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日本進出から3年目を迎えたアリババクラウドが目指す方向性

ナビタイムジャパン、メルカリが語るAlibaba Cloudの活用事例

2019年10月31日 10時30分更新

 2019年10月30日、アリババクラウド・ジャパンサービスは先進事例や技術戦略を披露する「Alibaba Cloud Internet Champion Day(秋)」を開催した。2回目となる今回は、「The Rise of Data Intelligence」をテーマに、Alibaba Cloudの先進活用事例や技術戦略が紹介された。

顧客をもっとも大事にするのが信念

 アリババクラウド・ジャパンサービスは、アリババグループのクラウド事業を手がける日本法人になる。2016年5月、ソフトバンクグループとアリババが共同で設立したSBクラウドが国内で「Alibaba Cloud」を提供しはじめてすでに3年。今年1月29日に開催された初回の「Alibaba Cloud Internet Champion Day」では、日本で2箇所目のデータセンターの開設を発表。3月には日本企業100社の中国進出サポートを目指す「China Gatewayプログラム」を発表。イベント同日にはライブストリーミングサービスの国内提供を発表した。

 イベントの冒頭、登壇したアリババクラウド・ジャパンサービス カントリーマネージャーのユニーク・ソン氏は、勉強をし始めて約1年という日本語でオープニングスピーチをこなした。大手パブリッククラウドや国産事業者がひしめく日本のクラウド市場にアリババクラウドが進出したのは今から約3年前。「日本でなにをすべきかを考えた。利益でもなく、市場シェアでもなく、どのような価値を提供できるかを考えた」とソン氏は振り替える。

アリババクラウド・ジャパンサービス カントリーマネージャーのユニーク・ソン氏

 ソン氏はアリババクラウドの役割として、「日本のクラウドユーザーに選択肢を提供し、マルチクラウドを実現する」「アリババグループのソリューションで顧客のビジネスをサポートする」「日本の開発者に新たな技術を提供する」「アリババグループが蓄積したノウハウを日本の顧客に共有する」の4つを挙げた。特にビッグデータやAIの分野では、中国市場でたたき上げたテクノロジーをクラウドサービスで利用できるのがメリットだ。

Alibaba Cloudの役割

 ソン氏が強調したのは、アリババグループが創業当初から掲げる顧客第一主義だ。「Alibaba Cloudは今でも完璧とは言えません。でも、保証できるのは、顧客をもっとも大事にしていること。これはアリババグループの信念だ。顧客に真摯に対応し、価値を提供していきたい」と語る。

アリババクラウドと中国市場を開拓するナビタイム

 続いて「2週間でAlibaba Cloud上に本番サービスをデプロイした話」というタイトルで導入事例を披露したのがナビタイムジャパンの田中一樹氏だ。

ナビタイムジャパン 田中一樹氏

 ナビゲーションや経路探索のアプリで知られるナビタイムジャパンだが、交通費精算や動態管理などのソリューション、電鉄/バス事業者向けソリューション、交通コンサルティング、テレマティックスなど幅広くB2Bビジネスを手がける。中国市場でも乗り換え案内アプリや訪日観光客向けのアプリ向けを提供しており、中国国内だけではなく、日本国内での利用も可能になっている。今回Alibaba Cloudを採用したのも乗り換え機能に特化した中国市場向けの「ミニプログラム」だ。

 利用したのはAlibaba Cloudの香港リージョンで、コンテナベースのバックエンドを構築。中国国内からのアクセスだけでなく、日本国内からのアクセスを高速に行なうためのCDNのほか、データを溜めるOSS(Object Storage Service)、コンテナサービスをワンクリックで利用できるROS(Resource Orchestration Service)などを採用した。デプロイに関してはマルチクラウド環境に対応したCDツールのSpinnakerを用いており、Jenkinsの実行によってレジストリに登録されたDockerイメージを、Spinnakerが設定に従って自動デプロイする。いわばAWSやGCPなどと同じだ。

 Alibaba Cloudと既存の社内リソースの活用によりシステムは2週間で構築までこぎつけたが、「RAMと呼ばれる権限管理が難しい」「CDNの事前検証/証明書」「NATゲートウェイの管理」など、つまづきポイントがあったという。リリース後の所感としては、「マネージドサービスが豊富」「サービスがAWSライク」「権限管理がしっかりできる」などのメリットがあったという。一方で、「日本語のドキュメントも少ない(英語も少ない)」「マネージドコンソールの一部が日本語表記に未対応」といった言語の壁のほか、権限管理も難しかったという。

 今回はアクセスログの可視化に「DataV」を採用した。DataVは豊富なグラフパターンを備えた高機能なデータ可視化ツールで、アリババグループの一大セールイベントである「独身の日」でも売り上げ分析に採用されている。現状はリアルタイムなデータ分析環境を構築したいという。また、アクセスログを見ていると、攻撃やクローラーのアクセスも多いので、WAFの導入を検討しているという。

豊富なグラフパターンを備えたDataVのデモを披露

 なお、セッション内ではアリババクラウドとナビタイムジャパンは訪日中国人向けのサービス連携が発表された。多様化する訪日観光者に向け、高度な経路探索やカスタマイズされたレコメンド機能を提供するという。

Alibaba Cloudの画像検索を検証したメルカリ

 続いてAlibaba Image Searchの検証と9月に行なわれた「Apsara Conference」での学びを語ったのは、メルカリのInnovation Engineering Managerの福田慧人氏だ。

メルカリ Innovation Engineering Manager 福田慧人氏

 最近、メルカリが導入を推進しているImageTechは、画像を用いることで容易で安全な利用を実現する技術。具体的には出品ジャンルを自動で検出するAIリスティングや買い手による画像検索、不正出品の自動検出などが挙げられるという。たとえば、画像検索は写真を見ても名前のわからないモノ、すでに売り切れた商品やInstagramに載っている商品、新品を買う前に中古品をメルカリ内で調べる場合などに活用できる。

 Alibaba Cloudでも画像検索サービスを用意しているが、メルカリが評価したのはアリババのコマースでの実績だ。実際に評価してみたが、AWSやGCPを同じ感覚でインスタンスを構築し、画像検索を試すことができたという。具体的にはメルカリ側に登録されている画像をAlibaba Cloudにリアルタイムに連携し、ユーザーからファッションや家電、家具という3ジャンルで画像検索できるようにしてみたという。

 さまざまな画像データを用意し、メルカリとアリババの画像検索を比較したところ、平均のスコアを見る限り、大きな差はなかった。とはいえ、メルカリのスクリーンショット、グレースケールや暗いところの写真はメルカリの画像検索、インスタグラムのスクリーンショット、複雑なパターンが含まれているアイテムの写真ではアリババの方がよい品質だったという。

 後半はApsara Conferenceの持ち帰りが披露された。会場はアリババグループが本拠地とする浙江省杭州で、グローバルのクラウドイベントに参加している福田氏にとっても規模の大きさはかなり印象的だったようだ。福田氏が持ち帰ってきたキーメッセージは以下の7つだが、テクノロジー偏重ではなく、価値やビジネスに重きを置くところ、そして変化を受け入れ、最適な方法を自ら作り上げていく価値観などが印象的だったとのこと。また、顔認証での決済やロボット、IoTホテルなど未来のショーケースとなっているアリババキャンパスも、かなりのインパクトを受けたようだ

 その後、イベントではアリババクラウドが「Apsara Conference 2019」で発表された技術戦略を披露したほか、スクウェア・エニックスやインテル、EAGLYSなどが事例や活用提案について説明した。上陸から3年目を迎え、国内企業での利用も着実に増えてきた印象だった。

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