アドビ システムズが7月に都内で開催した「Adobe Symposium2019」で、電通デジタルが「Adobe Document Cloud」の活用による自社の業務効率化について講演した。労働環境の改革に取り組んでいる電通のグループ会社である電通デジタルは、PDFの資料作りをAdobe Document Cloudで刷新し、ワークフローを大きく改善した。
チームの業務効率化のポイントは「文書作成・管理プロセスの改善」
電通デジタルは、2016年に発足したデジタルマーケティング支援企業。デジタルマーケティングのすべての領域に対して、コンサルティングや開発・実装、運用・実行支援の機能を持ち、統合的なサービスと最先端のマーケティングサービスを提供している。労働環境改革の流れを受け、電通デジタルでは業務効率化を進めており、その成果を確認するため2019年6⽉に社員向けにアンケートを実施した。
その結果は、改善と課題を示すものだった。まず「自社は業務効率化が進んでいる」と答えた社員は約45%だったのに対して、「改革には前向き」「やや前向き」を合わせた回答は、回答者の95%に上った。さらに、業務効率化が実践できているかについての質問には、個人が61%、チームでは47%が「できている」と答えた。同社で業務効率化を推進しているストラテジー部門長補佐の大松正人氏は、「このアンケート結果を見ると、当社の業務効率化にはまだやるべき余地が残っており、とくにチームでの業務効率化が必要だと感じた」と語った。
同社ではクライアント向けのレポートなど、資料作りの業務が非常に多い。これまでにも定型文書のフォーマット化や単純業務の外注化を実施し、社内連絡はメールからSlackへの移行を積極的に促すなど、さまざまな効率化の取り組みを進めてきた。
だが、さらにチーム内の業務効率化を進めるためには、文書作成・管理のプロセスに手を入れる必要があった。「社員に『非効率な業務』についていくつか例を挙げて質問したところ、資料作成時に『PDF形式のデータを別のデータ形式に書き換えるのに手間取った』と答えた社員が62%で一番多かった。このことから、PDFに対しての社員の理解が足りないこと、PDFの運用次第でさらに業務効率化を図れそうだと思った」(大松氏)
電通デジタルは、広告技術のパートナーとしてアドビ製品を利用する中で、Document Cloudの存在を知ることになる。大松氏は「自分自身も、PDFというと『ドキュメントを固めるもの』というイメージを持っていて、たとえばエクセルのデータをプレゼンで使うときに、PDF化して編集できないようにするといった使い方しか知らなかった。しかし、Document Cloudを知るにつれ、PDF=Portable Document Formatの名の通り、本当はドキュメントを編集したり、共有できるフォーマットで、『ドキュメントに自由を与える』ものだとわかった」と振り返る。
まずは社内で先行プロジェクトを組んで、業務の中でDocument Cloudを使い込んでみることにした。
「簡単に非効率を改善できること」がポイント
大松氏は、社内で「KNOWLEDGE4」という情報共有会も主催している。毎週行なっているこの会の狙いは、社員間の業務のナレッジを徹底的に共有し、組織力を強化することにある。「たとえばクライアントへの提案を各個人がバラバラに行なうのは非常に効率が悪い。経験を持つ他の社員のノウハウを生かせば、効率もよくなるし、成果が出やすくなる。仕事を登山にたとえれば、『ふもとから登るのでなく、つねに五合目から登る』を意識するのが大切だと実感している」(大松氏)
電通デジタルではクライアントへの提示資料に、さまざまな市場環境や業界動向のグラフや表組を用いるが、それらの情報源は公的機関の開示情報も多い。たとえば総務省発表でPDF化されたデータを使うときに、そのPDFの数値部分をパーセントから金額に変えるようなことが、Document Cloudであれば簡単にできる。「こういう場合、数値を読み取ってパワーポイントやエクセルでグラフを作り直すようなことがあちこちで行なわれてきた。PDFは修正可能ということを知ってもらうだけで、相当作業が楽になる。新しいワークフローを浸透させるには、簡単に非効率が改善できることを示すのがとても重要だと感じている」(大松氏)
また、何十ページにもおよぶPDF資料の全部ではなく、必要な数ページだけを共有すればよい場合は、PDFをページごとに分割する機能が役に立つ。これも意外と知られていないことだ。
社内のペーパーレス化を進める場合にも、PDFを介する運用が役に立つ。アドビが提供するスマホアプリの「Adobe Scan」を使えば、スマホで撮影した画像をPDF化してそのままクラウドに保存することができる。従来は複合機でスキャンしてPDFで保存し、それをクラウドにアップロードする手間が必要だったが、大幅な時間短縮になる。さらに、会議の際に書き込んだホワイトボードの写真を撮り、議事録と一緒に保管することで会議の記録を素早く共有できる。
これらをはじめ、PDFの活用を軸にさまざまな業務改善のパイロットプロジェクトを実施した結果、メンバー全員のPDFへの認識が変わり、現場の業務改善に大きく役立つことがわかった。メンバーからは、特に「時短」「セキュリティ」の2点について評価が高かった。
大松氏は同社の業務効率化について「最初は社員個々でクラウドストレージを使うなどによって仕事の効率化を図る『業務効率化1.0』から始まり、次に文書をチームで共有する『業務効率化2.0』に進んできた。ここからは、成果物の付加価値を高める『業務効率化3.0』の段階へ発展させる。そのために、Document Cloudなどの必要なツールを用意するのは会社の役目だ」と語った。
週刊アスキーの最新情報を購読しよう