評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。酷暑が続きますが、ご自愛ください。10月に聞きたい優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
『Abbey Road[Super Deluxe Edition]』
ザ・ビートルズ
ビートルズ楽曲の最新のビジネスモデルが、「50周年のアルバムをリミックス&ハイレゾで最新バージョンにグレードアップ」だ。発売の1967年から50年後の2017年は『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』、2018年の『The Beatles--White Album』(1968年リリース)、と来て、今年は『Abbey Road』(1969年リリース)だ。
来年は『Let it be』である。
筆者はビートルズの研究もライフワークだ。早稲田大学エクステンションセンターで、2018年から「コード進行で読むビートルズ」という授業を行っている。最初のアルバム「Please Please Me」から最後の『Let it be』まで全オリジナル213曲をコード進行の観点から徹底的に研究するというものだが、徹底的すぎて一回の授業で4曲しか分析できない。なので、もの凄く期間が掛かり、始まってから1年半のこの9月で、やっと『The Beatles--White Album』の途中だ。丁寧に一音一音の意味を考え、講義をしている。今回の『Abbey Road』は来年だ。
さてインプレッションだが、リミックスとハイレゾの二重効果は圧倒的だ。「1.カム・トゥゲザー」の冒頭のベストの偉容さ、音場の透明感、ヴォーカルの突っ込み力は格別。「2.サムシング」はこれまで聴いていた2009年リマスター・バージョンに比べ、各楽器の間の空気感が格段に濃くなり、音色にも滑らかさと繊細さが加わる。粒立ちも細かくなったのも二重効果の美点だ。「3.マックスウェルズ・シルヴァー・ハンマー」は、ヴォーカルの質感がひじょうに高い。音を磨いていったことが、分かる。これまで音が塊感として聴けたのが、それを丁寧にほぐしていったことが分かるリミックスだ。『Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band』や『The Beatles--White Album』のこれまでのビリミックスでは力感や輪郭感がより確実になる方向だったが『アビイ・ロード』は繊細さと緻密さ、滑らかさがメインの価値になった。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
UMC(Universal Music Catalogue)、e-onkyo music
『40周年記念ベストアルバム 日本の恋と、ユーミンと。[Remastered 2019]』
松任谷由実
天下のユーミンの初ハイレゾだ。それも、46曲ものベストアルバムだ。1年掛けて、丁寧にリマスタリングしたという。荒井由美時代の「1.やさしさに包まれたなら」は、このエコーの多い硬質なポップな音調からは当時の時代の景色がクリヤーに、そして鮮やかに蘇ってくる。松任谷名になった「守ってあげたい」は、それと対照的な抱擁力のある暖かな音調が聴ける。荒井「卒業写真」はしっとりさと鮮明さが同居し、懐かしさと共に新鮮さが聴き物だ。荒井「8.ルージュの伝言」は70年台のアナログサウンドだ。荒井「20.中央フリーウェイ」は、伸びやかで、パワフルで高解像度。ここまでフレッシュになったのかと驚く。荒井「45.ひこうき雲」(シングルバージョン)の透明感と抜けの良さにも感動。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Universal Music LLC、e-onkyo music
世界を駆けるジャズピアニスト、上原ひろみの10年ぶりのソロ・ピアノ・アルバム。豊穣なテクニックと、ゴージャスな色彩感、そして精緻な速弾に圧倒された。ソロピアノで、ここまでのスケールの大きさと精密さ、そして圧巻のダイナミズムが表現できることに感嘆。ハイテンションと快速ぶりが、実に爽快。音質も極上だ。打鍵の強靭さ、その弾力感、爆発的な音進行という上原ピアノの音的な美質が、実に見事に捉えられている。「NHK BS4K・BS8K」のPR映像で馴染んだ冒頭の「スペクトラム」は、映像では何十回も見ているが、きちんと聴けたのは今回が初めてだ。これほどの雄大さと、細密さが混じり合った作品だと識った。「2.ホワイトアウト」のピアノ一台から繰り出す無限の色彩感にも驚嘆。2019年2月20日~22日、カリフォルニア州ニカシオ、スカイウォーカー・サウンド・ステージにて録音。
FLAC:88.2kHz/24bit、MQA:88.2kHz/24bit
Telarc、e-onkyo music
石丸由佳はシャルトル大聖堂やパリのノートルダム大聖堂等のヨーロッパ各地の100か所以上のパイプオルガンを演奏した経験を誇る若きオルガン奏者。今回のアルバムは「宇宙」がテーマ。「スターウォーズよりメインタイトル」、「白色彗星/さらば宇宙戦艦ヤマト」は分かるが、バッハの平均律クラヴィーア曲集 第1巻 第1番 ハ長調BWV846プレリュードは何故?というと1977年に打ち上げられた2機のボイジャー探査機に搭載された金色のレコードに収録されていたからだ。
地球の名曲を宇宙人に聴いてもらうのが目的だが、恐らく、針式のレコードプレーヤーではなく、彼らはレーザーで再生する(?)、もしくは目からレコード盤の全面積を同時にスキャンする(?)のであろうか。それはともかく、壮麗、華麗なオルガンだ。音域の広さ、倍音の華やかさ、音色のブリリアントさ……は、まさにハイレゾ向きだ。冒頭の2曲のバッハからは、癒しと安らぎを感じる。「3.スターウォーズよりメインタイトル」では、一台の楽器が奏しているとは思えないポップなゴージャスさ。同じ豪華さでも「10.組曲「惑星」より 木星」は、クラシカルだ。DSD11.2ならではの表現性も濃密。「ハーモニーホールふくい」のパイプ数5014本のカール・シュッケ社製パイプオルガンを演奏。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit
DSF:11.2MHz/1bit、5.6MHz/1bit
キングレコード、e-onkyo music
ポップで都会的、ソフィスティケートされたおしゃれなピアノジャズだと聴いたら、なんとあの大江千里ではないか。かつてのJ-POP歌手は、ニューヨークでジャズピアニストになっていたのだ。ジャズピアニストとしては6作目のアルバム。ジャズピアノを勉強しにニューヨークに渡った成果としてのアルバムである。キャッチーで、印象に残るフレンドリーな音楽は、やはり出自の違いを感じさせる。ドラムスとベースというシンプルな編成で、大江のシンプルでクリヤー、インティメットな音楽性が際立つ。音も伸びが良く、小編成ならではの透明な質感が心地好い。
FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct (Japan)、e-onkyo music
ひじょうにクリヤーで、透明感に溢れたピアニズム。鍵盤の音色の暖かさ、潤いがハイファイな録音から伝わってくる。音色が叙情的で、音の一粒一粒に豊かな感情が込められている。特にきらめきの表情がいい。録音を担当したHD Impressionの阿部哲也氏が「グランドピアノの中に指先が見える音源に仕上がった」と述べているが、品位の高いブリリアントで、粒立ちの細かなサウンドであり。ヴィヴットな音調だ。録音は高崎にあるTAGO STUDIO。ピアノは『FAZIOLI』。「Resonance」とは「響き」のこと。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:5.6MHz/1bit
5.1ch WAV:192kHz/24bit、5.1ch FLAC:192kHz/24bit、5.1ch Dolby HD:192kHz/24bit
HD Impression、e-onkyo music
2020年に生誕250年を迎えるベートーヴェンの企画がこれからどんどん出てくるが、早くも、1995年生まれのカナダの若き俊英、ヤン・リシエツキとアカデミー・オブ・セント・マーティン・イン・ザ・フィールズが共演したベートーヴェン・ピアノ協奏曲全集だ。ライブ収録だが、それを感じさせない、細部まで目配りの行き届いた実に丁寧な録音だ。オーケストラの各声部の分離もよく、内声部まで明確に明瞭に聴き分けられる。同時にライブらしい響きも気持ち良く収録されている。ビアノの響きがホールに広く拡散する様子が目に見える(?)ようだ。コンツェルトハウスの古風で柔らかな響きも素敵だ。ビアノとオーケストラのバランスもよい。2018年12月2-6日、ベルリン・コンツェルトハウスでのライヴ録音。
FLAC:48kHz/24bit、WAV:48kHz/24bit
Deutsche Grammophon、e-onkyo music
『プロコフィエフ:バレエ音楽「ロメオとジュリエット」全曲 作品 64』
ウラディーミル・アシュケナージ、シドニー交響楽団
EXTONでは過去の傑作のDSD(2.8MHz)化を積極的に進めている。これは2009年に行われた、アシュケナージとシドニー響によるプロコフィエフ・フェスティバルでのメインプログラム、バレエ音楽「ロメオとジュリエット」の全52曲収録だ。繊細で、エレガント、そして実に色彩感豊かなロメジュリ だ。表情変化がこまやか、弦の歌いが麗しく、ホールへの響きの拡がりも美麗だ。奥行きも深い。江崎録音は、どんなに金管が咆吼しようが、トゥッティで爆発しようが、バランスと整然さを保っているのが美質といえよう。有名な「13. 騎士たちの踊り」の包容感と迫力は大いに聴き物だ。音調はDSD的な滑らかさが快感的。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit
EXTON、e-onkyo music
1985年に録音された、幻のアルバム『ラバーバンド』の音源に最新のヴォーカルを被せた新旧の融合アルバム。ヴォーカル部分は新録だからクリヤーでフレッシュであるのは当然なのだが、バックのマイルスバンドもこの当時の音源とは思えない、シャープで伸びの良い新鮮なサウンドを聴かせてくれる。個個の楽器のフューチャー感に加え、全体としての音色的なまとまり、統一性も深く感じられるのである。タイトル曲「11.Rubberband」のリズムの躍動、突きぬけ感はまさに耳の快感だ。
FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio:96kHz/24bit
Rhino/Warner Records、e-onkyo music
もうひとつジャズの未発表音源。1964年に、マッコイ・タイナー(p) ジミー・ギャリソン(b)、エルヴィン・ジョーンズ(ds)と録音したフランス語映画「Le chat dans le sac (“The Cat in the Bag”)』のサウンドトラックだ。サックスの偉容さがメインにフューチャーされている。音の突っ込み感とスケール感、そして重たい飛翔感も聴ける。アナログならではの盤石な安定感と、伸びが感じられる。ひじょうに音像が大きく、ピアノソロも音進行がこまやか。スタジオでのディレクターのテイク声も入る貴重な録音だ。1964年6月24日、ニュージャージーのヴァン・ゲルダー・スタジオで録音。
FLAC:192kHz/24bit、MQA:192kHz/24bit
Verve Label Group、e-onkyo music
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