2019年6月25日、アドビシステムズは、建設・建築業界向け働き方デザインセミナーを開催した。基調講演「『ポスト五輪』時代の建設・建築業界の働き方改革とは」では、建設ITジャーナリストである家入龍太氏が、サグラダ・ファミリアでの3Dプリンタの活用事例や公共事業の工期を短縮するための日本の「i-Construction」について紹介した。
サグラダ・ファミリアの建設ではITが大活躍
2019年4月1日改正労働基準法が施行され、建設業界では2024年4月から時間外労働の上限が罰則付きで規定された。働き方改革が業界の喫緊の課題となったことを受けた本セミナーは、まずは、アドビシステムズ デジタルメディアビジネスマーケティング執行役員 北川和彦氏の挨拶からスタートした。
「われわれは働き方をデザインするために、AIのテクノロジーを筆頭に、クリエイティブおよびドキュメントのソリューションによって作業の効率化とクラウドの環境を提案することで、働き方改革や生産性の向上をサポートしています。
デザインとは、よりよい形になるように設計するという意味です。今後は場所や時間にとらわれず、みなさまご自身が働き方をデザインするようになるのではないでしょうか。
皆様の業界が抱えていらっしゃいます課題に、アドビのCreative CloudおよびDocument Cloudが解決のソリューションになればと思っています」(北川氏)
基調講演はイエイリ・ラボ 代表取締役 家入龍太氏が行なった。日本でただひとりの建設ITジャーナリストとのことで、建設業のIT活用を半歩先の視点で考えるのがモットーだという。
古い映像ともに建設の現場の過去と現在、未来の姿を紹介してくれた。60年前、東京オリンピックの開催が決定し、開催はわずか5年後の1964年。1兆円の予算を用意した、東京大改造が行なわれた。国立競技場や東京体育館、日本武道館、選手村、国立代々木競技場、駒沢競技場などを建設し、国道246号の拡幅、首都高速度の建造などが行なわれた。極めつけは、のちに奇跡と呼ばれる日本の技術力により実現した新幹線の開通だという。ITなどがない時代、これだけのことを達成した高度成長期時代の日本人は本当にすごかったのだな、と驚かされる。
他方、サグラダ・ファミリアは1882年から作っており、工期は300年と言われていたが、最近は建設スピードが向上し、2026年には完成予定となっている。これはITの活用が大きい役割を担っているためだという。
サグラダ・ファミリアは小さな模型を作り、上手くいきそうなら実物を作るという手法を採っているが、今はそれを3Dプリンターで製造するようになったのだ。
ロボットの導入で生産性が上がった日本の建設業
日本でも、ITを活用して公共工事のスピードを上げるという政策「i-Construction」が進められている。従来の建設業では、生産性が低いという課題があった。しかし、ここ数年は右肩上がりになってきている。これは、ロボットを導入することで、一人当たりの生産量が増えているためだそう。
人に頼っていた業界だが、少子高齢化で人がいなくなっており、今後は人手の確保が難しくなってくる。そのために労働生産性の向上が急務となり、労働時間を下げることが最短ルートとなる。そこでi-Construction政策では2025年までに建設現場の生産性を20%向上させることを目標にしているそう。そのために、ドローンや3次元データを入れたICT重機などを利用し、自動化しているとのことだ。
たとえば、大きなドローンに一眼レフカメラを搭載し、上空から連続撮影する。そのデータを元に、建設現場の3Dモデルを作成。GPSの基準局を設置し、その位置情報を使い、誰でも重機を使えるように支援してくれるようになる。従来はサポートが必要だった作業も、一人のオペレーターで済むようになった。
「ブルドーザーの運転はけっこう難しくて、素人だとでこぼこさせてしまうのですが、このシステムがあれば大丈夫です」(家入氏)
AIやロボットと働くための7つの戦略
i-Constructionの取り組みの一環として、BIM(Building Information Modeling)/CIM(Construction Information Modeling)の推進も進められている。デジタルツインと呼ばれる現場のコピーをPC内で仮に作り、設計や解析を行ない、失敗も繰り返し、うまくいったことを現場にフィードバックして施工するというワークフローになる。
たとえば、道路規制を行なう際には、コーンや看板の設置をシミュレーションし、運転の支障になる部分があるかどうかを確認できる。さらには、2次元の設計図だとわからない、3D空間内での部材干渉を瞬時に検出できる。さらに鉄筋とPCケーブルが観賞している場所などを3Dモデルの段階で見つけ出し、設計を修正できるのでコストと時間を大幅に節約できるのだ。
建設現場に設計図を実際に描く墨出しという作業があるが、ここでもICTが活躍している。自動墨出しロボットにタブレットから作業指示を出すと、実寸大の図面を床に書いてくれるのだ。さらに、マイクロソフトのウェアラブル・コンピューター「HoloLens」を利用し、AR墨出し実験にも成功している。HoloLensを装着して現場を見ると、鉱床デッキプレートの下の配管を見ることができ、正確な場所に墨出しできるというものだ。
今後AIやロボットと働くために、7つの戦略があるという。まずは自分の仕事の流れを把握するのは基本。そして、商品知識程度でもいいので、ICTの知識を広く浅く集めることが大切。3つめが創意工夫力を持て。会社に集って会議をしなければいけない、といった常識は捨ててコミュニケーションが取れればいいという発想が必要になる。4つめは顧客思考力を磨け。ICTを使おうとすると失敗するという。顧客のお困りごとを発見し、それをICTで解決できないかというアプローチのほうがいいという。5つめは社外には同じように困っている人がたくさんいるので仲間にするべし。6つめは、論理的思考力を養え。AIやロボットを意のままに働かすために、プログラミングを学ぼうとのこと。最後は、オタクの居場所を確保せよ。オタクはどうしても体育会系のところに馴染めないところがあるが、3Dやドローンが得意な人はオタクが多いので、その人の居場所を作るのがいいと言う。
後半のパネルディスカッション「BIM活用で進める働き方改革と各社の取り組み」、アドビの「アドビのAIで実現する業務効率化と活用方法」は別稿にてレポートする。
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