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IoT H/W BIZ DAY 2019セッションレポート

仮想通貨だけではない、ブロックチェーンの期待はIoT

2019年09月17日 06時00分更新

仮想通貨以外の事業でも活用されているブロックチェーン

 モデレーターからの最初の質問は「各社が行なっている事業や取り組みの中で、ブロックチェーンがどのような関わりを持っているのかと、想定できる利用シーンについて教えてください」というもの。

各社のブロックチェーンとの関わりについて事例を紹介してくれた

 「漁業におけるブロックチェーンは、RFIDによるトレーサビリティーに使われていて4つのメリットがあります。まず、環境保護に配慮した捕獲や取引ができます。漁業は資源管理問題を抱えています。資源を意識して取ろうとしても、不法漁業が問題になっているのです。ブロックチェーンで取った海域や船がわかれば、不法漁業を市場から閉め出せます。

 2つめは情報の可視化です。消費者が購入する際の情報を増やすことができます。企業はブランディングの向上にも活用できます。3つめは、サプライチェーンの効率化によるコストの削減です。複雑なサプライチェーンの中で、消費者に魚が届くまで、50%の魚が廃棄されていると言われています。ブロックチェーンで可視化して効率化することで、この破棄を減らせます。また、どこかで問題が起きたときにも、トレーサビリティーで原因を解明できます。

 4つめは労働環境の改善にも役立ちます。ブロックチェーンで、この船が何時間出ていて何人乗っているか、などの情報を記録すれば、労働環境の改善に役立てられます」(池森氏)

 「ブロックチェーンには、コンソーシアムチェーンとパブリックチェーン、プライベートチェーンという種類があります。プライベートチェーンは完全に1社だけで独占して管理します。そのため、あまりブロックチェーンの意味がありません。パブリックの場合は、完全にオープンな状態でブロックチェーンを管理するもので、ここだと個人情報を入力すると誰でも見ることができてしまいます。実用的なのがコンソーシアムチェーンです。

 国内だと、不動産コンソーシアムがいくつか立ち上がっています。完全にプライベートでもなくパブリックでもなく、10社から100社くらいでブロックチェーンを管理します。例えば、国と大学と民間の三者で協力して、ブロックチェーンを管理することで、学位が改ざんされていないか、というところを見るのです」(田上氏)

 「弊社のサービスだと仮想通貨事業になってしまうので、それ以外のモックレベルで作っているブロックチェーンを活用したものを話すと、民泊向けのスマートロックがあります。民泊向けで、泊まりたい方がお金を払って、お金を払ったウォレットのIDで鍵を開けるハードウェアウォレットを作りました。

 その時に使うのがスマートコントラクト技術です。お金を払ったら、その契約をブロックチェーン上に記録するシステムですが、データの読み出しをする際にプログラムを動かせます。その技術を使って開発したのが、IoTからデータを買う仕組みと、APIやサービスをスマートコントラクトで販売するという仕組みを組み合わせたモックです。

 たとえば、スマホで定点撮影した動画を販売する際、CtoCのシステムを弊社サーバーに構築します。窓を模した液晶に沖縄の家からの風景をずっと表示しておきたい、というユースケースだと、ユーザー様はあまりたくさんの方に配信できる環境がありません。二人以上が見ている時には、DMMのサーバーをスマートコントラクトを使って有料で借ります。こうすることによって、ユーザーはカメラを置いておくだけで、不労所得を得ることができます。うちはサーバーを借りれるようにしておけば、勝手に儲かるような仕組みになっています。ユーザー側の機械や弊社のサーバーが自動で判断して、経済活動ができ、人が介在しないので、ビジネスとしてはスケールするので面白いわけです」(野秋氏)

 「イタンジでは現在、国交省が社会実験を推進している不動産の電子契約分野でブロックチェーンを活用していますが、我々は、スマートコントラクトの文脈では、賃貸の電子契約でスマートコントラクト化は必要ないと考えています。賃貸の契約書が改ざんされることは、実際にはほとんどありません。ですから、電子契約にする意味はすごくあるのですが、ブロックチェーンを使う意味はあまりありません。実は別の目的がありまして、コンソーシアムチェーンでは多数の方向に対して、インフラのように情報を提供できるというメリットがあります。

 賃貸の申込書の中には、年収や連帯保証人の名前、連絡先などの110項目の個人情報が含まれています。現状では、この申込書を不動産会社がほぼ勝手に、提携している保険会社や保証会社、引っ越し会社に流して、キックバックをもらっています。これが、個人情報保護の観点から非常に問題があります。

 我々はこの勝手に個人情報が流出するのをなくしたいと考えています。引っ越しするタイミングでは、インターネットや電気、ガスなど、様々な商品に対して、意思決定が行われます。これらの会社をコンソーシアム化して、ユーザーのメリットのあるサービスに対し、個人情報を整合性のある形で受け渡そうということをやっています」(野口氏)

ブロックチェーンの次の一手は?

 モデレーターから、「ブロックチェーンの延長上、どのくらいのところにビジネスがあるのでしょうか」という次の質問が降られた。

 「1次産業にトレーサビリティーが入ってくるのはわかりきっていますし、効率化を考えたら来る未来です。いち早く導入していくかがキモになるかと思います」(池森氏)

 「グローバルではかなりスケールしている中で、日本だけ置いて行かれている状況なので、彼らから学び、事例を増やして行けたらなと思っています」(田上氏)

 「ブロックチェーン導入ではコストが障害になります。ビジネスをスケールすることによって、それを改善するという方法はパズルの一つとしてありだなと思います」(野秋氏)

 「プラットフォーマーがブロックチェーンを使うのに意味がありますが、ブロックチェーンを使ったからといってプラットフォーマーが成長するわけではありません。サービスが成長していないのに、ブロックチェーンを使っていますということがありますが、ブロックチェーンだからサービスが使われることはありません。現時点で、ブロックチェーンを使うことでメリットがあるのは、すでにプラットフォームとなっているところです。我々はそこをやっていこうと思っています」(野口氏)

 ブロックチェーンは10年前に登場し、ガートナーが提唱するハイプ・サイクルでは「過度な期待」から「幻滅期」に入っていると言われている。暗号通貨以外のソリューションがあまり日の目を見ていないためなのだが、最先端の企業ではやはり動きは止まっていなかったようだ。暗号通貨ではない技術やプロダクトが開発され、実際にビジネスの現場で活用されている。参加者にとっても、今回の事例はとても刺激になったことだろう。

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