週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

デロイト トーマツ グループ 里崎慎氏インタビュー前編

スポーツのスポンサー活動は付加価値で利益を拡大できる

 日本人にとって、スポーツとビジネスは相反するイメージがあり、クラブチームの売り上げに一般のファンは無関心だ。しかし欧米では、スポーツをビジネスとして捉え、その市場の動向に企業や人々が高い関心を持っている。日本のスポーツビジネスを発展させるには、クラブや団体側、スポンサー企業側の双方が意識を変えていくことが必要だ。スポーツというコンテンツを、どのようにビジネスに活用していくべきなのか。デロイト トーマツ グループでスポーツビジネスの支援を手掛ける里崎慎氏に、スポーツの潜在価値、企業やスタートアップにおけるビジネスの可能性を伺った。

 デロイト トーマツにスポーツビジネスグループが立ち上がったのは、2015年4月。その1年前の2014年、里崎氏らが社内のビジネスコンテストにスポーツビジネスグループの企画を応募し、大賞を受賞したのが設立のきっかけだ。

 グローバルのデロイトとしては、以前からスポーツビジネスグループがあった。例えば、Deloitte UKのスポーツビジネスグループは20年以上前から「Football Money League」を毎年発行している。「Football Money League」とは、欧州5大リーグに所属するクラブを中心とした、クラブ別年間売上高ランキングのトップ20を発表する調査レポートのこと。ヨーロッパでは、「Deloitteといえば『Football Money League』」というほど有名な冊子で、800を超える世界中のメディアでも取り上げられているという。

「Football Money League日本語抄訳版」(関連サイト) https://www2.deloitte.com/jp/ja/pages/consumer-and-industrial-products/articles/sb/football-money-league.html

 「僕は、デロイトに入って初めて『Football Money League』のことを知りました。アジア版も作ったら、欧州のサッカーのビジネスと日本のJリーグのビジネスがデロイトという同じ物差しで比較できる。しかし、日本のデロイトにはスポーツビジネスの部署がなかったので、ビジネスコンテストに応募して、自分たちで作ることにしたのです」

しかし、当時の日本では、スポーツでビジネスをする風潮はない。そこで里崎氏らのチームでは、リーグや協会といったクラブチームを統括する組織と組み、日本にスポーツビジネスのプラットフォームをつくる取り組みから活動を開始している。

 「特定のクラブチームや企業だけががんばったところで、マーケットは育たない。マーケットを大きくするには、いろいろな人がどんどん市場に参入し、プレーヤーがもっと増えていかないと。まずはその入り口をつくることが僕らのミッションです」

東京オリンピックは、1業種1社のルールを撤廃

 オリンピックのスポンサーは、1業種1社というイメージがあるかもしれない。これはコンテンツホルダーが決めたルールによるものだ。1業種1社とスポンサー枠に独占権という価値を付加して競争を促し、高いスポンサー収入を得ていた。

 しかし東京オリンピックでは、1業種1社の制限をなくし、同じ業種から複数社がスポンサーになれるようにルールが変わった。結果、日本の名だたる企業のほとんどが東京オリンピックのスポンサーとなり、スポンサー収入は、史上最高額を達成している。

 一見、スポーツビジネスの発展にとって好ましい状況だが、里崎氏は、危うさも指摘する。

 「スポンサー企業にとっては、スポンサー権の購入は投資のひとつ。であれば、当然、その投資をどのように回収するのかも考えておくべきです。ところが今回の東京オリンピックでは、『競合がスポンサーになったから、うちも出さないわけにはいかないだろう』といった日本独特の横並び意識や、従来からの慣習等を理由にスポンサー料を払っている企業も少なくないのが実態です」

 もし、今回のオリンピックでメリットが得られなければ、今後もスポーツのスポンサーになりたいとは思わないだろう。すると、将来的なスポーツビジネスの発展にはマイナスになる。そうならないように、スポンサーシップの形をもう一度、立ち止まって考える必要があるだろう。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります