週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

自動運転の基礎 その10

トヨタの自動運転技術は「ショーファー」と「ガーディアン」

2019年09月10日 09時00分更新

トヨタが目指す自動運転の未来

 日本の自動車メーカーの中でも、特に自動運転技術の開発に熱心なのがトヨタだ。2018年1月に、モビリティサービス(MaaS)専用次世代電気自動車(EV)となる「e-Palette Concept(eパレット・コンセプト)」を発表。東京オリンピックが開催される東京で、2020年には街を走らせると喧伝した。また、ソフトバンクと共同で、モビリティサービス(MaaS)を司る「モネ・テクノロジーズ(通称:MONET)」を立ち上げるなど、単に自動でクルマを走らせるだけでなく、ビジネスとして成立させる動きも熱心だ。

 そんなトヨタの自動運転技術のコンセプトの特徴は「ショーファー(自動運転)」と「ガーディアン(高度安全運転支援)」という2つのモードを用意すること。

 「ショーファー(自動運転)」とは、文字通り、一般的なイメージの「自動運転」技術そのもので、ドライバーに代わって運転操作をするモード。ただし、あくまでもドライバーの運転タスクを代行することを目指す技術で、完成した自動運転を意味するわけではない。「ショーファー(自動運転)」の能力が低ければ、ドライバーによる監視が必要になる。レベル2やレベル3の「ショーファー(自動運転)」もあり得るということ。逆に能力が高まれば、レベル4や5の自動運転も可能となる。

 一方の「ガーディアン(高度安全運転支援)」は、“支援”が主眼だ。そのため運転操作の主体はドライバーとなる。ドライバーの運転をシステムが見守り、支援が必要なときだけ働く。「ガーディアン(高度安全運転支援)」の能力が高まるほど、さまざまなトラブルから、クルマと人を守ることができる。衝突被害軽減自動ブレーキやレーンディパーチャーアラート(車線はみ出し警告)など、すでに実用化されている機能も、それらに該当する。さらに能力が高めれば、後方からの追突の危険を検知して、自動で避けるような動きも可能になるかもしれないという。

 この「ショーファー(自動運転)」と「ガーディアン(高度安全運転支援)」は、どちらもハードウェアとソフトウェアを共有することがあるのもポイントだ。働きかけ方は異なるが、どちらも同じ自動運転技術を基礎としている。

 そして、トヨタの自動運転技術のユニークな点は、「ガーディアン(高度安全運転支援)」を他のシステムと一緒に使うことを考えているところ。たとえば、Uber社との案件だ。昨年となる2018年8月にトヨタはUber社との協業を発表した。そこで、Uber社の自動運転キットとトヨタの「ガーディアン(高度安全運転支援)」システムを組み合わせることを発表したのだ。基本となる車両は、トヨタ車で、そこに「ガーディアン(高度安全運転支援)」を標準装備とする。これにより、万一、Uber社の自動運転システムがトラブルを起こしたときに、「ガーディアン(高度安全運転支援)」がセーフティーネットとして働き、より安全性を高めることになる。この方式は、「e-Palette(eパレット)」にも採用され、ユーザーはトヨタ以外の自動運転システムを利用することが可能だという。

 さらにトヨタは、レベル2~3の量産車に自動運転システムを追加することで、レベル4のモビリティサービス(MaaS)車が開発されるケースも想定しており、そこにも車両側に「ガーディアン(高度安全運転支援)」を搭載するという。ここで使われる自動運転システムは、トヨタ製とは限らない。そして、自動運転システムと「ガーディアン(高度安全運転支援)」で二重に安全を確保する。

 すべてを自前のシステムだけで賄うのではなく、他社のシステムをも受け入れる余地を残しているのが、トヨタの自動運転技術の特徴だ。自動運転の技術は、今まさに世界中で開発競争が繰り広げられている。将来的に、自動運転システムがどのように普及するのかは、まだ不明だ。どこか一つのサプライヤーが独占するかもしれないし、逆にさまざまなシステムが使われるようになるか、現在のところは、誰にもわからない。そんな中で、他社のシステムを受け入れる余地を残しつつ、安全を確保しようというトヨタの姿勢は、柔軟でクレバーなものと言えるだろう。

筆者紹介:鈴木ケンイチ


 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。



この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この連載の記事