JAPAN OPEN INNOVATION FES 2019のピッチイベントをレポート
大企業が率先して提携したがるスタートアップのサービスとは
オープンイノベーションプラットフォーム eiiconが、国内のオープンイノベーションの祭典「JAPAN OPEN INNOVATION FES 2019」を開催。プログラムのひとつとして開催された、スタートアップ企業によるピッチイベントの様子をお届けする。
共創パートナー企業から審査員を招き、スタートアップ企業7社の代表者がサービスやソリューションを紹介するピッチを実施。審査員は「興味あり!」または「組みたい!」の札を掲げることで、判定をするとともに、その場で新たなビジネスの可能性を創出するというプログラム。
共創パートナーは株式会社アマナ、KNT-CTホールディングス株式会社、KDDI株式会社、住友生命保険相互会社、住友不動産株式会社、凸版印刷株式会社、日本郵便株式会社、JR東日本スタートアップ株式会社の8社。各企業の決裁者が審査員を務めたこともあり、集ったスタートアップ企業の熱の入ったピッチが見所だった。
ゲストはロンドンブーツ1号2号の田村 淳氏!
見事優勝したスタートアップ企業は?
またスペシャルゲストとして、ロンドンブーツ1号2号の田村 淳氏が登壇。司会に加わるだけでなく、プロジェクターのトラブルなどで進行が中断した際も、フリートークで場をつなぐなど、さすがのスキルで会場の和やかな雰囲気を作り上げた。以下は各社のピッチの内容だ。
株式会社Shinonome
トップバッターのShinonomeは、取締役CTOの高橋 弘至氏が登壇。大学と提携し、IT教育を提供するとともに、共同のソフトウェア開発を通じて、外部の企業と協業するという事業が紹介された。
大学と企業が提携して新技術や新事業の開発を進める「産学連携」にも通ずる部分があるが、高橋氏によれば、Shinonomeの事業は、あくまでも「企業が主体になってプロジェクトが進められる」点に特徴がある。一般的な産学連携と比較すると、「権利が研究室に帰属するため、ビジネスに発展させる際に権利関係が障害になる」といった事態が防げることも特徴とした。
またプロダクトの一例として、工務店向けのソフトウェアを紹介。写真から3Dモデルを作成し、備品の納入をするために十分な広さが確保できているか、部屋との調和が取れているかなどの確認ができるという内容で、現場に出向かなくても見積もりが取れるといったメリットを紹介した。審査員からの反応もよく、2社が「組みたい!」の札をあげていた。
ムーバクラウド株式会社
ムーバクラウドのピッチ。登壇社は代表取締役社長の李 水平氏。同社は屋内位置情報サービス「MovaLocation」のほか、キッティングを自動化する「MovaKitting」といったサービスを展開している。この日はMovaLocationを紹介。
MovaLocationの特徴は、同社が「数10cm級」とうたう精度の高さだ。Wi-Fiをはじめとするさまざまなセンサーを用いた測位で、人や物の移動を可視化、解析でき、企業内の社員や顧客の位置情報が分かるとする。また、蓄積した情報を業務の効率化に活かせるとした。
スマートスピーカーをオフィスに設置し、来客者が来たことを担当者に音声で知らせるといった使い方も紹介された。ピッチを見ていると、少し緊張気味だったこともあってか、魅力が十分に審査員に伝わっていないような印象もあったが、審査員からは「何に使えるのかわからないけど、興味はある。何に使えるかを一緒に考えていきたい」といったコメントがあがっていた。
ストックマーク株式会社
ストックマークのピッチ。同社は非構造データの構造化などに対応したAIを軸に、ソリューションを開発している。すでにウェブニュースプラットフォーム「A news」、事業戦略の意思決定サービス「A strategy」、営業企画の意思決定プロセスを高速化するソリューション「A sales」という3つのサービスを展開し、大手企業にも導入実勢がある注目企業。
Chief alchemistの森住 祐介氏が登壇し、「情報を集積したり分析したりといった作業は、人よりAIの方が得意」とAIを活用したソリューションの強みをアピール。すでに導入実績があることも手伝ってか、「組みたい!」が2社、「興味あり!」が5社と、審査に携わった企業の担当者全員が札をあげるほどの人気ぶりだった。
株式会社Catalu JAPAN
Catalu JAPANは、代表取締役の吉本 正氏がプラットフォーム「カタルスペース」を紹介。店舗の什器の隅やカウンターの端といった「遊休スペース」と、メーカーをつなげるプラットフォーム。メーカー側は、カタルスペース登録店舗から最も自社製品を訴求したい客層が集う店舗のカウンターに、製品を展示できる。
店舗側は遊休スペースをマネタイズできるというメリットが、メーカー側は遠隔地からでも狙った層に商品をアピールできるというメリットがある。また顧客が商品に興味を持った場合、非接触ICチップとQRコードを仕込んだプレートから任意のウェブサイトに誘導する仕組みも取り入れている。2019年の5月にサービスを開始し、すでに50店舗で導入実績があるとしている。
日本郵便の担当者から「郵便局のカウンターで紹介しているような、農産物やサービスにも活かせますか?」と質問があがるなど、審査員からの注目度も高かった。
Datumix株式会社
Datumixは「強化学習AI」を軸にサービスを開発する企業。強化学習AIとは、行動と結果を分析し、最適な判断を選択し、学習を重ねていく仕組みを持ったAI。代表取締役の大住 敏晃氏は「AI自身が新しいビジョンを作り出せる」と形容した。
強化学習AIは、囲碁などにはすでに活用されている仕組みだが、ビジネスの分野では応用例が極めて少ないらしい。この日は、同社が現在開発中という、大型物流倉庫の商品の入出庫の動きを効率化するソリューションを紹介。人の導線、棚の配置、在庫の置き場所といった要素や、ECサイトのデータをAIが分析することで、より効率のいい人の動きや物の配置を導き出せるというものだ。
人の動きの可視化もできるほか、既存の物流倉庫の状態をAIにインプットし、効率化することも可能だという。同社が3Dモデル上にこのソリューションを組み込んでみたところ、導入前と比べて10%の効率化が実現できたとする。活用できる分野も広いことから、「東京ばな奈を倉庫から売店まで何千個と運ぶのに、一番いい運び方はどうしたらいいとか、そういった事例にも使えますか?」(JR東日本スタートアップ)と、審査員からはかなり具体的な質問があがっていた。
株式会社レスティル
地産地消型の流通の創出を目指すというレスティルのピッチ。
同社のサービスは、パーソナル・コミュニケーションボックス「posket」。posketは、IoTデリバリーボックスとアプリを使って実現するサービスの名称だ。「サザエさん」になぞらえて、「サザエさんと三河屋さんをつなぐもの」と紹介。
店舗とユーザーはposketアプリをスマートフォンやタブレットにダウンロードする。ユーザーはアプリ上から店舗にコンタクトを取り、店舗は折りたたみ式の宅配ボックス「posketボックス」に商品を配達する。posketボックスにはスマートキーが組み込まれており、ユーザーがアプリから認証しないと開かない。アプリからは決済もでき、さらに店舗側はアプリを通じてユーザーに広告を発信することも可能。
また店舗とユーザーだけでなく、ユーザー同士で、不在時の荷物の受け渡しなどに活用することも可能だ。このソリューションが、地域経済の活性化や、買い物難民の救済につながり、地域の需要と供給を結びつけるとプレゼン。
審査員からは「最初は、ばら撒くくらいの覚悟でやらないと、普及しないかも」と厳しい意見も飛んでいたが、「箱の原価はどれくらい?」など、ビジネスとして運営していくにあたっての具体的な質問も上がっており、会場の興味を誘っていた。
株式会社プレイド
この日最後のピッチはプレイド。同社はCXプラットフォーム「KARTE」を展開している。KARTEは、ウェブサイトやアプリを利用するユーザーの行動をリアルタイムに解析し、可視化することで、個々のユーザーに合わせたコミュニケーションを実現できるというプラットフォーム。2015年の3月にサービスを開始している。
従来の解析ツールとの違いは、解析によって得られたさまざまなデータをつなげて、「人を文脈的に把握できる」点。データの裏にいる「人」の姿を、担当者が直感的に解釈できるため、担当者は、ユーザーに対して「適切なアクション」を「適切なタイミング」を実施できる。
たとえば、サイトの来訪者の中に「5分以上同じページを見続けていて、サイトの使い方に迷っていそうなユーザー」がいた場合、チャットを表示させて不明点がないかたずねたり、ひとつの商品を長時間見ているユーザーがいた場合、「同じページを見ているユーザーの数」を表示させ、購入を後押ししたりといった使い方ができる。
メールやLINE、アプリでのポップアップを組み合わせたり、スマートフォンへのプッシュ通知にも対応する。同社はこのサービスを「場所」に結びつけて発展させていきたいとの狙いがあるようで、「お客様とリアルな場所で接点がある企業さまと組んで、オープンイノベーションを実現していきたい」とうったえかけていた。2社が「組みたい!」の札をあげたので、近いうちに、プレイドの技術が使われているシーンに出会えるかも?
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