日本マイクロソフトは、IT市場の調査会社であるIDCと共同で、日本およびアジア太平洋地域の消費者が考えるデジタルサービスの「信頼」について調査。その結果を公表するとともに、日本マイクロソフトの取り組みについて説明した。
信頼の5要素のうちもっとも重視するのは「セキュリティ」
IDCとの共同調査は、アジア太平洋地域の14の国と地域を対象に、6372人からの回答を得ており、そのうち、日本からは452人が回答している。日々の生活でデジタルサービスを積極的に活用しており、過去90日間に、銀行や買い物、ソーシャルメディアへの参加などのアクティビティを行なっているコンシューマユーザーを対象にしている。この調査では信頼の要素として、プライバシー、セキュリティ、堅牢性、倫理、コンプライアンスの5つを挙げている。日本では、5つの信頼の要素のうち、もっとも重視するのが、「セキュリティ」で、複数回答で82%を占めている。次いで、「プライバシー」の80%、「堅牢性」の75%となった。
また、日本では33%の回答者が高コストで高信頼性のデジタルプラットフォームを利用したいと回答。さらに、32%のユーザーがこうしたプラットフォームの利用を他者に薦めると回答。これはアジア太平洋ではさらに強い傾向が出ており、いずれも61%という高い比率の回答率となっている。さらに、デジタルサービスを提供する会社に対する日本の消費者の信頼度は15%と低く、アジア太平洋の31%という結果の半分になっている。
これについて、IDC Japan ソフトウェア&セキュリティ リサーチマネージャーの登坂恒夫氏は、「日本では、実社会における高い信頼性と同じ水準の信頼性を、デジタルサービスに期待していることの裏返しではないか」と分析した。
デジタルの世界において信頼を失った体験は、日本では30%、アジア太平洋では40%に達しており、日本では主にセキュリティ(42%)、プライバシー(36%)、堅牢性(24%)で、信頼を失う体験をしているという。信頼を損なう体験をした際に、デジタルサービスをほかの企業に切り替えたとの回答は、日本では38%,アジア太平洋では53%に達し、サービスの利用を中止するとの回答は、日本では25%、アジア太平洋では34%に達した。また、信頼を損なう体験をしたことを他人にも勧告するとした人は、日本では10%、アジア太平洋では17%となった。
IDC Japanの登坂氏は「企業がデジタルサービスを成功させるには、コストが高くても、セキュリティやプライバシー、堅牢性を担保できるプラットフォームを活用することが求められている」と指摘した。
同調査では、AIの信頼性に関する調査も行なっている。
AIに関する所感では、日本においては29%の人が楽観的に捉えており、両価的が50%、懐疑的が17%、悲観的が4%になったのに対して、アジア太平洋ではそれぞれ49%、34%、14%、4%となった。また、反復的な仕事を削減したり、仕事の質を向上させたり、新たな知識ベースの仕事が生まれるといったように、AIが仕事に対して良い影響を与えるとした人は、日本では69%、アジア太平洋では75%に達した。
信頼構築の責任に対する質問も行なっており、オンライン世界の信頼構築に責任を持つのはテクノロジー企業であるとした回答が、日本では37%、アジア太平洋では35%。これに対して、政府としたのは、日本では32%、アジア太平洋では43%と差が出た。だが、AIを信頼して活用するためのルールの責任は、政府とする回答が、日本、アジア太平洋がともに一番で、それぞれ45%、46%となり、テクノロジー企業の30%、32%を大きく上回っている。
信頼を損なうと日本の消費者の多くはタフな行動に出る
日本マイクロソフト 執行役員 最高技術責任者の榊原彰氏は、「価格が多少あがっても信頼性の高いデジタルサービスを利用すると答えた日本の消費者は3人に1人であり、約40%が信頼を損なう体験をした際に、デジタルサービスを他の企業に切り替え、4人に1人が完全に使用を停止しているといったタフな行動に出ていることがわかった。さらに、日本の消費者の多くが、政府やテクノロジー企業が、デジタルサービスの信頼の責任(オーナーシップ)や、AIの活用について先導的役割を果たすべきだと考えている」などとして、調査結果を総括した。
その上で榊原氏は、「日本の企業が、デジタルサービスを構築する際には信頼を重視する必要がある。特にセキュリティとプライバシーという2つの要素において、信頼性を担保する必要がある。また、政府や業界団体などとの対話を促進し、標準的なルールの構築や共通の認識を確立する必要があるだろう。もはや信頼は、1社や1団体では構築できない。サプライチェーン全体に信頼を担保するなど、エコシステムとしての信頼性を追求する必要がある」と提言する。
さらに、「自前のスタックの中に信頼性を盛り込むのは難しい。信頼できるパブリッククラウドプラットフォームの上にデジタルサービスを構築する必要があるだろう」と語り、日本マイクロソフトが提供しているAzureが、全世界で200以上のセキュリティ標準に対応しており、日本ではJCISPAのCSゴールドマークを取得していることなどを強調した。また、AIに関しても、公平性や包括性、信頼性、安全性、透明性、プライバシーとセキュリティ、説明責任に関して、明確な考え方を持っている企業であることを示す一方で、社内委員会のAETHERを通じて、こうした考え方に基づいてAI技術の提供が行なわれ、正しい目的でAI技術が活用されているかどうかを審査していることも紹介した。現在、Microsoft AIを提供した案件のうち、日本の企業の2件が、AETHERからアドバイスを受けているという。
榊原氏は、「いまのAIは、深層学習によって、大量のデータを学ぶが、これらのデータが、いまの世の中の情勢を的確に網羅することは難しい。たとえば、白人のデータばかりを学習しているといった偏りや、CEOというと白人男性ばかりが出てくるといったバイアスを取り除かなくてはならない。金融機関が融資判断を行なうときに、性別や人種、宗教観が含まれていてはいけない」とし、「日本では、学術研究機関などともに、AIデータコンソーシアムを設立した。音声データやテキストデータ、画像データなどのマルチモーダルの情報を集め、日本固有のデータを学習ができるようにした。これまでは、日本の神社の鳥居を見ても、これが日本の建築物と認識できなかったが、これはデータが少なかったためである。こうした課題も解決できる」などとした。
デジタルサービスを提供する企業は信頼性を重んじるべき
一方、マイクロソフトにおいて、アジア地域のCELA(Corporate External and Legal Affairs=政策渉外・法務担当)を統括している同社アソシエイトゼネラルカウンシルのアントニー・クック(Antony Cook)氏は、「アジアはテクノロジーの普及において、世界的に見て重要な地域である」と前置きし、「全世界の若年層(15~24歳)の6割となる7億5000万人、モバイル加入者数の半分以上となる27億人が、アジア太平洋地域にいる。そして、アジアの消費者は接続するだけでなく、サービスを活用しており、eコマースの約半分がアジアで消費されている。テクノロジーにアクセスしており、生活やビジネスのなかでテクノロジーを活用している」と、デジタルテクノロジーにおけるアジア太平洋地域の重要性を指摘する。
そして、「SNSなどを通じて、コミュニケーションの速度が加速し、プライバシーやセキュリティの問題が発生すれば、それが一気に広がる社会が訪れている。期待値から外れたときには、サービスの利用を停止するといった行動を取る動きもある。デジタルサービスを提供している企業は、消費者がサービスを信頼してくれているのかどうか、なにが消費者をドライブしているのか、サービスに問題が発生した場合には、ビジネスにとってどんな結果をもらたすのかといったことを視野に入れなくてはならない」などと述べた。
クック氏は、法律およびコンプライアンスに関する約70人の専門家集団を率いており、デジタルセキュリティや知的財産、データ保護の観点から、マイクロソフトの業務への助言を行なっている。
初出時、榊原彰氏の名前を誤って記載しておりました。お詫びし、訂正させていただきます。本文は訂正済みです。(2019年6月24日)
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