サイバーエージェント・キャピタルは2019年10月9日、渋谷のHoops link Tokyoにて、創業期の起業家向けピッチイベント「Monthly Pitch#32」を開催した。本イベントは、シード・アーリー期のIT関連ベンチャーに特化して募集し、投資家とのネットワーキングを目的に毎月第2水曜日に開催されている。32回目の今回はスタートアップ7社のほか、ゲストとして特許庁のベンチャー支援班が登壇しスタートアップ同様に5分間ピッチに参戦した。
大企業とベンチャーの人材交流マッチングサービス「JOBOOT(ジョブート)」
大企業は社内に事業立ち上げの経験者が少なく、ベンチャーは人材やノウハウといったリソースが不足している。JOBOOTは、人材を育てたい大企業と、リソースや知識がほしいベンチャーをマッチングして、双方の課題を解決するサービスだ。
企業間の人材交流では、1年間や半年などの長期で出向する形が一般的だが、JOBOOTではプロジェクト型の研修として業務20%の範囲内で実施するため、人事上の手続きがいらないのが特徴。同社は6月に起業したばかり。1ヵ月前に営業を始め、現在は大企業10社、受け入れ側のベンチャー30社と導入準備を進めている。
釣り好きのためのコミュニティサービス「ANGLERS」
アングラーズの若槻嘉亮CEOは、自身の趣味である釣りの情報がインターネット上に少ないことから、釣り人向けのCGMサービス「ANGLERS」(https://anglers.jp/)を開発。
ANGLERSのユーザーは釣果の写真を投稿し、釣果データが集まることによって地域や魚種からよく取れる魚や釣りスポットが検索できる。現在は、投稿の多い魚種や地域のランキングや、全国どこからでも参加できる釣り大会イベントを開催している。今後は、人気の高い釣果写真への広告表示、釣り具のECの運営などサービスを拡大していく計画だ。
入居者がお部屋情報を発信するCGM型賃貸住宅情報サイト「AImove」
賃貸物件の内見に行ったときに「イメージと違う」と感じたことはないだろうか。近年、住宅情報サイトは写真や間取りの動画といったコンテンツを増やすことでアクセスは増えているが、成約率にはつながっていない。その原因は、人が住んでいない空室の写真を見ても、実際の住み心地をイメージするのが難しいからだ。
「AImove」(https://aimove.f-property.com/user/top)は、不動産会社を使わずに物件を見つけられるCGM賃貸情報サービス。空室ではなく、現在の居住者に室内の写真や動画をアップしてもらい、設備やライフスタイル、注意点などを画像上に吹き出しで表示。賃貸希望者から質問することもでき、内見前に実際の居住イメージをつかみやすい。ターゲットは都心の10~30万円の賃貸物件。現在は、1月のリリースを目標に開発に着手した段階だ。
世界中の食材を売れる・買える産直プラットフォーム「SECAI MARCHE」
「SECAI MARCHE」(https://secaimarche.wixsite.com/secaimarchejp)は、東南アジアを中心とした産直プラットフォーム。杉山亜美代表が6年前にマレーシアで静岡茶の卸売業やカフェの運営をした経験から、世界中の生産者と外食産業をつなぐサービスを考案。
生産者は商品を掲載し、一括納品するだけで世界中から買い手が見つかり、買い手側は欲しい食材を簡単に探すことができ、少量ずつでも低コストで仕入られる。創業から1年で販売実績150店舗以上。商品の半分は東南アジアの生産品で、野菜、果物のほか、乳製品、シーフードや肉を取り扱っており、登録商品は1500アイテムを超える。
回遊データをAI分析し、サイトのコンバージョン率を上げる「KaiU/AAO」
コンバージョンテクノロジーは、中小のEC事業者向けにコンバージョン率を上げるツールを提供している。「KaiU(回遊)」(https://conversion-technology.co.jp/service/kaiu.html)は、ユーザーが顧客サイトを離脱しようすると、お得情報などのバナーをポッアップ表示し、サイトの回遊率を上げる機能だ。裏側ではユーザーの行動データを収集しており、ユーザーに合わせたタイミングで最適なバナーを表示している。
さらに、このデータを活用したAIアドプランニングサービス「AAO」を開発。ネット広告は、GoogleやYahoo!、Facebookなど複数のサービスを使うのが一般的なため、同一ユーザーに重複して配信されるケースが多々発生する。「AAO」は、主要な広告媒体の出稿をAIでコントロールし、重複する広告配信を除外することで、広告のコストを最適化できる。4月にリリースして半年ほどだが、EC事業者だけでなく、不動産、トラベル、専門学校など、多種多様な業界に導入されているそうだ。
33万円でアプリが作れる「アプリモ」
「アプリモ」(https://docodoor.co.jp/lp_apps/)は、33万円からスマホアプリが作れるクラウド型アプリ開発プラットフォーム。集客や売上促進にはアプリの導入が有効だが、アプリ開発を外注すると300万円以上かかるのが一般的。そのため地方の中小企業ではアプリの導入が進んでいない。
アプリモは、SNSに投稿する感覚で写真とテキストを入力するだけで、プログラムなしにあらゆる業種や用途に対応したアプリが作れる。最短2~3時間でアプリ化が可能で、料金は33万円~と安価なので、社員研修や単発のキャンペーン用など、さまざまな用途に利用できそうだ。3年後を目途に海外展開も目指しているとのこと。
企業に直接投資する少人数私募債のWeb情報プラットフォーム「Siibo(シーボ)」
近年は規制の緩和により、ソーシャルレンディングや貸付ファンドの市場が拡大しているが、ファンド化されているため貸付先が不透明であり、貸したくない先にも資金が流れてしまう、といった問題が発生している。とはいえ、詳細な財務事情を一般に広く公開するのは、企業にとってリスクが高い。
「Siibo」(https://siiibo.com/)は、企業側が選定した投資家にのみ情報開示して投資を募る、少人数私募債のスキームをWebで実現したサービスだ。個別企業の情報を見て直接判断するので透明性が高く、仲介業者を挟まないので高い利回りが期待できる。現在α版として一部機能を提供中だ。
IT系ベンチャーの独自技術・サービスの強みを知財で守る
今回は特別ゲストとして、特許庁 企画調査課ベンチャー支援班 係長 小金井匠氏が5分間のピッチに参加。「Startup×知財戦略、知財の機能とサポート」と題し、先行するIT系ベンチャーのFiNC TechnologesとOne Tap BUYの知財戦略事例と知財の3つの機能、特許庁の5つの支援施策を紹介した。
ヘルスケアアプリのFiNC Technologesは、ユーザーに対する健康アドバイス等、多数の特許を取得している。One Tap BUYは、株数ではなく金額指定で注文に関して特許を出願。競合他社への参入障壁となり、特許が同社の強みとなっている。創薬やモノづくりはもちろんだが、IT・ソフトウェア分野においても、独自サービスの強みを知財で保護することは可能だ。
人材や資金のないスタートアップにとって、独自の革新的な技術(知財)こそが企業価値といえる。知財には、独占、連携、信用の3つの機能がある。独占は、独自技術を持つことによる差別化、競合の参入抑止になる。また事業提携時には、知財があることで交渉を有利に進められる。信用は、技術やサービスのブランディングとして活用できる。
特許庁では、スタートアップ支援施策として、1)知財アクセラレーションプログラム(IPAS)、2)知財ポータルサイト「IP BASE」(https://ipbase.go.jp/)やイベントを通じた情報提供、3)海外展開の支援プログラム(JIP)、4)0.7ヵ月で特許審査の結果が出るスーパー早期審査制度、5)特許庁への手数料が3分の1になる減免制度――の5つを実施している。
知財ポータルサイト「IP BASE」は、9月末に会員メンバーサイトをリニューアルし、知財専門家を探している、あるいはセカンドオピニオンを求めるスタートアップ向けに、知財専門家を検索できる機能が追加された。Twitter(@IP_BASE)でも情報発信しているのでぜひチェックしてほしい。また今回は多数のVC、CVC、エンジェル投資家が来場していたことから、「投資家へ向けた知的財産に対する評価支援の手引き」についても紹介した。
Monthly Pitchは、毎回多数の投資家が来場し、資金調達前のIT系スタートアップにとって魅力のあるイベントだ。これまでに登壇したスタートアップは242社。登壇企業には参加特典として、スポンサーのアマゾン ウェブ サービス(AWS)から無料クレジット5000ドル分/3年間有効、技術サポート、テクニカルメンタリングが提供される。
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