週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

傑作?裏切り?『トイ・ストーリー4』が賛否両論なワケ

2019年08月10日 16時00分更新

ピクサーが「父の子離れ」に踏み切ったワケ

 肯定派と否定派それぞれの意見を踏まえたうえで、この作品の背景を考察しておこう。

肯定派
 結論から述べると、実はピクサー作品の歴史を紐解くと、『トイ・ストーリー4』が制作されたのは必然性に満ちている。近年のディズニーとピクサーはこのような作品を多く作り続けてきたからだ。

 『トイ・ストーリー4』では、現代的で活発な女性ボー・ピープがリーダーシップを発揮し、おもちゃたちのまとめ役だったウッディが居場所を見失っていく。この描写は社会で活躍する母と、家庭で家事と育児をする父という、時代に即した家族像を描いたピクサーの前作『インクレディブル・ファミリー』を受け継いだものではないか。

 しかも、物語が進むにつれて、ウッディはこれまでの社会的な役割に囚われずに新しい居場所を見出していく。この描写はディズニーの前作『シュガー・ラッシュ:オンライン』の男性バージョンと言っても良いだろう。

 また、今作では前作で子育てを終えたウッディが、アンディを思い出してノスタルジーに浸っている。この姿は『インクレディブル・ファミリー』と同時上映されたピクサーの短編映画『bao』を思い出させる。あの作品に登場した、子供が成長したときに多くの女性が感じるとされる、憂うつな苦しみ「空の巣症候群」を抱える中国系の高齢女性の姿にそっくりだからだ。

 これらの点から、たとえ『トイ・ストーリー』シリーズの続編という形ではなくとも、ピクサーはいずれ「父の子離れ」という主題を取り扱ったのかもしれない。肯定派のなかには物語の現代性に説得された人もいたほどだ。

否定派
 一方で、ピクサーには『トイ・ストーリー3』と『トイ・ストーリー4』の制作時には大きな変化があった。『トイ・ストーリー』と『トイ・ストーリー2』などの監督で、ディズニーとピクサーの作品の製作総指揮を務めていたジョン・ラセターはセクハラ行為が原因で休業および退社。『トイ・ストーリー3』などのリー・アンクリッチ監督も、家族やほかの関心事を優先することを理由に退社している。口コミサイトやSNSでは、これら関係者の欠如による影響ではないかと考察する声もあった。

 ラストにも同じことが言える。今作のプロデューサーであるマーク・ ニールセンによると、もともと今作はラブ・ストーリーとして企画していたという。しかし、ジョン・ラセターが退社したこともあり、最終的には「冒険の物語のなかに、ちょっと愛情の要素がある」ぐらいに落ち着いたようだ。あくまで、ラセターがいようといまいと、『トイ・ストーリー3』のその後を描くという点に変わりはなかった。しかし、ラストに繋がる恋愛要素が弱くなったため、ウッディの選択に納得できなかった観客もいるかもしれない。

海外では『トイ・ストーリー3』と同じく高評価

 ここで少し、海外の映画口コミサイトに目を向けてみよう。意外なことに、海外では『トイ・ストーリー4』は前作と同じく高く評価されている。

 アメリカのインターネット・ムービー・データベース(IMDb)では『トイ・ストーリー3』は★8.3点、『トイ・ストーリー4』は★8.2点とほぼ同評価である。同じくアメリカのRotten Tomatoes(ロッテン・トマト)では前作は89%、今作は94%で、むしろ今作の評価のほうが高い。フランスのAlloCiné(アロシネ)では★4.4点で、前作とまったく同じである。

 とくに、日本より一足先に封切られたアメリカでは「ティッシュを使い切るほどの涙を誘う映画になっている(『BUSINESS INSIDER』)」や、「3作目におもちゃたちが硬く手を握りあうシーンに涙した観客は『トイ・ストーリー4』で再度、胸がつまる体験をするだろう(『CNN.com』)」など、大手メディアでも大評判だった。

 SNSや口コミサイトでは、日本と海外の評価に差異が生まれた理由について「家族観や人生観など、文化的差異が原因ではないか」という意見も見受けられた。

肯定派と否定派のほかには一旦保留派も

 では、まとめに入ろう。日本のSNSや口コミサイトを見る限りは、『トイ・ストーリー4』を100%絶賛している観客はそれほど多く存在しなかった。改めて、今作は断固とした否定派を生んだ作品である。あくまで肯定派の観客でも「総合的には評価するものの、やはり少し違和感はある」という立場の人が少なくないように見えた。

 しかも、今作には肯定派と否定派(もちろん、中立的な立場の人もいた)のみならず、「受け入れるのに時間がかかる」や「考えさせれることが多かった」などの一旦保留派も見受けられた。多くの場合、肯定派と否定派の見方は通底している。今作は『トイ・ストーリー』シリーズにとって、リトマス試験紙のような作品と言えるだろう。

 実は、私は『トイ・ストーリー4』の試写会の序盤からうるうる来て、最後には声を上げて泣きそうになった。しかし、酷評の口コミには頷ける部分が多々あった。2度目の鑑賞や、前作を改めて観直してからは、やはりラストは号泣するものの、否定派の意見も手に取るようにわかった。そこで、この記事を書くことにした。

 私は中学から高校にかけて、家族とあまり良好な関係を築けなかったので、心の隙間を埋めるようにアメリカ映画ばかり観ていた。英語版でウッディを演じるトム・ハンクスをお父さんのように思っていた。トム・ハンクスも思えば、63歳。これまで子供のために尽くしてきたウッディの決意には「今まで本当にありがとう。これからは……」とさまざまな想いが込み上げてきた。否定派の言い分もわかるものの、今でもこの作品は私の人生にとって大切な映画である。

 この記事では大雑把に「おもちゃたちの描写」と「ラストの決断」の大きく2つにわけて、肯定派と否定派の意見を見てきた。「号泣した」や「許せない」など大きく賛否が分かれており、一旦保留派まで生み出した今作。『トイ・ストーリー4』を観た人は、自分の感想と照らし合わせていただければ幸いである。

●公開情報
・トイ・ストーリー4(原題:Toy Story 4)
・2019年7月12日 全国ロードショー
・監督:ジョシュ・クーリー
・製作:ジョナス・リヴェラ
・製作:マーク・ニールセン
・脚本:ステファニー・フォルソム
・脚本・製作総指揮:アンドリュー・スタントン
・製作総指揮:ピート・ドクター
・音楽:ランディ・ニューマン
・エフェクト・テクニカル・ディレクター:成田裕明
・アニメーター:原島朋幸
・キャラクター・テーラリング・アーティスト:小西園子
・配給:ウォルト・ディズニー・ジャパン
公式サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります