評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。2020年1月に聞きたい優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
『SADAO 2019 - ライヴ・アット・ブルーノート・トーキョー』
渡辺貞夫
わが国のジャズ・レジェンド、「ナベサダ」こと渡辺貞夫が、これも世界的なレジェンドのスティーヴ・ガッド(Dr)、ジョン・パティトゥッチ(B)、ラッセル・フェランテ(Piano)と共演したブルーノート東京でのライブ(2019年8月)。オリジナル曲やジャズスタンダードなど11曲が収録されている。
素晴らしく鮮明な録音だ。サックス、ピアノ、ベースがセンターに定位し、ドラムスが少し右に寄る。文字どおりセンター中心の音場だが、ライブらしい濃密な臨場感は十分に感じることができる。いずれの楽器もオンマイクで、豊かにボディを持つ音像が獲得されている。拍手がステレオ的に拡がり、奥から聞こえる。渡辺の快走的なグルーブ感、ピアノのインプロビゼーションのセンスの良さ、ドラムス(スティーブ・ガットだ)の尖鋭感……とまさにハイレゾならでは豊かな表現力を感じる傑作だ。渡辺は86歳。まったくお歳を感じさせない、鋭いグルーブ。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
JVC、e-onkyo music
爆発するビート、炸裂するグルーブ、アグレッシブな音の進行。まさに今の日野の境地を象徴する問題作だ。音場の音が重層的に厚く、まるで音の壁のように屹立するが、その構成要素はきちんと捉えられ、ドラムスが右、ファズを掛けたエレクトリックギターが左、トランペットがセンターに確実に定位する。話題の若き天才ドラマー、石若駿のリズムプレイの鮮烈で俊敏なこと。そのプレイを聴くために購入する選択も十分にある。4.RUMSON RAINでの、センターにいるトランペットのむせび泣きが、ひじょうに鮮明。44.1kHz/24bitとは思えないクリヤーさ、だ。
FLAC:44.1kHz/24bit、WAV:44.1kHz/24bit
B.J.L. | SPACE SHOWER MUSIC、e-onkyo music
『飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ コンサート 2019』
飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ、松岡裕雅
飛騨地方に縁のある演奏家が中心となり2005年に旗揚げされた「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ」は「指揮者なしアンサンブル」でも識られる。2017年から毎年一作をライブアルバムとしてリリースしている。本作は2019年のコンサートライブ。
ライブ録音の豊かなソノリティと、ディテールまでの暖かい眼差しが感じられる優秀録音だ。メンデルスゾーンのスコットランド交響曲では、冒頭の憂愁がエモーショナルに捉えられ。第1主題のヴァイオリンが、倍音をたっぷり放出し、抜けの良さとグロッシーな音色感が堪能できる。少し奥に位置する木管の確実さ、美しさも刮目だ。第2楽章のクラリネットの愛らしさ、伸びの良さに感心。音場が深く、同時に透明なので、響きの美しさと、各楽器の音色がたっぷり堪能できた。
この素晴らしい音のひとつの要因は彼らのホームである「飛騨芸術堂」のソノリティ。木工家具の生産が盛んな飛騨らしく、ふんだんに木材が使われたホールだ。もうひとつが録音エンジニアの長江和哉氏の「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラ」への愛情だ。長江氏に話を訊いた。
「飛騨高山ヴィルトーゾオーケストラは、本当に不思議なオーケストラです。私は2006年から年に一回のこのオーケストラの録音を楽しみにしていますが、メンバーもこのオケでの演奏を楽しみにしているように感じています。毎年、前日のリハーサルでは、コンサートマスターの荒井先生が中心となり他のメンバーの方も自由に発言しながら、全員で音楽を創っているのが垣間見られますが、録音チームは、客席でその音をききながら、また、それをマイクを経た音を聴きマイクの位置を調整していきます。私は、このような「音楽をみんなで創っている」という感じをオケのメンバーとともに録音チームも一緒に体感できるのが、素晴らしいことであると思っています」。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
Hida-Takayama Virtuoso Orchestra、e-onkyo music
ニューヨークを拠点に活動するジャズ作曲家、挾間美帆。2012年のデビュー・アルバム「Journey to Journey」、2015年のセカンド・アルバム「Time River」に続く3作目のアルバム。
自身の作・編曲による7曲のオリジナル楽曲とカヴァー曲1曲の計8曲をニューヨークにて録音。 ピアノ、管楽器隊、ドラムス、エレクトリックベース、チェロという編成で、コンテンポラリーで都会的な音楽が展開する。チェロの叙情的な旋律あり、アグレッシブな前進力ありと、まるで現代のガーシュウインのようだ。
2曲目「ザ・サイクリックナンバー」の冒頭のベースの雄大さ、剛性感はオーディオ機器のチェックに使えそう。そこからのビックバンドの緻密な編成感、金管の進行感も聴きものだ。後半に活躍するチェロのむせび泣きもエモーショナルだ。音色は決してメタリックにならず、豊かな内実感を持つナチュラルなものだ。大編成でも、個個の楽器のフューチャー感が確実で、ソロの浮かび上がりが良い。ニューヨーク的なサウンドで、録音の明瞭度もひじょうに高い。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『Joined At The Hip (2019 Remastered)』
Bob James and Kirk Whalum
ジャズ / フュージョンのレジェンド、ボブ・ジェームとコンテンポラリー・ジャズのサックス奏者、カーク・ウェイラムによる作品集。90年代の黄金の大ヒットアルバムがリマスタリング、さらにMQA化された。
かつての名アルバムがMQAで見事に蘇った。実に豊かな音場感とひじょうにリッチな音像感だ。サックス、ベース、ピアノ、オルガン……の各構成楽器が、類い希な生命力を獲得し、高音質を謳歌しているようだ。MQAの持つ臨場感再現とは、音の生まれる場所に立ち会っているような眼前感だ。楽器からの発音が、音場内でどのように拡がり、次ぎに消えていくかのソノリティのドキュメンタリーが、マルチマイク録音でも感じられるのが不思議なところ。MQAの良さは、ソロ楽器の音楽的なフューチャー感だ。ソロプレイを成り立たせている感情と熱い思いのたけまで、たっぷり聴ける。
FLAC:88.2kHz/24bit、WAV:88.2kHz/24bit、MQA Studio:88.2kHz/24bit
Bob James and Kirk Whalum、e-onkyo music
過去の歌謡曲のハイレゾは必ずしも成功するとは限らない。中域を盛り上げて、響きを過剰にいれたオリジナルは直しようがないからだ。しかし、本作品の「ペッパー警部」は、ハイレゾ作品としてはじめから作られているような鮮烈さとバランスの佳さが両立している。バックの楽団の各楽器が思いっきり主張し、ヴォーカルの積極的に前に出てくるが、音調的、音場的なバランスが、意外によいのだ。あの時代の疾風怒濤さが、ハイスピードな音楽に乗って雄弁に語られる。合いの手のトランペットが、ここまでクリヤーに出るのが、ハイレゾの恩恵と感心。
アナログマスターテープからハイレゾ用へのリマスタリングを担当したのは、数多くのヒット曲を手掛けたビクタースタジオの川﨑洋氏。「もともと出来が良いので、あまりいじることはありませんでした。低音を立体的に、ヴォーカルが前に出るようにはしました」と述べている。「ペッパー警部」「S・O・S」などの大ヒット曲のバック演奏がこれほど上手かったのかと気付くのも、ハイレゾの恩恵。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
VICTOR STUDIO HD-Sound.、e-onkyo music
セルフカバーを含んだ最新録音アルバム。「6.悲しい色やね」は、押尾コータローのアコースティックギターとのデュオ。まず、音が素晴らしい。ひじょうに鮮明で、ディテールまで細大漏らさず捉えられている。48kHz/24bitでも、ここまで聴かせてくれるとは。作曲者の上田正樹ならではの、細かな表現の抑揚が聴ける。ギターもヴォーカルもセンターに大きな音像で定位しているが、巨大な音像から、音的にも、そして音楽的に興味深い情報が豊かに放出されるのが、ハイレゾ最新録音の恩恵だ。上田正樹R&Bバンドとの共演のナンバーでも、上田のヴォーカルが音像的にフューチャーされ、この歌手ならでは感情感を色濃く感じることができる。
FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
『26th Street NY Duo Featuring Will Lee & Oz Noy』
神保彰
毎年元旦に2枚のオリジナルアルバムをリリースするトップドラマーの神保彰。今年は26作目のニューヨークと、27作目のロサンゼルス現地録音だ。ニューヨークアルバムはトップベーシスト、ウィル・リーとトップギタリスト、オズ・ノイとのデュオ。奇数トラックがオズ・ノイ、偶数トラックがウィル・リーだ。「1.Joker」は、センターを中心に2つのスピーカーの間に拡がるドラムサウンドをバックに、オズ・ノイの闊達なプレイが楽しめる。「3.Outer Limit」は、スネアの叩きの立ち上がりが実に心地好い。「2.Sly」のウィル・リーのエレクトリックベースの偉容で同時に軽快なフレージングと、ドラムの叩きとの融合が、刮目。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music
『27th Avenue LA Trio Featuring Abraham Laboriel,
Russell Ferrante & Patrice Rushen』
神保彰
27作目のLA録音アルバム。キーボーディストのラッセル・フェランテ、パトリース・ラッシェンの、それぞれのトリオとの共演だ。「1.Amber Sky」はラッセルとの共演。神保とベースのリズミカルなビートに乗った、ラッセルのピアノの叙情感が心に染みる。「2.Purple Heat」はパトリース・ラッシェンとの共演。軽快でスゥインギーなソプラノサックと細かなビートを叩き出す神保サウンドと相性がよい。ラッセル・フェランテとの「3.Red Dress」はまるでフランス映画の主題曲みたいな哀愁の旋律。インプロヴィゼーションを自在に紡ぎ出すラッセルのピアノが素敵だ。このアルバムでは神保は、主張するサポートメンバーとして、佳きアンサンブルを形成している。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music
ドラムス石若の驚異のテクニック、ピアノ林の叙情性、そしてリーダー須川の疾走するアコースティックベースが聴き物だ。録音前日や当日朝に書かれた曲をはじめ、収録曲の半分はほぼ初見で演奏されたという。「1.Time Rememberd」は、そんな3人の実力、個性、そして音楽的な表現力が堪能できる、ビル・エバンスのナンバー。常に細かなビートを繰り出す石若のドラムに触発され、二人がよりエモーショナルにプレイする、とてもライブ的な臨場感が感じられる。「3.Yoko no waltz」以下は、3人のオリジナル。才能の燦めきと、豊かな音楽性が3人の武器だ。録音も安定感が高く、音場が緻密だ。
FLAC:96kHz/24bit
Days of Delight、e-onkyo music
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