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アウトプットの形として紙の本を選んだ11人が語る

私たちはなぜ、どんな風に技術書を書いたのか?

2019年06月12日 07時00分更新

 「アウトプットしないのは知的な便秘ですよ」と大書きされたスライドからスタートした、「我々はこうしてAWS本を書いた! ~十人十色~」というセッション。AWSに関する本を書いた経験者11人が集まり、本を書くということについて語るセッションだ。セッションタイトルに「十人十色」とある通り、きっかけも書き方も、それぞれにばらばら。正解を探したり結論を求めたりすることのない、ざっくばらんなトークセッションとなった。

商業出版派も同人出版派も技術書の書き手が大集合

多少の違いはあれど、商業出版か、同人出版かでタイプは分かれる

 紙の本と一口に言っても、書店に並ぶ商業出版と、自分で印刷して販売する同人出版とに大きく分けられる。それぞれの経験者が入り交じった11人。1人1分の持ち時間で、名前や出版経歴など簡単な自己紹介をするところからセッションはスタートした。自己紹介の段階から異彩を放ったのは、フリーランスWebデザイナーであり漫画家でもある湊川 あいさん。

「実は昨日まで私、ここに参加する権利がありませんでした。AWS本を出したことがなかったんです。でも今日、JAWS Daysにブースを出してDocker本を販売、めでたく完売いたしました」(湊川さん)

JAWS DAYSブースでDocker本を売り切った湊川あいさん

 その他の方々は概ね、数年前からAWSの資格取得をサポートする本を書いていたり、技術解説的な本を書いた経験を持っていたりした。湊川さんにしてもAWSに関する本が初めてというだけであり、Web上で「運用☆ちゃん」というキャラクターを使ってインフラ運用の大切さを説く漫画を連載するなど、技術系の出版経験は以前から持っている。なおJAWS DAYS当日は運用☆ちゃんのアクリルキーホルダーも販売しており、そのかわいさに筆者もひとつ買い求めた。もちろん、沢渡あまねさんとの共著である「運用☆ちゃんと学ぶ システム運用の基本」も我が家の本棚に収まっている。やはり可愛いキャラクターは正義なのである。と、話がそれまくってしまった。

 本筋に戻ってトークセッションに関して言うならば、本を書くに当たって様々なシーンで違いをもたらしていたのは、商業出版か同人出版かというのが結論だった。その点は司会進行を務めた大串 肇さん、吉江 瞬さんも理解しており、セッション自体が商業出版の場合と同人出版の場合を比較する形で進められた。

いい感じに話をかきまわす司会進行の吉江 瞬さん、大串 肇さん

同人誌を書き始めたきっかけの自由さに脱帽

 みなさんに最初に問われたのは、本を書くようになったきっかけだ。いきなり、商業出版と同人出版との対比がはっきりした質問だった。takiponさんは以前クラスメソッドに勤めていた時代に、技術ブログを大量に執筆、アウトプットしていた。

「ブログの会社と言われるほど、技術情報のアウトプットに力を入れている会社だったので、私も積極的に発信していました。そこに目を付けた出版社さんから、技術ブログを本にまとめないかと声がかかり、共著の形でAWSに関する本を出したのが最初です」(takiponさん)

最新刊「SORACOM CookBook」を手がけたtakiponさん

 湊川さんも、会社員時代にオフタイムにnoteに書いていた漫画が出版社の目に留まり、出版に至ったという。Webの普及によりアウトプット自体のハードルは下がったが、高頻度で高品質なアウトプットを続けるのは容易ではない。がんばっている人は、見つけてもらえる可能性が高まるということだ。

 文章以外でアウトプットをがんばった結果、出版に至った人もいる。Alexa芸人の別名を持つ、馬勝 淳史さんがその例だ。ひとりのエンジニアとして働くうちにセルフブランディングの必要性を感じ始めたという馬勝さんは、ハマり始めていたスマートスピーカーに関するイベントに顔を出しては技術情報を発信した。Alexa芸人との別名を持つものの、その守備範囲はAlexaに限定されておらず、「AlexaにGoogle Homeなど、自宅にはスマートスピーカーがたくさんある」とのこと。こちらはイベントで出版社から声がかかり、Alexaに関する本を出版した。アウトプットの手法こそ違うものの、積極的な発信が出版社の目に留まったという点では変わらない。

アウトプットをがんばったAlexa芸人 馬勝 淳史さん

 商業出版をした登壇者で唯一の変わり種は、ABEJAの村主 壮悟さんだ。当初、出版社は “ぎょり”の愛称で親しまれる永淵 恭子さんに話を持って行ったそうだが、「ぎょりさんからリダイレクトされてきた」とのこと。ぎょりさんがお忙しかったのか面倒くさかったのかは定かではないが、こういう縁で出版に至るケースもあるということだ。

ぎょりさんからリダイレクトされてきたクチのABEJA 村主 壮悟さん

 セルフブランディングや、会社のブログなどきっかけの形は違うものの、アウトプットの力を認められて出版社から執筆を持ちかけられているというのが、商業出版に至る道の共通項と言えそうだ。それに対して同人誌の執筆者はぐっと自由だ。取り上げる題材も自由なら、本を書く目的も自由だ。DNSに関する同人誌を書いたmochikoさんは、対象はともかく動機としてはもっともわかりやすい。

DNSが好きだ! もっと知りたい、知ってもらいたい! 本を書こう!

著書を片手にあれふるDNS愛を語るmochikoさん

 純粋である。なぜDNSを取り上げるのか? 好きだからだ。実に明快だ。「DNSがすごく好きなんです! みなさんもDNS好きですよね!?」と問いかけて司会を戸惑わせつつも、長柱の一部から強い支持を得ていた。

 そして、本を書くこと自体が目的だったと語るのは、ひろ亭の長村ひろさん。

「とにかく何かアウトプットをしてみたかったんです。ちょうどその頃にスマートスピーカーが出てきて、我が家では育児の真っ最中だったので、スマートスピーカー×育児で本を書いたら技術書典にちょうどいいのではないかと思い、まとめました」(長村さん)

本を書くことが目的だったという長村ひろさん

 技術書典とは、技術系に特化した同人誌頒布会だ。コミケの技術特化版とでもいえばわかりやすいだろうか。ここのところ、テック系で盛り上がりを見せているイベントのひとつであり、前出のmochikoさんも自著を技術書典に持ち込んでいる。そしてminamoさんのモチベーションも技術書典にあった。

「技術書典に行きたかったんですが、大盛況で入れなかったんです。一般参加のハードルが高いなら、自分で本を書いてサークル参加してしよう、そのために本を書いちゃおうと」(minamoさん)

技術書典に行きたかったという理由で本を書いたminamoさん

 技術書を買いに技術書典に行きたい、そのために技術書を書こう! そんな自由な理由でAlexaスキルに関する本を書いて、見事サークル参加を果たしたそうだ。

 そんな自由な理由で本を書いてきた同人誌制作者の中でも、特に異彩を放っていたのは、株式会社虎の穴。同人誌を取り扱う、あの虎の穴だ。「虎の穴が同人誌を売っている」というのはオタクの一般常識だが、「虎の穴が同人誌を作っている」のは初耳だった。しかも理由が面白い。

「虎の穴がエンジニアを採用していることを知っている人が少ないし、伝わりにくいという問題がありまして。それなら社内で同人誌を作ってみたらどうかと考えたのです。言ってみればこれは、求人誌です(笑)」(野田さん)

 「とらラボ!」と題された同誌は求人が目的とはいえ、技術情報をしっかりアウトプットしている点で他の技術系同人誌と何ら変わらない。「虎の穴のエンジニアの知的な便秘の解消も、目的のひとつ」だからだと言う。凝った装丁やオタク心をくすぐるかわいらしいデザインは、さすが多くの同人誌を見てきた同社だけあるとかんじさせる出来で、筆者もブースで1部頂いて帰った。

同人誌を扱う虎の穴の野田純一さんも同人誌作り

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