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災害に強いCTIをAmazon ConnectとWorkspacesで実現

「今入れなければ確実に後悔する」プラスのAmazon Connect導入

2019年06月17日 11時30分更新

 先週開催されたAWS Summit Tokyoの事例セッションで登壇したのは、既存のCTIをクラウド型コンタクトセンターサービスであるAmazon Connectにリプレースしたプラス ジョインテックスカンパニーの山口善生氏。CTIのリプレースに巻き込まれた山口氏が、どんどん「Amazon Connect沼」にはまっていくところが聞き所だ。

プラス ジョインテックスカンパニー システム企画部 副部長 山口善生氏

コスト、柔軟性、AWSとの親和性などAmazon Connectの3つの魅力

 昨年、東京リージョンにも上陸したクラウド型コンタクトセンターサービスであるAmazon Connect。北米でのサービス発表からサービスの利用を検討し、本導入にこぎつけたプラス ジョインテックスカンパニー 山口氏は、自己紹介や会社概要よりも前に、なぜAmazon Connectに惹かれたのか?という3つのポイントからスタートする。

 まずはコスト面でのメリットだ。山口氏は、「従来、コンタクトセンターを導入するためにはPBXや設備、回線工事など多くのコストが必要だったが、Amazon Connectはインターネット接続さえあれば設備の揃っているところに接続できる」と語る。遅延やネットワークの帯域を考えたら「PBXはオンプレミス」というイメージもあったが、後述するとおり、実際はクラウドでも十分実用的だという。

 2つ目はシステムの柔軟性だ。「変動的な時代においては、業務システムも変化できるようにしなければならない。Amazon Connect以外にもクラウド型CTIはいっぱいあるが、サービスロックされて、拡張性がない。Amazon Connectはサービス本体と、カスタマイズできるところがいい感じに分離されている」(山口氏)と語る。運用フェーズでいろいろ進化さえることができ、現に同社も導入後すでに3回の更新を実現しているという。

 3つ目は他のAWSサービスとの親和性だ。山口氏は、「実際のお客様の声は最強のマーケティングデータだと思っているので、その声をテキスト化して、自然言語解析で分析して、アトリビュートと履歴とともに保存したら、めちゃくちゃ有効に活用できるはず」と語る。また、Amazon Connect自体でもさまざまなメトリック情報を取得できるので、Redshiftで売上データとあわせて解析するといったことも可能になる。他のサービスと容易に連携させて、データを有効活用できるのが大きなメリットだ。

攻めのCRMを謳うコンタクトセンター

 さてここで会社紹介。プラス ジョインテックスは、創業70年を超えるプラスのグループ会社。プラスというと、文具メーカーやオフィス家具メーカーのイメージが強いが、山口氏が所属するプラス ジョインテックスカンパニーは流通事業を担っている。4千社を超えるサプライパートナーの32万アイテムを6つの倉庫に保管し、販売店やエンドユーザーに届けるという中間流通事業だ。

 流通事業者としての特徴としては、人を介した課題解決に重きを置いている点だ。「弊社の営業と販売パートナーとタッグを組んで、お客様の購買をよりよいものにしていく」(山口氏)とのことで、たとえば介護事業者向けにはきちんと介護の資格をとった営業が顧客課題を理解してサービスを提案する。また、こうした営業リソースだけではなく、販売店向けの「JOINTEX」や、エンドユーザー向けの「smartoffice」「smartschool」「スマート介護」などのECサイトも用意しているという。

ジョインテックスカンパニーのビジネスモデル

 プラス ジョインテックスカンパニーでのAWS導入は、2014年の「スマート介護」からスモールスタートし、CRMシステムとECサイトのSmartschoolと徐々に拡大していった。転機になったのは、2015年の基幹システムのAWS移行。「コストが下がり、性能が上がり、開発期間も短くなった。これはすごいということで、それ以降システムはすべてAWSが当たり前となった」(山口氏)とのことで、全56システムをEC2化しており、98%まで完了化している。また、2017年には仮想デスクトップサービス「Amazon Workspaces」の導入を開始しており、現在までに約7割はデスクトップ環境がクラウド化されているという。

ジョインテックスカンパニーのAWS導入状況

 さて、今回Amazon Connectを導入したプラス ジョインテックスカンパニーのコンタクトセンターは「攻めるCRM」を謳い、お客さんの立場に立った踏み込んだレスポンスを心がけているという。オペレーターがある程度裁量を持っているため、インバウンドでの納期や商品の問い合わせに対しては、関連部署を介さず、販売元に納期や商品情報を自律的に確認したり、販売店に対するフォローコールまで行なう。その他、受注情報の登録や見積もりの作成、伝票処理までコンタクトセンターで手がけているという。「つまり、通常のコンタクトセンター以外の業務をたくさんしている。だから、うちのコンタクトセンターではデュアルディスプレイで、アプリケーションがいっぱい立ち上がっている」と語る。

 プラスジョインテックカンパニーのコンタクトセンターは東京の赤坂と蒲田にあり、発着信はほとんど赤坂で行なっている。「50人くらいで、1000本くらい着信を受け、発信も1100くらいある。繁忙期の2-4月には、1日は1500着信、発信も1750本にはねあがる」と山口氏は語る。

CTIの刷新に巻き込まれた結果

 コンタクトセンターに対して知識のなかったシステム企画部の山口氏がCTIの入れ替えを担当するようになったきっかけは、CRM部門長から、「CTIが保守切れになるため、単純なリプレース以外の方法を考えてほしい」と巻き込まれたことだという。「まあ、今となってはよかったんですけどね(笑)」(山口氏)とフォローしていたが、実際にあとになってよかったことだ。

 今回のコンタクトセンターの刷新に際しては、災害対策(BCP)という経営側からのリクエストもあった。「2011年の東日本大震災をきっかけに流通でできることを考えた結果、こういう時(災害時)こそ販売パートナーやお客様に寄り添える流通カンパニーになるべくBCPを見直してきた。しかし、現状ではコンタクトセンターは東京にしかなかったので、東京になにかあったらコンタクトセンターを失うことになる」と山口氏は語る。とはいえ、東京以外に異なるコンタクトセンターを置くのは、コスト面で現実的でなかった。そんな悩みの渦中で山口氏が出会ったのが、発表されたばかりのAmazon Connectだった。

 AWSの営業に勧められ、その日のうちにAmazon Connectを触ってみた山口氏。「バージニア北部リージョンに接続にしたのですが、楽しくなっていろいろ作ってしまった(笑)」という。山口氏が作ったのは、商品番号を入力すると、着信した電話番号をパースして、最寄りの在庫を調べ、納期を回答してくれるシステム。しかも女性エージェントが回答してくれるよう設定し、山口氏のテンションは上がりまくる。さっそくCRM部の部長のところにデモを見せに行ったところ、「今、これ導入しないと確実に後悔することになるよね」と意気投合し、一気に導入が決まったという。

Amazon Conect、楽しくなっていろいろ作ってしまった

 課題は同社のCRMがフルスクラッチのクライアント/サーバー型システムだったことだ。結局、Amazon ConnectとCRMを連携するツールをで作ることにした。オペレーターからはクライアントアプリで電話をかけているように見えるけど、実際はAmazon Connectをラップしたアプリケーション経由で通話しており、終わったらコンタクトIDはCRMシステムのDBに書き込むという仕組みになっている。山口氏は開発ベンダーのユー・システム・クリエーションというアプリケーションベンダーを紹介し、「少数精鋭で社長も面白いし、クラウドインフラも構築できる。Amazon Connectをやりたいけど、ベンダー困っている方はぜひ」と語った。

オンプレのCRMとの連携できるツールをベンダーと開発

 とはいえ情シスの思いだけでは経営層を説得できない。そのため、既存のリプレース、ハウジング、CTIのSaaS、新規のオンプレミスと比較したが、Amazon Connect以外は単一データセンターになってしまいBCP性能に限界があった。「その点、AWSはデータセンターも複数だし、マルチAZだし、海外へもバックアップできる。BCP考えたら、やっぱりこれ以外の選択肢はない」とのことで、BCP優先でAmazon Connectが通ったという。

 もちろん、「Amazon ConnectとCRMのシステムが冗長化しただけでBCPになるのかな」という素朴な疑問もあったという。前述したとおり、プラスのコンタクトセンターでは数多くのアプリケーションがデスクトップ上で動いているため、災害時でもオペレーターは普段と同じ業務環境で仕事ができなければならない。もちろん、ノートPCを配布したり、アプリをタブレット向けにモバイル化するといった案もあったが、セキュリティやコストの面で難しかったという。そこで考えたのが、オペレーターの業務環境をAmazon Workspacesに移行することだ。

オペレーターの業務環境もAmazon Workplacesに移行することでBCPを実現

 クラウド上にデスクトップの業務環境を移行するため、当然電話もWorkspace経由でとる。「シドニーリージョンで試したので、どうせ遅延とかするんだろうなと思ったら、まったく遅延がない。これなら東京でも全然問題ないじゃん」ということで、東京でも同じ構成をとることにしたという。ちなみにこのとき使った構成はそのままシドニーに残してあり、Amazon Connectのバックアップとして利用できるようになっているという。「ベンダーロックインの懸念を聞かれますが、こんなに簡単にシドニーのコンタクトセンターを移築できるのに、わざわざお金かけてほかのベンダーでCTIやりますかね」と山口氏は問いかける。

 とはいえ、本格導入の前までには「Amazon Connectいつ来るの問題」があった。振り返ってみれば、Amazon Connectが発表され、同社が導入を検討を開始したのが2017年中旬。導入決定した2018年3月には東京にローンチしておらず、不安のままに経営答申してしまい、5月にはシドニーで開発を開始してしまったという。その後、CTIが保守切れする2019年2月にシドニーから東京になんとか環境を移築し、6月から本番運用を開始しているという。

着信音や転送の問題、遅延の実態役立つTIPSも披露

 その後、山口氏はいくつかのTIPSを披露する。たとえば、電話番号はどうしたのか?という疑問に対しては、元の0120と03番号をAmazon Connectの03番号をボイスワープで転送している。紙のカタログに電話番号を記載したり、顧客の電話に登録されているため、電話番号の変更は難しいが、将来的には0120からAmazon Connectの番号に移行していくという。

電話番号はボイスワープを活用し、0120から移行する

 また、電話の着信音問題がある。従来は電話機を用いていたが、Amazon Connectのシステムになると着信音がヘッドセットからしか出なくなる。とはいえ、プラスのコンタクトセンターでは電話を取るだけではなく、デスクワークも多いため、ヘッドセットを常時付けているわけでもないので、音が小さいと気づかない。そのため、着信音の音量を調整しつつ、CRMとの連携で画面から着信がわかるようにする予定だという。

 さらに着信して出られなかった場合、次の人に転送されるまでに20秒かかる「転送20秒問題」があるという。「20秒もかかったら、お客様は電話を切ってしまう。でも、Amazon Connectではこの20秒の値が変えられない」と山口氏は語る。そのため、前述した自社開発の連携ツールで任意の秒数が経ったら、強制的に他のオペレーターに転送するという処理を行なっている。

 ちなみに通話の遅延は0.5秒以内で、損失はなし。負荷テスト時も同様で、録音や通話に関しては品質が上がったという。「よくかけてくれる販売店様からは前より音よくなったという声もいただいている」(山口氏)。一方で、移行時の失敗としては、ユーザー数や同時通話量の制限を配慮せず、ユーザーステータスを取得しに行ってしまったことのほか、パソコンのスペックが低くて、通話が途切れることなどが挙げられた。とはいえ、「次の日、50台のPCを全部VDI化したら、通話の問題は解消した」とのことで、Amazon Workspacesの恩恵を受けることができたという。

 今後はオンプレのCRMのWeb化を進めるとともに、音声解析やBIの強化などを進め、顧客にメリットを還元できるようにシステムを改築していくという。最後、山口氏は「Amazon Connectの実環境を試せるので、ぜひ赤坂にまでおこしいただければ」と語って、セッションを終えた。

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