7月4日、メルセデス・ベンツ日本は新型モデルである「EQC」を発表し、7月18日からウェブ商談予約を開始する。EQCはメルセデス・ベンツブランドとしては初の電気自動車で、同社の電動化ブランド「EQ」初の量産モデルとなる。
ちなみに、「スマート」ブランドでは2009年からEV仕様の実証実験を開始しており、2012年には「スマートフォーツー エレクトリックドライブ」の名称で日本国内販売もしている。EVビジネス自体は、すでに着手しているのだ。
80kWhの電池で航続距離400km
0-100加速5.1秒の俊足
新型EQCは、今後続々と登場が予想されるEQモデルの第一弾として、非常に力の入ったプロダクツとしての内容と、販売促進のための数多くのサービスが用意されていた。
プロダクツの特徴としては、新規開発されたEV専用のプラットフォームが採用されていることが挙げられる。前後アクセルには、それぞれ1つずつのモーターが搭載され、2つのモーターをあわせた総合最高出は300kW(408馬力)、最大トルク765Nmにも達する。負荷の少ないクルージング中などはフロントのモーターを駆動し、きびきびと走るときはリアのモーターを駆動。前後のトルク配分を連続的に可変することで、省エネ走行からスポーツ走行まで、多彩な走り味を実現する。
0-100km/hの加速5.1秒は、ポルシェの「カイエン」よりも上。意外に俊足なのだ。ただし、最高速度は180km/hに留まるのがEVらしいところ。
二次電池はラミネート型のリチウムイオン電池で、80kWhを搭載。WLTCモードでの航続距離は欧州仕様で400km。急速充電のチャデモ(CHAdeMO規格)に対応し、家庭での6kWの普通交流電気を使った充電では最大13時間で満充電可能だという。
またEQCは、目新しい電気自動車というだけでなく、メルセデス・ベンツとして「安全性」「操縦安定性」「快適性」「利便性」「品質」も高レベルなものが備わっているのも特徴。新世代のインフォテイメントシステムであるMBUXを備え、最新のテレマティクスサービスを用意。衝突被害軽減の自動ブレーキを含む、安全のための先進運転支援システムもフルに装備。実際にこの目で見たEQCの実物は、メルセデス・ベンツらしい、プレミアム感と先進感を感じることができた。
家庭用充電器の無償提供をはじめ
充実のサポート内容
初のEQモデルとしての充実のサポートも用意されていた。まず、家庭用の充電設備に関しては、充電器本体を無償提供し、設置費用として10万円をサポート。外出先での充電器利用の費用は1年間無料。購入から5年間、もしくは走行10万kmのいずれか速い方までの定期メンテナンス・24時間サポートも無料(EQケア)。二次電池が8年、もしくは16万km以内に残容量70%未満になったときも特別保証を用意。
さらにメルセデス・ベンツの他のモデルを週末に貸し出すサービス「シェアカー・プラス」の5回無償利用までも用意したのだ。製品としてのデキの良さだけでなく、販売面でのサポートも非常に充実している。
そんな新型EQCの価格は、来年春からデリバリー予定の「EQC 400 4MATIC」が1080万円、今年10月からデリバリーの55台限定の「EQC Edition 1886」が1200万円となる(ともに税込)。
日本の苦難のEV販売を
プレミアム・マーケットから変革できるのか
メルセデス・ベンツ初のEVであるEQCは、どの程度売れるのであろうか? 世界的に言えば「これからはEVの時代!」というのがトレンドだ。実際に、中国市場では、政府の補助を背景にEVの販売が伸びている。また欧州でも、これからEVに力を入れていく姿勢が自動車メーカーだけではなく政府からもうかがえる。
ところが、日本はどうにも煮え切らない。それもそうだろう。三菱の「i-MiEV」や日産の「リーフ」といった量産EVが、10年近くも前から発売されているのに普及は思うように進んでいないからだ。
そんな日本市場だからこそ、メルセデス・ベンツ日本はEQCに手厚いサポートを用意したのだろう。初年度の限定車がわずか55台というところからも慎重さが感じられるが、1000万円のプレミアム・マーケットは、「i-MiEV」や「リーフ」といった大衆車マーケットと事情が違う。なぜなら、テスラという成功例があるからだ。テスラの主力モデルである「モデルS」は1000万円を超える高額車だ。大ヒットはしていないが、テスラが日本市場に定着できるほどには売れている。
EQCも普通のガソリン・エンジン車の「GLC」と比べると割高感はある。高性能バージョンであるMercedes-AMGのGLCは、EQCよりもさらに高額だ。ちなみに、ポルシェのカイエンはEQCよりも高額なのだ。大衆車であれば、大量のリチウムイオン電池の搭載による価格アップは致命的なマイナスだが、プレミアムカーであれば、そのくらいのマイナスはたいして影響しない。
大衆車のEV普及は苦難しているが、プレミアム・マーケットでは様子が違うという可能性もある。EQCの販売成績には、特に注目する必要があるだろう。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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