機種』に掲載した『幻魔大戦』BD制作現場の舞台裏。キュー・テックのFORSシステムについて、誌面に掲載できなかったぶんもふくめて、ロングバージョンをお送りします。

BDの高音質・高画質はどのようにしてつくられるのか。BDの新マスタリングシステム“FORS”を開発した、キュー・テックで話を伺いました。

FORS
↑キュー・テックのデジタルメディア制作部の足立幸一さん(左)、音響グループの中村圭一さん。
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↑新規に設計図を起こしたサウンドプロセッサー。御影石の筐体は墓石屋さんが削っている。

マスタークロックはルビジウムを採用

 FORSは、デジタルの音を良くするにはどうすればいいのか、映像機器から映像機器へ伝送する過程で音の劣化があるんじゃないかと考え、マスタリングプロセスを徹底的に改善して開発したシステムです。FORSの音を評論家の方などに評価してもらったところ、高域のざわつきがなくピュア、音像定位がはっきりする、音がきめ細やか、セリフが聞き取りやすい、といった感想をいただきました。

 今回のシステムでは、新たに8チャンネルの専用プロセッサーをつくりました。オリジナルの音に手を加えるのではなく、原音をより忠実にデジタル化しています。従来は水晶を使用していたマスタークロックジェネレーターには、新たにルビジウムを採用しました。機器にもよりますが、水晶とくらべて5~10倍の精度になっています。

 今まではビデオの映像のクロックを基準に音を合わせていたので、水晶精度だったんですが、CDのマスタリングやレコーディングなど、オーディオに特化したスタジオでは、水晶以上のクロックで音を良くしています。そこで発想を変えて、ルビジウムのクロックを基準にして、ビデオのほうを音に合わせこんでしまうという発想に転換しました。FORSでは、映像もルビジウム精度になっています。

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↑極太の電源ケーブル。それぞれに専用の電源を用意し、ケーブルを太くするなどの工夫がされている。
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↑HDCAM-SRのVTRが並ぶマシンルーム。ここでも専用の電源が用意されている。

墓石屋さんがつくった御影石の筐体

 HDDは、中国産の御影石を使用して制振処理をしています。通常のオーサリングではネットワークでデータをやりとりしますが、ネットワーク伝送でエラー訂正が発生するとクオリティーが落ちるので、データを取り込んだリムーバブルHDDを人手で運んでいます。今はHDDだけを取り外していますが、最初のプロトタイプのころは取り外しができなかったので、御影石の本体ごと運んでいましたね。15キロぐらいの重い石を持って、新幹線で工場に行ったり(笑)。

 そのほか、各機器に専用の電源をもたせたり、ケーブルを太くするなどの工夫もしています。シンクケーブルなどデジタルのケーブルは銀を使ったコネクターにして、抵抗値の不整合によるロスをふせいでいます。

 オーサリング用のPCも御影石で上下をはさんで制振処理をしています。アナログのころはレコードプレーヤーに大理石を置いて共振を防ぐと音が良くなるという発想がありましたが、デジタルでも同じ論理で音が良くなるのは、不思議なところです。

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↑エンコード用のPCも上下に御影石を置いて制振処理をしている。
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↑各機器ごとにこうした専用電源が用意されている。
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↑HD用データストレージを開けてみせてもらった。HDDをぶ厚い御影石ケースが囲む。
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↑コンパクトに見えるが重量はそうとうなもの。持ち上げようとしてみたが、1ミリも動きませんでした。
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↑御影石のHDDが並ぶ。横にあるケースはHDDの運搬用。オーサリング用PCの上下にも御影石。
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↑運搬用ケースにHDDをセットしたところ。ちなみにシーゲイト製。SSDも比較してみたが、現時点でいちばん音がいいということでHDDを採用しているという。

 最初はFORSで最新のスペックの音楽タイトルをやると効果があると思ってたんですけど、いろいろ試してみると、古い作品、黒澤作品のようなアナログの素材のものがFORSによって、いっそうアナログ的になる。不思議なんですけど、デジタルの精度を高めると、アナログの広がり感がでてくる。

今回の幻魔大戦もアナログ時代につくられた音声で、オリジナルのミックスはドルビーサウンドだったので2チャンネルで聞いていただくとサラウンド成分で広がり感がでてくるんですが、FORSで聞いていただくとよりサウンドのレンジが広がる感じがありますね。

映像については、細かいディテールが浮き出てくる。通常だと1枚ベールをかぶったような場面が、ベールがはずれてクリアになる印象を受けます。ダイナミックレンジが広がっているんじゃないかという印象です。

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↑『幻魔大戦』(DVD)。りんたろう監督がテレシネを監修。BDはこのマスターをもとに、SD画質では気づかないノイズなどを80時間以上かけて画像修正している。
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↑『幻魔大戦』(BD)。FORSシステムによって、オリジナル音声のもっていたアナログの広がり感がでて、映像も細かいディテールがクリアになった印象になる。
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↑『幻魔大戦』(DVD)。
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↑『幻魔大戦』(BD)。

 取材の際には、実際に『幻魔大戦』のBD版とDVD版を視聴させていただきました。『幻魔大戦』、1983年の作品なので、もう26年も前ですよ。見る前は20年以上前のアニメ作品をBD化しても、どれだけキレイになるのか限界があるんじゃないか、なんて思ってたんですが、上のキャプチャー画像でもその違いは見てとれるのではないでしょうか。DVD版だって十分キレイなんですが、BDになると全体的にクリアに、特に瞳の部分など細部まで見てとれるようになっています。
 音に関しては、たとえば冒頭の老婆の予言と鈴の音。DVD版の鈴がシャラーンという感じだとすると、BD版の鈴はシャリィーーンという感じ。鈴の響きがずっとクリアで余韻をもったキレイな音になります。ブツブツとした予言のセリフも、BD版だとひと言ひと言がずっと聴き取りやすい。DVD版だと不吉なノイズのようなBGMも、BD版だと重低音が静かに響く感じ。私の素人耳でも明らかに音が違うことがわかります。「旧作品でもやっぱりBDを買うべきかも!」と納得した取材でした。
 

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