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導入効果は「率直に言ってスピードが倍に」

「ロウソクの科学」を2営業日で重版したKADOKAWAにSlackあり

2019年11月22日 09時00分更新

 2019年11月13日、「Gartner IT Symposium/Xpo 2019」において、Slack エンタープライズプロダクト部門責任者であるイラン・フランク氏が講演。セッションの後半にはKADOKAWA Connectedの代表取締役社長 各務 茂雄氏が登壇し、KADOKAWAグループのデジタルトランスフォーメーションとSlackの導入について語った。

コラボレーションツールが満たすべき4つのポイント

 Slack Technologies エンタープライズプロダクト部門責任者であるイラン・フランク氏のセッションは、重要度や用途が混在し、情報の伝達はサイロ化してしまう電子メールのデメリットからスタートした。Slackが掲げるチャンネルベースのコミュニケーションは、いわばメールのトピックにあたるもの。クローズドなメールと異なり、チャンネルであれば、さまざまな関係者が参加し、オープンにやりとりできる。組織の方向性を整える「アラインメント」にSlackのようなコミュニケーションツールは必須になるという。

Slack Technologies エンタープライズプロダクト部門責任者 イラン・フランク氏

 実際、Slackではスケールが大きく、スピードが必要だったオラクルとの取引をすべてチャンネルで成功させたと説明した。「たとえば、オラクルからのセキュリティに関する質問に対してSlackのエンジニアが答えたり、トレーニングのために専用のアプリを作ることができた。チームがすべて同じやりとりを共有しているため、ミーティングを招集する必要はなかった」とフランク氏は語る。

 米シナジーリサーチグループによると、450億ドルの市場規模を持つコラボレーション市場において、Slackが属する「ワークプレイスコラボレーションアプリ」はもっとも急成長を遂げているジャンルだという。しかし、コラボレーションツールはすべて同じではない。フランク氏は、「お使いのコラボレーションツールは企業が求めるニーズをきちんと満たしているでしょうか?」と問いかけ、「大規模なアラインメント」「ROIの向上」「従業員エンゲージメント向上」「データの保護」の4つをポイントとして挙げ、それぞれに対してSlackが適切に対応できる設計になっていることをアピールした。エンタープライズ対応、他サービスとの連携、セキュリティに対する取り組みだ。

 特に印象的だったのは、ユーザーのツール定着度を示す「従業員エンゲージメント向上」という観点だ。フランク氏は、大手小売事業者での事例を元にSlackと他のツールを比較。アクティブユーザー数に対しての、日間のチャンネルメッセージ数、日間チャット数などあらゆる点でSlackが優れているとアピールした。

従業員エンゲージメント向上の観点で優れるSlack

 セキュリティに関しては、データ保存時、転送時の暗号化やネットワークセキュリティ、サーバーの強化、アクセスコントロール、システムモニタリング、ロギングなども業界が認めたベストプラクティスとフレームワークを採用している。コンプライアンス認証基準に関してはISO/IEC27001/27017/27018やSOC2/3、EU/米国とスイス/米国のプライバシーシールド、CSA(Cloud Security Alliance)、FedRAMPなどのほか、ヘルスケア業界のHIPPAやFINRA、GDPRなどの規制に関しても対応する。「HIPPAで違反があれば、罰金を科されるし、連邦政府のFedRAMPは毎月レポートやペネトレーションテストのチェックが求められる」とのことで厳しい基準をクリアしているという。

 データの保存場所を指定できるデータレジデンシーに関しては、現在プライベートβ版で提供している。一般提供は年内からEUで始まる予定で、プライマリはドイツのフランクフルト、バックアップをフランスのパリに保持される。日本に関しては2020年の前半を予定している。

 さらにSlackのセキュリティ機能に関しては、生体認証機能を用いた二要素認証のほか、大規模な鍵管理システムや情報漏えいを防ぐためのDLP機能なども実装されている。「すべてのコラボレーションツールは同じではない。アラインメント、ROIの向上、従業員エンゲージメント向上、データ保護の4つを念頭に設計されている」とアピールして、後半のユーザー事例に話をつないだ。

分厚い紙の資料に衝撃 KADOKAWAでの働き方改革とは?

 ユーザー事例に登壇したのは、KADOKAWAグループでのSlack導入を進めるKADOKAWA Connected 代表取締役社長 各務 茂雄氏になる。楽天やマイクロソフト、AWSなどでマネジメント経験を持つIT畑の各務氏は、KADOKAWA Connected 代表取締役社長を務めるとともに、KADOKAWA DX戦略本部 執行役員、ドワンゴ本部長も務める。

KADOKAWA Connected 代表取締役社長 各務 茂雄氏

 KADOKAWA Connctedは、KADOKAWAグループへのICT支援や働き方改革を支援する戦略IT子会社として2019年4月に設立されたばかり。140名を超えるドワンゴやKADOKAWAのエンジニアによって構成されており、ユーザー基盤、組織コミュニケーション、製造・物流の大きく3つの基盤を改革している。このうち今回のKADOKAWAへのSlack導入は、組織コミュニケーションを向上させる施策の一環だという。

 以前のKADOKAWAのコミュニケーションはどうだったか? 各務氏は「ドワンゴはエンジニアのチームなので、Slackをバリバリ使っていました。しかし、KADOKAWAは紙の出版社なので、1年前に入社したときには分厚い紙の資料が会議で配られて、衝撃を受けました」と振り返る。実際、編集者と筆者とのやりとりも、以前は電話やメールが多かった。また、iPhoneを内線電話として利用する施策も進められたが、利用率が低かった。しかし、いまは内線電話代わりにSlackを使うようになり、コミュニケーションの中心に。社内がフリーアドレス化されたこともあり、会社の風土は大きく変わってきた。ここまでの認知施策のひとつとしては、お手製の漫画を使ってDX・働き方改革、Slackの使い方について社員に知ってもらっているという。

Slackがコミュニケーションの中心に

 具体的な効果に関して各務氏は、「ご存じの通り、こうしたコミュニケーションツールの効果を測るのは非常に難しい」としつつ、「率直に言うとスピードが倍以上になっている」とコメントする。生産性が高くなりすぎて、働き過ぎになる方が心配になるという状況だ。また、組織をまたいだプロジェクトが推進され、グループ会社との連携も強化されている。「たとえば、ドワンゴ社員は3割はKADOKAWAの仕事をやることになっているのですが、ここ半年でできるようになってしまった。ベンダーとのやりとりもSlackになって、納期や進捗を直接確認できている」と各務氏は語る。

 また、Slackと他サービスとの連携については、「G Suiteとの連携は非常によい。特にファイルのアクセス権設定をSlackでできるのは便利」とコメント。ボットの導入も進めており、さまざまなシステムのフロントエンドにしていく構想もある。さらに投資対効果に関しては、「会社をダイナミックに動かし、コラボレーションを高めていくためのツールとして、そもそもメールは無理だった」とのことで、ROI以前の問題としてSlackを利用するのは「必然的な選択」だったと語る。

 コラボレーションのために導入していたWorkplace(Facebook)やGoogleなどのチャット機能も現在は利用を止め、使い勝手を考えてSlackに一本化している。なぜSlackかという質問に対して、各務氏は、多彩な機能とその進化、API、データマネジメント、Slackとのカスタマーサクセスの親和性を挙げた。「過去のチャットは機能的に足りなかった。Slackは機能面にも満足できたが、なにより成長企業はよい機能を追加してくれる」と各務氏は語る。

連携できなければ、生き残れない

 各務氏はSlackの導入効果を表わす具体的なエピソードとして、ノーベル賞を受賞した吉野彰氏が自身の原点として語った「ロウソクの科学」を、営業日2日で重版にまでこぎ着けたいきさつを披露した。

 吉野氏がノーベル賞を受賞し、「ロウソクの科学」についてコメントしたのは10月9日の夜。版元であるKADOKAWAの社員はすぐさまSlackのチャンネルを立ち上げ、翌日の10日の朝には組織横断の対策本部を発足。100名以上の関係者がSlackとフリーアドレスのスペースでやりとりを開始し、書籍生産と物流を担う自社設備で重版を決定したという。10日の昼からプロモーションを開始したことで、多くのメディアに露出。午後からは書店からの注文が殺到し始めたが、3連休明けの15日には書店に無事発送されたという。

ロウソクの科学、重版までの流れ

 他社では通常10営業日かかる重版が営業日2日で実現され、ほぼ欠品なく読者の手元に届けられ、営業チームでは歓声も挙がった。「2営業日で重版が実現するなんて、出版としては奇跡です。私も驚きました。スピードはもちろん、品質をきちんと確保できたのがよかったと思う」と各務氏は振り返る。

 Slack導入を含めた働き方改革を定着させるため、KADOKAWA Connectedではカスタマーサクセスチームを組織し、ユーザーからのフィードバックを得つつ、現場にアドバイスできる体制を構築した。また、社員と経営層との情報格差をなくすため、ボードメンバーが参加したチャンネルを発足させるという。各務氏は、「コミュニケーション改革は簡単ではない。一般的に会社の上層部は情報を持っていることで自らの地位を確保していることもあるが、Slackを使うことでそのバリアを取っ払うことができる」と指摘する。

 最後、今後の展開についての説明を求められた各務氏は、大企業では社内やグループ内での連携、中小企業では外部との連携が不可欠になると指摘。「私たちKADOKAWAグループも、グループ内で連携できないと生き残れない」とコラボレーションの重要性を強調した。そのため、まずはグループ内でしっかり連携できる情報インフラを構築し、その上で今後のスマートシティやスマートライフを見据えて、柔軟なデータマネジメントと堅牢なセキュリティ対策を実現していく予定だという。

■関連サイト

初出時、書名が「ローソクの科学」となっておりました。正しくは「ロウソクの科学」になります。お詫びし、訂正いたします。本文は訂正済みです。(2019年11月25日)

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