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傑作?裏切り?『トイ・ストーリー4』が賛否両論なワケ

2019年08月10日 16時00分更新

※この記事はネタバレを含みます。口コミサイトでの評価はすべて8月9日現在のものです。

 ディズニー/ピクサー最新作『トイ・ストーリー4』が7月12日に全国公開された。初登場で首位を獲得した今作は洋画アニメーション歴代1位の大ヒットスタートを切り、公開から27日間で興行収入71億円を突破した。

 しかし、いざ口コミを見ると、前作『トイ・ストーリー3』のように大絶賛とは言えず、鑑賞後の賛否が分かれている。「傑作」と讃える声もあれば、「裏切り」と酷評する観客もいる。たとえば、Yahoo!映画では、前作は★4.53点と高得点だが、今作は★3.17点と一気に評価が下がる。そこで、今回は肯定派と否定派の意見に耳を傾けながら、『トイ・ストーリー4』の賛否が分かれてしまった理由を考えたい。

 今作では、持ち主のボニーにすっかり相手にされなくなったウッディの前に、彼女の1番のお気に入りで手作りおもちゃのフォーキーが現れる。しかし、彼は自分をゴミだと思い込み、逃げ出してしまう。ボニーのためにフォーキーを探す冒険に出たウッディは、1度も愛されたことのないおもちゃや、かつての仲間で活発的なボー・ピープに巡り会い、ついに大きな決断を下す。持ち主のボニーや、仲間のバズ・ライトイヤーやミスター・ポテトヘッドたちと別れ、愛するボーとともに新しい世界で暮らすと決意するのだ。

 ストーリーを読んだだけで賛否がわかれるのは当然と思うかもしれないが、実はこの作品が賛否両論なのはラストだけではない。まずは前提として、この作品が賛否分かれたポイントを2つ挙げておこう。

 1つ目は、ウッディやバズ・ライトイヤーなど、おもちゃたちの描写だ。詳しくは後ほど言及するが、今作にはこれまでとおもちゃたちの描写が異なる部分が多々ある。大人気の『トイ・ストーリー』シリーズの最新作だけに、違和感を覚える人が生まれたのだろう。

 2つ目は、さきほど挙げたラストの決断だ。この作品はこれまでは子供のことを第1に考えてきたウッディが一歩踏み出すという、言わば「子離れ」の物語である。前作『トイ・ストーリー3』の「完璧のラスト」の後に制作された作品だけに、前作とはまったく異なるラストを受け入れられるか否か、大きく分かれているようだ。

 それでは、肯定派と否定派それぞれが2つのポイントをどう感じたのか順に見ていこう。

肯定派は「ウッディの物語」として評価か

 まずは、肯定派の意見から。

 Yahoo!映画では、全口コミの1632件のうち、★5つの評価は419件あった。全体では★3.17点と低評価だが、約26%の観客は絶賛していると言える。SNSでは「開始10分でもう泣いてた」や「人生で1番泣いた」などの声も見られる。

 Filmarksでは前作は★4.0点、今作は★3.9点と大きな変化はない。映画.comでは前作は★4.2点、今作は★3.6点と評価は少し下がるものの酷評とは言いがたい。KINENOTEでは前作は★84.3点、★79.1点とほぼ同じである。批判する観客のほうが多い、というわけではなさそうだ。

 観客が評価するポイントを「おもちゃたちの描写には肯定的」と「ラストの決断にも納得」の2つに分類した。口コミサイトやSNSでは、肯定派は「泣けた」や「良かった」だけで、具体的に理由を明かさない人が多い。以下は、あくまでこういう意見も見受けられたというふうに読んでいただけると幸いである。なお、文章は要約しているものの、内容や主張は改変していない。

1.おもちゃたちの描写には肯定的
・子供の頃に大切にしていたおもちゃを思い出して泣いた。
・おもちゃたちが持ち主であるボニーの親のように見えた。
・おもちゃたちがシリーズを通して、成長しているのが良い。
・いろいろ雑なところや、違和感のあるところもあったが、肯定派。
・お気に入りではなくなっても、持ち主に忠誠心を持って行動するウッディが切なくて泣いた。

2.ラストの決断にも納得
・大人向けな内容だった。だれもが人生でぶち当たるテーマを取り扱っており、考えさせられた。
・予想外のエンディングに泣いた。おもちゃたちの意思を尊重したい。
・ウッディはこれまで他人に尽くしてきたが、最後に自分のために決断を下す。ウッディのことを考えると、最高のラストだった。
・おもちゃたちは『トイ・ストーリー3』で描かれたように、必ず子供たちに相手にされないときが訪れる。おもちゃたちの目線で見ると、ウッディが永遠に幸せになれたので、これが本当のハッピーエンドだ。

 肯定派はおもちゃたちの描写にはさほど違和感を覚えず、ラストを見どころと感じた人が多いようだ。子供目線ではなく、ウッディあるいはおもちゃたちの視点で、結末を捉える傾向があるからだろう。ゆえに「ウッディ、良かったね」と泣けるわけだ。今作はこれまでの作品とは異なり、「子供とおもちゃの関係性」という主題から脱却(悪く言うと、逸脱)している。肯定派はこの点には柔軟に対応したと言える。

 もちろん、今作に感動して泣いたと語る観客でも、「やはり、『トイ・ストーリー3』で終えた方が良かった」や「『トイ・ストーリー3』までの流れぶち壊し」など、あくまで前作を超えないと主張する人も少しばかり存在した。

否定派からは「頭から抹消したい」という声も

 次は、否定派の意見を見ていこう。

 Yahoo!映画では、全口コミの1632件のうち、★1つの評価は520件だった。約32%はこの作品をなんとしても受け入れがたいと感じたようだ。SNSでは「頭から抹消したい」や「個人的には最悪だった」などの酷評もあった。

 よく見受けられる不満点を「おもちゃたちの描写には違和感」「ラストの決断にも抵抗感」の2つに分類してみた。以下は、口コミサイトやSNSでよく見受けられる意見を要約したものである。なお、内容や主張は改変していない。

1.おもちゃたちの描写には違和感
・ボニーが前作までの持ち主アンディが大切にしていたウッディを雑に扱っている。ウッディを大切にするという約束はどうなったのか。
・ボニーの父もウッディの顔を踏みつけるなど、おもちゃをないがしろにしている。
・ウッディとバズ・ライトイヤーがこれまでのように有能なリーダーではない。
・とくに、バズは内蔵の台詞に従って行動するだけで、自分の意志で行動していない。無能に変わっている。
・ミスター・ポテトヘッドやレックスなど、これまでの作品に登場したキャラクターが活躍する場面がほとんどない。
・『トイ・ストーリー3』には登場しなかったボー・ピープが再登場しているが、いきなり活発なキャラクターに変わっている。説明不足なので、少し違和感を覚えた。
・これまでのシリーズでは、おもちゃたちは「人間の前では動かない」というルールだったはず。しかし、今作では移動遊園地で暴走したり、人間の自動車を操作したりなど、人間たちも気づくのではないか。

2.ラストの決断にも抵抗感
・ウッディのラストの選択は、人間ならば受け入れられるが、おもちゃとしてはルール違反ではないか。
・ウッディはこれまで子供のことを第1に考えており、バズと強い友情を持っていた。なのに、ラストではウッディの葛藤があまり描かれず、あっさりと決断を下している。
・これまでの作品は鑑賞後に幸せな気持ちになれたが、今作は悲しい気持ちだけが残る。『トイ・ストーリー3』で終わらせて欲しかった。
・ウッディの決断によって、前作までの持ち主アンディの気持ちはどうなるのか。
・言いたいことはわかるが、『トイ・ストーリー』シリーズでこの物語を描く必要があったのか。この作品そのものが付け加えた感が否めなかった。

 否定派はおもちゃたちの描写はもちろん、ラストにも不快感を覚えた人が多いようだ。今作は「子供とおもちゃの関係性」から逸脱したこともあり、『トイ・ストーリー』シリーズの作品としては一貫性に欠けている。否定派はこの点に違和感を拭えなかったと言えよう。

 ラストに関しては、ウッディあるいはおもちゃたちの視線で捉える肯定派と異なり、アンディあるいはボニーなど子供目線で、判断する傾向も見られる。ゆえに「ウッディ、裏切ったな!」と憤りたくなるわけだ。もちろん、否定派のなかにも「テーマには納得した」や「ラストにはわりと肯定的」など、テーマや結論そのものには納得している観客もほんの少しいた。

(次ページでは「海外では『トイ・ストーリー3』と同じく高評価」)

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