また山崎氏は、クラウドの存在も大きいのではと言う。
「これまではデータとコンピューティングとソフトウェアと、全部揃えるだけで億超えするので、スタートアップ企業にはとても手を出せない世界。でもクラウドが登場してコストも下がり、データ共有もしやすくなりました」(山崎氏)
そもそも"インターネット的"じゃなかったよねと小笠原氏。「衛星データを使ってきた人たちは、これまで(オンプレミスで)自分たちのお作法に乗っ取って使ってきたけど、それだとそれ以上の展開が期待できない。内閣府の「RESAS(地域経済分析システム)」みたいにAPI叩いてデータを利用するといったインターネット的な使いやすさは必要だと思う」。
実際、JAXA側にも戸惑いはあったのではという。
「宇宙開発はゲート(審査会)を設けて、一つずつ進めていくフェーズド・アプローチが一般的です。 一方、ITはアジャイルで開発を進めます。宇宙の場合、(予算も大きいし、一度宇宙へ打上げたら修理しにいけないため)ゲートでは、技術的に問題ないのか、また掲げた目標に達成できるのかをきっちり確認する。Tellusでは、現時点では、顕在化したターゲットユーザーが存在しないから、まずはオープンにして反応を 見ながら進めるという、ITドリブンなプロセスをとっています」(山崎氏)
JAXA側にとっても、大きな発想の転換になるかもしれませんが、Tellusがうまく進めば、 学びも多く、衛星データの利用の活性化に繋がるはずだと山崎氏は付け加える(山崎氏)
みんなでTellusを育てる!
Tellusプロジェクトのメンバーは現在、さくらインターネットに30名強おり、外部協力メンバーを含めると80人を超えるという。
「グループ会社含めて約30社が連携していて、よくこれでチームとして機能しているなと思う」と小笠原氏は笑う。
ユニークなのは、Tellusのオウンドメディア「宙畑(そらばたけ)」のメンバーだ。衛星データなどにどれくらい興味を持っている人がいるのかと調べていたところ、宇宙とビジネスを紐付けた記事を積極的に出していたメディアである宙畑に出会ったと小笠原氏。
「声を掛けたら、ほとんどのメンバーが来てくれた。大手企業で人工衛星開発に携わっていた人や、宇宙をよく知る若手が集まってます」(小笠原氏)
もっとも、プロジェクトメンバー全員が宇宙好きである必要はないし、そこはまったく関係ないと同氏は断言する。「エンジニアは大きなデータが扱えると喜んでくれているし、UIデザインなどをお願いしているデザイン会社のGoodpatch(グッドパッチ)やPRを協力しているオレンジ・アンド・パートナーズのメンバーも、それぞれ宇宙を魅せるUIやUX、PRが初めてだと楽しんでくれているようです」
それは経済産業省のメンバーも一緒だと國澤氏は断言する。「みんな関心が高くて、単なる民間委託事業じゃなくて自分たちもプロジェクトの一員だという気持ちが強くあるんです」。
みんなでTellusを育てていこうと、手を取り合って未来に向かっているのが本プロジェクトの良いところと、全員うなずいた。
海外の宇宙機関とのデータ共有も視野に
今後について、短期目標としてはeラーニング環境とマーケットの整備を行ない、今年度中に実証的に提供。eラーニングについては11月に提供開始予定。また、マーケットは衛星データや地上データをオープン&フリーで利用でき、オープン&フリー以外の有料データや衛星データを操作するアプリを購入・販売できる仕組みになる。さらに宙畑に執筆者として参加できる仕組みも作っていきたいとのことだ。
「あと、Tellusチーム内にヘビーユーザーを作りたいなぁ」と小笠原氏。みんなが思わず使いたくなるようなプラットフォームにするには、まずは自分たちがユーザーになるのが一番だと述べる。たとえば、ビジネスプレイヤーだけではなく個人がTellusを使い倒せるサブスクリプションなどがあれば、ヘビーユーザーになる可能性のある人たちへの間口が広がる。
國澤氏も現在、経済産業省だけではなく農林水産省やその他省庁で衛星データを活用しているところにTellusを広めて、みんな巻き込んで盛り上がりたいと力を込める。
「3年間の委託事業終了後はTellusを民営化する予定です。もちろん民営化した後も政府が責任持って衛星データ供給者として関わっていかなければなりませんが、3年の事業期間は短く、なのにやることがいっぱいで内心焦っています(笑)」
いずれは、国内のみならず、海外の宇宙機関とのデータ交換や共有も進めたいと國澤氏は明かす。また山崎氏も、人工衛星や探査機用のマイクロ波は数種類あり、「Lバンド(1~2GHz)は日本しか持っていないし、逆にCバンド(4~8GHz)はカナダやヨーロッパが持っている。データミックスというのも面白いし、ローカルからグローバルなビジネスも展開できたら楽しいですよね」と笑う。
グローバルという意味では、「たとえばミャンマーの子どもたちが安価なPCを使って、Tellus開発環境とデータを国を越えクラウド越しに使いながら、自国の農業のためのアプリケーションを開発できたら、最高です」と小笠原氏。山崎氏も「小学生がTellusでコード書いたら絶対面白い」、國澤氏は「大学のデータサイエンティストの授業で当たり前のように衛星データを使ってもらえるのも夢」と、期待は大きく膨らむ。
まずは宙畑などでTellusがどんなものか知ってもらい、データカタログを眺めてほしいと3人。Tellusで一気に身近になった衛星データで、想像を羽ばたかせてみてはいかがだろうか。
(提供:さくらインターネット)
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