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手軽に使える「FAST RPA コボット」はロボットの管理いらず

人手不足はロボットで解消?求人サイトのディップがRPAに参入する理由

2019年09月05日 09時00分更新

 求人サイト、アルバイト情報サイトを運営するDIP(ディップ)は、独自のコンセプトで開発したRPA(Robotic Process Automation)である「FAST RPA コボット」を発表した。当初は人材派遣業の定型業務に特化したプロセス自動化ロボットを用意し、9月2日より販売を開始する。

ファストフードのように安くて手軽なRPAがコンセプト

 コボットの開発責任者であるディップ執行役員AI・RPA事業部長の三浦日出樹氏は、従来のRPAの問題点を「開発や導入のコストが高く、導入までに時間がかかり、保守のコストも高い」の3点だと指摘し、コボットはそれらの問題を解決した「FAST RPA」だと説明した。

コボットの開発責任者であるディップ執行役員AI・RPA事業部長の三浦日出樹氏

「たとえば、『ファストフード』『ファストファッション』のように、“ファスト”には速いだけでなく“手軽で安い”ときに使われます。当社のRPAは従来よりも“手軽で低コスト”という思いを込めて『FAST RPA』と名付けました」(三浦氏)

 コボットは、オフィスのPCにインストールするデスクトップ型のRPAだが、大きな特徴はディップが運営する監視センターによるロボットの保守サポートが組み込まれた月額課金制モデルであることだ。月額費用は他のRPAより安い10万円以下を予定している。

ロボットの稼働を遠隔監視するサブスクリプション型のRPA

 コボットの導入に関しては、もともと同社が熟知する人材派遣会社の定型業務をさらに徹底的に研究し、導入先企業による開発を不要にした。ITリテラシがそれほど高くない業務担当者も想定し、現場ではプログラムファイルをダウンロードし、実行するだけ。その後の動作設定、調整は基本的にディップのカスタマーセンターからリモートで行なうことを可能にしている。

 ロボット稼働後も、24時間365日遠隔で正しく動いているかをディップが監視。万一ロボットが停止したり、エラーを起こしている場合は、カスタマーセンター側で再起動やプログラムの修正を行う。この保守サービスを含んだ月額定額のサブスクリプションモデルで販売する。

「いわゆる“野良ロボット”と言われる動かなくなって放置されるRPAの問題は、止まった原因の究明と復旧作業が導入先まかせだったことにあります。コボットはそこに注目し、止まったロボットの再起動やエラー時の対処などをカスタマーセンターから常時行うサービスを標準装備しました」(三浦氏)

 もちろん、ロボットが止まる原因はさまざまなことが考えられる。ディップが監視しているのはロボットの稼働状況だけなので、原因が企業の扱うデータそのものにあるような場合は、ディップが介在できないため、その旨を伝えて企業側で対応してもらうことになる。

 カスタマーセンターで監視と遠隔保守にあたる人員は、初年度は10~15名程度を予定しているが、監視員1人につき50~100社程度はカバー可能とのこと。RPAソフトウェアの導入目標は明らかにしていないが、「当面は人材派遣会社のうち1000社程度をターゲットに設定して売り込んでいく」としている。

人材派遣会社の定型業務は労働時間の4割に達する

 オンライン求人媒体の運営会社であるディップが、なぜRPAの開発をしたのか。それは人材業界自体が深刻な人手不足にあるからだという。

発表会見では、人材派遣会社の定型業務をベテラン社員とRPA(コボット)で比較するデモも実施。結果はコボットがおよそ5倍のスピードで作業を終わらせた(写真提供:ディップ)

 リーマンショックの影響で大きな打撃を受けた人材派遣業界は、その後再び拡大を続け、昨今の働き手不足を背景にして好調な業績を維持しているが、逆に人材の確保が困難な状況に悩まされている。とくに中小規模の派遣会社では、人手不足で派遣業務を受注できず、倒産に追い込まれるケースも少なくない。

 少ない働き手を何とか確保しようと、派遣会社のスタッフの業務は煩雑さを増している。まずディップのような複数の求人サイトへの情報登録に始まり、応募者からのエントリーを毎日集めて内容を確認、個別にメールを送ったり面談を行って派遣登録へ進める。もちろん、登録済みのスタッフからの問い合わせにも対応する。一方、派遣先の企業からの募集は非常に多い。できるだけ多くの人材を確保するため、多数の求人サイトへの登録をこなさなければいけない…。こうした定型業務は、業務全体の約4割にもなるという。

 派遣会社のスタッフがこうした定型業務に追われていると、応募者との面談をする時間が取れず、派遣先への提案も遅れてしまう。そうこうしていると応募者が別の派遣会社へ流れてしまうことにもつながる。「特に中堅中小企業では、定型業務を極力減らし、人でなければできない仕事にできるだけ時間を振り分けなければいけません。コボットはその助けになると思います」(三浦氏)

 販売開始に先駆けてコボットをテスト利用してきた人材派遣会社日本リックの松戸尚哉執行役員は、「コボットによって月間およそ40時間の削減効果がありました。業務の繁忙期には、130時間以上の時間削減が期待できると思います」と、はやくもコボットの導入効果を感じている。

採用管理業務の自動化も視野

 コボットは、当初は人材派遣業の業務に限定してロボットを提供するが、将来は飲食・小売りなど他の業界向けにも展開していく予定だ。

 人材派遣業に近いところでは、企業の人事部門の採用管理業務などが視野に入っている。採用・人事など“人”に関する業務は、企業の中で長い間聖域扱いされてきたため、属人的な情報管理が続いてきた。そのため最もIT化、業務効率化が遅れている職種の1つだと三浦氏は言う。

「採用管理に特化したソフトウェアは、すでに各社から出ており、多くの企業が利用しています。しかし、採用担当者の実際の業務は、例えば面接一つを調整するにしても、応募者のステイタスと予定を採用管理ソフトで確認し、社内のカレンダーソフトで面接担当者の予定を確認、また別のソフトで会議室を予約して、それぞれの関係者にメールやチャット、SNSなどで通知するといった複数のアプリケーションにまたがる作業が必要です。コボットが得意とするのは、複数のアプリケーション間の自動連携なので、人材派遣向けの定型業務と同様に業務効率化に寄与できると思っています」(三浦氏)

「ロボットの面倒を見なくてもよいRPA」は、中堅中小企業の業務改善に新しい流れを作ることができるか。

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