週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

自動運転の基礎 その9

BMWは3つのカメラで自動運転レベル2のハンズ・オフを実現

2019年08月20日 09時00分更新

BMWが日本に自動運転レベル2のハンズ・オフを実現させた理由

 BMWジャパンは4月10日に「国内モデルとしては初めてハンズ・オフ機能付き渋滞運転支援機能を搭載した車両を日本に導入する」と発表した。これは、すでに実用化されているレベル2相当(クルマのアクセル&ブレーキとステアリング制御の両方をシステムが担当する)の運転支援システムの発展形で、文字通りに「手放し(ハンズ・オフ)」を可能とするものだ。

 前走車に追従しつつ、走行レーンをキープするACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)走行のときに、ドライバーの役割は監視だけとなり、ステアリングから手を放せる。驚くべきは「技術を開発した」ではなく、日本の関係各所の承諾を得て、実用品として導入されることだ。

 ただし、この機能は、「いつでも」「どこでも」利用できるわけではない。いくつかの条件が揃ったときのみとなる。その条件とは「高速道路であること」「前走車を追従している」「速度が60㎞/h以下」だ。つまり、利用の目的は「渋滞している高速道路」となる。さらにドライバーの目の動きをメーター部に備えた赤外線カメラでモニタリングしており、よそ見をしていたり、目を長い時間とじているとシステムが解除される。逆に言えば、ドライバーのモニタリング機能が備わっていることで、許可がおりたと言ってもいいだろう。

 こうした機能を実現するのが、新型「8シリーズ」より採用された3眼カメラと最先端の画像処理プロセッサーだ。3つのカメラはそれぞれ「長距離検知用・視野角28度・検知距離300m程度」「中距離検知用・視野角52度・検知距離120m程度」「車両周辺監視用・視野角150度・検知距離20m」という役割を担っている。その画像を、毎秒2兆5000億回の演算処理能力を持つ画像プロセッサー「EyeQ4」が処理をする。この技術はモービルアイ社のものだ。

 使い方は簡単。まずは、作動条件が揃っているかどうかをシステムが確認する。OKであれば、そこで初めて操作可能になる。次に、ステアリングにあるボタンを操作して機能を作動させる。メーター内に作動中の表示が出ると共に、ステアリングのホイール部にあるインジケーターがグリーンに光る。そうなれば、手をステアリングから離すだけだ。

 ここで作動条件が維持できれば、いつまでもハンズ・オフのまま走れる。しかし、道路のカーブがきつくなるなど、システムが「これ以上は無理」と判断したときは、メーター内に「機能が停止します」と表示され、ドライバーによる運転にバトンタッチとなる。一番、怖いのはハンズ・オフのまま、コーナーに入り、その途中で機能が停止することだ。そのため「3眼のカメラで状況をモニタリングしており、危ないときは、早め早めにシステムが解除するようになっています」とBMWジャパンは説明する。

 きついコーナーがあれば、早めに検知し、コーナーに入る前に機能を停止させるというのだ。東京の首都高速のようにきついコーナーが連続するのに対する安全策として、日本仕様向けに特別な開発も行われているという。

 この機能は、新型「3シリーズ」と「8シリーズ」、「X5シリーズ」が対象で、今年の夏以降の生産車は標準装備となる。新型車発売のタイミングではなく、少し遅れるのは、それだけ日本専用の開発に時間がかかったのだという。既に納車されている車両は、ディーラーにおいてソフトウェアのアップデートで使用可能になるそうだ。

 ちなみに、ハンズ・オフ機能はコスト的に非常に高額なもので、「8シリーズ」はともかく、「3シリーズ」に標準装備になっているのは、日本だけ。それは「運転支援システムに対する期待が大きい日本のユーザーの期待に応えるため」というのが理由だ。コスト面だけでなく、追加の開発や、関係各所へのネゴシエーションなど、手間も時間相当にかかっている。そうした力作がBMWの「ハンズ・オフ」なのだ。

筆者紹介:鈴木ケンイチ


 1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。

 最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。



この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事