東京に比べるとずっと貧弱な米国の都市の移動インフラ
東京から米国の都市に出張する人の多くは、都市の交通インフラの脆弱さに頭を悩ませることもあるのではないでしょうか。
もちろんニューヨークやシカゴ、ポートランドのように、比較的オプションがたくさんある都市もあります。しかしいずれの都市でも酷いのが朝夕の通勤ラッシュの渋滞。ニューヨークのJFK空港に夕方降りたって、マンハッタンにLyftやUberなどのクルマで移動しようとすると、少なくとも2時間は覚悟しなければなりません。
サンフランシスコも同様です。市内までならUS-101という半島を南北に貫く道から、途中I-280という道に入るルートをたどると、そこまで時間がかかるということはありません。しかし、私の住んでいたバークレーまでラッシュ時に行こうとすると、橋に入るまでの高速がびっしり詰まっていて、早ければ30分で到着できる道に大体2時間かけることになります。
そのため1時間は要してしまうのですが、朝夕の空港からの移動では、できるだけ高速鉄道BARTで移動するようにしています。しかし、このBARTは弱点もあります。とにかく本当にうるさいのです。
どんなレベルでうるさいかというと、場所によっては、遮音性のないイヤホンで音楽を聴いていると、音量をどんなに上げても満足に聞き取れないほど。日本の地下鉄やトンネル通過がいかに静かなことかがわかります……。
日本ではやや理解しにくかったApple Watchの騒音測定機能
西海岸の鉄道車内の騒音が健康被害レベル
余談になりますが、AppleがWWDC19で発表したApple Watch向けの最新OS、watchOS 6には、Apple Watchのマイクを常時オンにし、周囲の環境の騒音レベルを計測する機能がつきました。大きな音のレベルに応じて、何分以上聞いていると聴覚に異常を来すかを通知してくれる仕組みです。
BART車内で計測してみると、これが最高95dbでした。この数値は1日に30分以上聞いてしまうと、一時的な聴覚の異常を来すレベルとApple Watchは説明してくれます。BARTで通勤するなら、片道でも30分は聞くことになると思うのですが……。
とはいえ、BARTも騒音対策に取り組んでいるそうで、車輪とレールの接地面のカットを調節することで、75db程度に騒音を抑える工夫をしているというポスターが張り出されていました。
今回の電車の騒音対策もそうですが、2年前から山火事の煙が都市に流れ込むようになって、空気の質に注目が集まり、Apple Watchにも昨年、空気の質を常時チェックできるコンプリケーションが用意されました。Apple Watchの新機能は、わりと、サンフランシスコ地域での健康に関する興味や注目を反映しているような気がします。
これからの時代に求められるスマートな移動とは
スマートフォンが米国で急速に広がった2010年代、都市におけるさまざまな問題を解決する窓口となってきました。その代表格が移動で、LyftやUberなどのライドシェアサービスをはじめ、都市の中に様々な移動のオプションが用意されました。
街中にドックが用意されるシェアバイク(自転車)や、道端に乗り捨てる形で利用できる電動スクーター、そしてバークレーやオークランドなどでは2時間以上駐車できる道路を用いたカーシェアなども実現しています。
これらは、スマートフォンによってユーザー自身の位置情報を知り、自転車のドックや、スクーターや自動車に搭載されたGPSの位置情報をマッチングして、身近な移動手段の存在を知ることができるようになったから、実現できているサービスと言えます。
でも、どの移動方法がよいかは、時と場合で変わります。
たとえば、友人や家族など、複数の人と移動する場合は、ライドシェアで1台を占有するべきです。もし1人でかつ荷物が少なく、さらに急いでいない場合、他の人も乗り合わせるライドシェアでクルマを呼ぶと、15分ほど余計にかかりますが、30~50%安い料金で移動できます。
もしバス停が近くにあれば、2.5ドルでバス路線上のどこまででも行けます。しかし2つの路線を乗り換えるなら、場合によってはライドシェアの方が安くなるかもしれません。
シェアバイクは自由なイメージがあります。片道30分2.5ドルという金額はバスと同じですが、出発時間は自由になり、バス移動より早くたどり着く可能性が高まります。しかし貸し借りはドックが拠点になり、目的地近くにドックがなければ使い物になりません。また、ドックに自転車が置いてなければ、やはり使えません。
このように、スマートフォンによって移動手段は多様化しています。オプションが増えたという点、またオンデマンドの手段が増えた点は事実ですが、必ずしもそれらがすべてうまく役立っているとは言えないのです。
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