週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE」詳細レポート

弁理士によるスタートアップ支援、そのメリットと課題

2019年07月16日 12時00分更新

スタートアップ×知財コミュニティイベント

 都内のイベントスペースFinGATE KAYABAにて開催された「スタートアップ×知財コミュニティイベント by IP BASE」のレポートをお届け。主催は特許庁のベンチャー支援班、ASCII STARTUPが協力して開催したイベントだ。

 弁理士をはじめとした知財関係者と、スタートアップ企業側の関係者、双方が、スタートアップ支援のための知財戦略に関する理解を深め、意見を交換することを目的とした勉強会。

 「知的財産権は、ベンチャー企業の無形資産が模倣されるのを防止するものです。ところが、スタートアップ企業には、知財戦略の重要性に気付いていなかったり、重要性は知っていても何をやっていいのか分からなかったりして、結果的に十分な対策が立てられていないケースも見受けられます」(特許庁総務部企画調査課 課長補佐 ベンチャー支援班長 進士 千尋氏)。

特許庁総務部企画調査課 課長補佐 ベンチャー支援班長 進士 千尋氏

 まず、この日の進行を担当した進士 千尋氏から、知的財産を保護する重要性に気づいていても、適切な対策が立てられていなかったり、あるいは、重要性に気づいていないスタートアップ企業が多いという現状が紹介された。

弁理士の語るスタートアップ支援のポイント

 第一部では、スタートアップ企業を支援した経験のある弁理士として、特許業務法人iPLAB Startupsの代表パートナー 弁理士 中畑 稔氏、特許業務法人 秀和特許事務所に所属する弁理士 下田 俊明氏が登壇。

特許業務法人iPLAB Startups 代表パートナー 弁理士 中畑 稔氏

 まず、中畑氏よりスタートアップ企業の社長のスケジュールが紹介された。中畑氏によれば、経営が軌道に乗ってきたスタートアップ企業の社長は、数分刻みで常に予定が入っており、ほとんど隙間がない中で業務にあたっているケースが多いという。

 また「資金調達に成功していても事業資金に余裕がないことも多く、残高がマイナスになる前に新たな資金調達をしなければいけないというプレッシャーが常にある」(中畑氏)。

 これに加え、人の出入りが激しく、事業の中核をになうプロダクトも未完成に近い状態で企業を運営するという側面があるとの見解も示された。

 これらを総括すれば、「スタートアップ企業には余裕がないことが多い」と読み解ける。それでも専門の弁理士による知財支援が必要になる理由として、中畑氏は次のように語る。

 「とはいえ、日々の業務に追われ、朝に出た課題が夕方には解決している必要がある、夕方には次の朝のことを考えている、そういうスピード感で会社を回していく中で、業務を外注しても『言ったことだけしかやってもらえない』というのは苦しい。

 スタートアップ企業は、言い換えれば、社会課題を解決するために、圧倒的なスピードで新しい産業を創る企業体です。そこに関わる弁理士は、たとえば、特許取得の代行だけでなく、特許に関するプレスリリースをどのタイミングで配信するべきかといった部分まで考慮して、協力してあげることが望ましい。スタートアップ企業の社長の立場になると、『自分ごと』として業務に当たってくれる専門家がほしいと感じるはずです」

スタートアップ企業を支援する喜び

 下田氏は自らの経験を振り返り「スタートアップ企業支援について「弁理士として権利化業務にあたっている人なら、スタートアップ企業と関わるからといって、新たに特別なスキルが必要になるわけではないんです。どちらかというと、スタートアップ企業が置かれる立場の理解が必要だと思います」と話す。

 スタートアップ企業の知財関連業務の担当者は、必ずしも法律や知財などの専門知識に秀でているわけではない。このため、「大手企業の担当者と同じように話しても、うまくいかないことも多く、共通言語のレベル感を把握したり、相手と同じ目線に立って話すコミュニケーション能力が求められる」(下田氏)のだという。

 この話だけきくと「スタートアップ支援て、なんだか手間がかかるのかな……」と考えてしまう先生方も多いかもしれない。しかし下田氏は、「スタートアップの仕事は、夢、希望、情熱に満ちていいます。ビジネス上のドライなお付き合いだけでなく、一緒に飲みに行って、夢や希望を共有する。そうすることで、弁理士にありがちなルーティンとは違う、ダイナミックなビジネスの動きを感じられます。

 『この特許って、何に使われているのかな?』と思いながら、上から降りてきた仕事を淡々とこなしていく……そういう働き方ではなかなか気づけない、知財マネジメントの役割を再認識できるという側面もあります」と語った。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事