人口減少時代に向けた「移動の足」になれるか?
「規制のサンドボックス制度」によって日本でも走り始めた電動キックボード
ヨーロッパ諸国などでは都市内の移動手段として、自動車から電動キックボードなど安全で環境にやさしい「マイクロモビリティ」への移行が進んでいる。日本では道路交通法の規制が厳しく、他国にくらべて導入が遅れているが、実証実験は進んでいる。
日本でも地方や郊外では、人口減少の影響を受けて、鉄道やバスなどの公共交通機関の廃線が進んでおり、公共交通機関を利用することが困難な地域も現れ始めた。このような地域でこそ、マイクロモビリティなどの新たな移動手段が活躍する可能性がある。2019年10月18日、NoMaps 2019会場である北三条交差点広場(北海道札幌市)で「未来の移動手段~北海道でのモビリティを考える」カンファレンスと、電動キックボード「LUUP」と「Lime」の試乗体験会が開催された。
ドローンや自動運転車など新技術への期待が世界中で高まっているが、日本は国内法の規制が厳しい上、規制緩和に向けた動きも遅々として進まない。そこで政府は、新技術の早期導入へ向けて法律を整備している間に実証実験を進められるよう、「規制のサンドボックス制度」を用意した。これは、特定の事業者に限って現行法の規制を緩和し、新技術の試用などを可能にするものだ。
カンファレンス前日の10月17日、LUUPの電動キックボード「LUUP」が、乗用車両としては初めて「規制のサンドボックス制度」の認定を受けた。LUUPはこれまで、静岡県浜松市、奈良県奈良市、三重県四日市市、埼玉県横瀬町などの自治体と連携協定を結び、国内9ヵ所で電動キックボードのシェアリングサービスの実証実験を実施してきた。8月には初めて公道での実証ができたという。電動キックボードが日本の街を走る日は着実に近づきつつある。
GPSなど各種センサーとインターネット通信機能を搭載して操作を簡単に
カンファレンスでは、LUUP代表取締役の岡井 大輝氏が、電動キックボードの特徴と国内の状況を解説した。
「LUUP」は、GPS(Global Positioning System)など各種センサーと、インターネット通信機能を搭載した電動キックボード。GPSセンサーで位置を把握しながら、各種センサーで車体の速度や傾きなどを検知し、簡単な操作で安全に走行できる。インターネット通信機能を利用することで、遠隔地から速度制限などの制御もできる。
電動キックボードがもたらすメリットのひとつとして、自然環境への悪影響低減が挙げられる。人ひとりを移動させるときに乗り物が排出するCO2(二酸化炭素)の量を比較すると、電動キックボードは自動車の40分の1。電気自動車と比較しても10分の1まで抑えられるという。
そして、もうひとつのメリットとして「ラストワンマイル」の拡大が挙げられる。たとえば日本の観光都市では、ラストワンマイル、つまり駅前や名所の付近にばかり人が集まってしまう。電動キックボードなどのマイクロモビリティがあれば、少し離れた場所を新たな観光名所にできるかもしれない。日本は駅前に人や商店が集中し、少し離れると人も商店もほとんど見かけなくなってしまう。こうした都市部中心の国ほど、新しい移動手段でラストワンマイルを拡大する効果が高い。
特に日本では、高齢者向けの移動手段としてマイクロモビリティに期待が集まっている。高齢になると筋力が衰えて重いものが持てなくなり、自転車に乗ることも難しくなる。その結果、1kmも離れていないスーパーに行くときも自動車を利用し、しばしば事故を起こしてしまうのだ。
自動車よりも安全で、楽に乗れる乗り物があれば、このような不幸な事故も減らしていける。電動キックボードはインターネット通信機能を備えているので、遠隔地から車体の状態や位置を確認できる。転倒時や、決められたルートから離れたとき、家族にリアルタイムで通知を送信するといった機能も簡単に追加できる。
しかし、先述のように日本では法規制が問題になる。現在の道路交通法では、電動キックボードは原動機付自転車扱いとなり、ミラーとナンバープレートを付ければ公道を走ることはできる。しかし、電動キックボードの最高速度は時速20~25km程度。制限速度が時速30km、40kmの車道を走ると流れについて行けず危険だ。本格的な普及を目指すなら、車道ではなく歩道の走行を許可したり、専用車線を用意するなど、法律や道路などの整備を進める必要がある。
事業者としては、採算の問題もある。岡井氏は「現状のシェアリングサービスは自治体の予算から支援を受けながら運用していますが、海外では、ユーザーからの利用料だけで採算を取れるモデルとして成り立っています。日本でも景観や安全性に最大限配慮しつつ、きちんと採算が取れるサービスにしたい」と語る。
G20構成国のうち17ヵ国で電動キックボードの普及が進む
続いて、Neutron HoldingsのMorrison氏が世界各国における電動キックボードの普及度合いについて説明し、事例を紹介した。
電動キックボードについては、「G20」構成国のうち日本、中国、イギリスを除くすべての国で規制緩和が進み、すでに移動手段として電動キックボードの普及が進んでいる。電動キックボードのシェアリングビジネス最大手が、2017年設立のアメリカNeutron Holdingsだ。「Lime」(ライム)というブランド名で、会社発足から2年半で世界30ヵ国以上、120以上の都市へ展開している。
「これまで過去100年以上、街中の移動には自動車が最適だと考えられてきた。しかし本当にそうなのだろうか考える時期にきている。自然環境への影響に配慮し、ラストワンマイル、ファーストワンマイルを延長すべく、マイクロモビリティの導入を進めていきたい」とMorrison氏は意気込みを見せた。
さらにMorrison氏は「世界中で人々が移動する機会の40%で自家用車が活躍している。自家用車からマイクロモビリティに移行すれば、都市交通が環境に与える影響を大きく軽減できるはずだ。最新の『Lime Gen 3.0』はシェアリングを前提に設計してある。1日に5~10回使用することを想定し、耐久性の高い頑丈なつくりにした。1度の充電で25マイル(約40キロ)走行できる」と、同社の最新電動キックボードの性能をアピールした。
Morrison氏によると、ドイツは日本と同様に規制が厳しかったが、2019年5月に規制が緩和され、自動車からLimeへの移行が順調に進んでいるという。日本でも9月に福岡市で2日間の実証実験を実施した。
「規制については日本とドイツがよく似ている。ドイツも規制緩和に踏み切った。日本市場も悲観的には見ていない。札幌の大きな地下道をマイクロモビリティが走れるようになったら、人々の暮らしはどんなに便利になるだろう。これからを楽しみにしています」と意欲を語った。
高齢化や人口減少への有効な対策となるか
続いて、地方自治体を代表して余市町の齋藤 啓輔町長、地域企業を代表して生活協同組合コープ・さっぽろの対馬 慶貞氏が、電動キックボードへの期待について語った。法律や規制などの課題はあるが、地方自治体や地方の民間事業者はマイクロモビリティに大きな期待を寄せている齋藤町長は「日本はすでに人口減少に転じている。2100年には日本の人口が5000万人にまで減少するという試算もあるくらいだ。一刻も早く、人口減少に向けたまちづくりを始めなければならない。シェアリングや最新技術を導入して、地域課題を解決することを真剣に考える必要があるだろう。その解決策のひとつとして電動キックボードの導入を進めていきたい」とコメントした。
コープ・さっぽろは、現在37万世帯に商品を配達しており、市民の足代わりとなっている。コープには実店舗もあるが、対馬氏によると、「店舗に来ることができても、買ったものを持って帰れない」と言われるそうだ。「さほど重くはない荷物でも高齢者にとっては、店から100メートルほど運ぶだけでも大変なのです。高齢者向けに買い物かごを付けた乗り物があるといいですね」と、マイクロモビリティへの期待を語った。
自転車よりも簡単! 電動キックボードに乗ってみた
カンファレンス終了後、電動キックボードの試乗体験会があったので、筆者も試乗してみた。
ほかの人が試乗しているところを見たときは不安定そうに見えたが、実際に乗ってみると、LUUP、Limeともに安定感があり、走行中に両足をボードに乗せて停止しても倒れることがない。利用者が自身でバランスをとる必要がないので、自転車に乗れない人でも問題なく乗りこなせそうだ。
速度調整に少しコツがいるが、試乗コースを2周ほど走っているうちに慣れてきた。最高でも時速20~25kmほどにしかならず、レバーから手を離せばすぐに減速するので、暴走の心配がない。タイヤが小さく、足が地面に近い低い位置にあるので、自転車よりも乗り降りが容易だ。電動キックボードの本体が小さく細いので、駐車する場所にもあまり困らないだろう。今回試乗したモデルは高齢者向けではないというが、高齢者でも十分に扱えると感じた。
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