華やかではない着実さに
本気度を感じる
今、世界の自動車業界は、電動化という大きな目標に向かって動き出している。特にドイツ・ブランドは積極だ。煌びやかな未来を掲げ、電動化の動きを加速させている。そして、世界最大の自動車マーケットとなった中国も電動化に力を入れており、気が付けば、中国は世界最大のEV市場にも成長した。2018年の世界で販売された約120万台のEV(電気自動車)に占める中国の割合は6割弱。なんと中国では、70万台ものEVが販売されたのだ。
そうした電動化のトレンドに対して、トヨタはどのようなスタンスで立ち向かうのか。そんな説明会が2019年6月7日、東京で開催された。登壇したのは、トヨタ副社長である寺師茂樹氏だ。そこで説明されたことを、ざっとまとめると「トヨタの電動化への基本的なスタンス」「日本での展開」「グローバルでの展開」の3つである。
車種もビジネスモデルも
パートナーも幅広く
すでにトヨタは2017年12月に車両電動化の目標を発表している。2030年には電動化車両を550万台以上、その中でEVとFCV(燃料電池)は100万台以上を販売するという。2018年の実績を鑑みると、目標達成は5年ほど前倒しできそうであるとか。ポイントは、電動車がEVに限らないことだ。ハイブリッド車、プラグイン・ハイブリッド車、EV、FCVという幅広い車種を考えている。さらに、乗用車に限らず、1人乗りのパーソナルモビリティーから、商用車、バス、トラックまでを想定。その中には、自動運転のMaaS用の車両も含まれる。幅広いクルマを電動化するというのだ。
ビジネスモデルとしても、トヨタの考えは幅広い。“クルマを売る”だけではない。サプライヤーとしての部品供給や技術提供に始まり、リース、周辺サービス(充電や保険など)、中古車販売、電池のリユース/リサイクルまでをカバーする。話題のシェアリングなどのような、新しいビジネス・スタイルにも積極的に取り組むという。
そして、幅広いビジネスパートナーと組むのも特徴だ。EVの開発に、スバルやスズキ、ダイハツと共同開発するだけでなく、電池に関しても幅広いパートナーと組む。リチウムイオン電池の世界のトップ3となる、中国のCATLとBYD、日本のパナソニックともタッグを組むというのだ。これだけのビッグネームと組めるのであれば、性能というだけでなく、供給面でも不安は少ないだろう。
日本においては超小型EVを展開
日本市場に投入する電動車としては、小型・近距離・法人利用がターゲットだ。具体的には、軽自動車よりも小さな超小型EVと、一人乗りのパーソナルモビリティー。これらを2020年、つまり来年に発売する。超小型EVは、2人乗りで最高速度60km/h。航続距離は最大100㎞というから、電池の搭載は7~8kWh程度だろう。衝突安全性能の基準が緩いため、安価に作ることも可能だ。電池のリユースも想定しているという。
一人乗りは、立ち乗りタイプで最高速度10㎞/h。航続距離は約14㎞。ただし、立ち乗りのパーソナルモビリティーは公道が不可なので、使用は施設内のみ。座席をつけた座り乗りやクルマ椅子に連結するタイプは、セニアカーと同様になるので公道はOK。こちらは2021年の販売予定だ。立ち乗りよりも、こちらの方が本命になるのではないだろうか。
こうした超小型EVとパーソナルモビリティーは、個人が所有するだけでなく、シェアリングで利用することも想定される。新しいモビリティーの付き合い方やビジネスモデルの創生と共に、日本でのEV普及を進めるというのがトヨタの考えだ。
世界市場ではパートナーと組んで
6バリエーションを展開
世界市場に対しては、10車種以上のEVを展開するという。しかも、車形バリエーションを6つも用意するとのことだ。コンパクト、ミディアムSUV、ミディアムクロスオーバー、ミディアムセダン、ミディアムミニバン、ラージSUVだ。そのうち、コンパクトはスズキとダイハツと組む。ミディアムSUVはスバルと共同開発するという。車種もパートナーも幅広くというのが、グローバルでのトヨタのスタンスだ。
ちなみに、スズキは欧州とインドが得意で、ダイハツはASEANのインドネシア、スバルは北米が強い。順番としてはマーケットの大きな北米向け、スバルとのミディアムSUVのEVから投入するのではなかろうか。インドとASEANは、市場のニーズが高まるまで、もう少し時間がかかるだろう。慌てる必要はないということだ。
世界最大の中国市場に関して言えば、トヨタのEVのタマ数は揃っていないが、他のアプローチがあるという。それはサプライヤーとしてのビジネスだ。先だってトヨタは、モーターなどの電動化技術の特許無償提供を発表した。これは「トヨタの電動化の部品や技術を買ってもらおう」というのが本当の狙いだ。買いやすいように、特許をフリーにしたわけだ。つまり、EV熱の高い中国市場に、電動化の部品と技術を持ったサプライヤーとして食い込むことも考えている。なんともしたたかな作戦だ。
トヨタの電動化のアプローチは、一見、地味かもしれない。しかし、ひとつひとつの動きを見れば、どれも浮ついたところがない。まさに着実に一歩ずつ。EVを普及させようという、本気さが感じられる。
振り返ってみれば、最初のハイブリッドであるプリウスが1997年に登場したころは「ハイブリッドの普及は難しいのでは」と思っていた人が多かったはずだ。値段も高かったし、性能もそれほどでもなかった。ところが、わずか20年でハイブリッドは世界中に広まり、今や当然の存在になっている。
EVの普及も、それと同じようになるのかもしれない。トヨタの本気があれば、それも可能なのではないだろうか。そんな予感を感じさせる説明会であった。
筆者紹介:鈴木ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
最近は新技術や環境関係に注目。年間3~4回の海外モーターショー取材を実施。毎月1回のSA/PAの食べ歩き取材を10年ほど継続中。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員 自動車技術会会員 環境社会検定試験(ECO検定)。
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