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創薬支援にとどまらず、自ら医薬品開発まで踏み込む

NECが創薬事業に参入 がん免疫療法のワクチン開発をAIで短期化

 NECは、同社のAI技術「NEC the WISE」を活用した創薬事業に本格参入すると発表した。2025年までに3000億円の事業価値を見込む。最先端のAI技術を創薬分野に活用することで、より安全で、効果の高い先進的免疫治療法を開発し、国内の死因ナンバーワンとなっているがんの治療の向上を図る。

握手するNEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当の藤川修氏(右)と、Transgene エグゼクティブバイスプレジデント兼最高科学責任者のエリック・ケメナー(Eric QUEMENEUR)博士(左)

ワクチン開発の鍵、ネオアンチゲンの設定をAIで期間短縮

 第1弾として、フランスのTransgene(トランスジーン)SAとの協業により、頭頸部がんと卵巣がん向けの個別化ネオアルチゲンワクチンの臨床試験を、日本企業として初めて開始。試験薬を両社で共同開発する。すでに2019年4月に、米国FDAから、同治験実施の許可を取得しており、現在、英国、フランスでも治験実施の許可を申請中だという。日本での治験については、現時点では計画はない。

 今回の協業による免疫療法では、採取した検体をゲノム分析し、その比較分析から、変異している遺伝子箇所をみつける。その変異箇所をNEC独自のネオアンチゲン予測システムを利用し、体内に免疫システムを作りやすいものを認識して見つけだし、効果の高い方法から順番にリストを作成。それに則って、個別化ネオアンチゲンワクチン合成を行ない、それを患者に投与する。結果として、免疫が活性化して、がん治療につながるというわけだ。

「一度、薬を作れば多くの人に効果があるというものではなく、人それぞれに異なるものが必要になる。将来的には、このサイクルを1カ月という短期間で行なう」(NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当の藤川修氏)という。

NEC 執行役員 ビジネスイノベーションユニット担当 藤川修氏

 ワクチン開発の鍵となるのが、ネオアンチゲンの選定だという。だが、ネオアンチゲンは、患者ごとに特異的なものであり、その都度、ヒトのDNAを構成する約30億の塩基対のなかから目印を見つける必要があり、これまでの創薬の仕方では限界があった。これに対してNECが開発した「グラフベース関係性学習」を活用したネオアンチゲン予測システムを使用することで、患者が持つ多数の候補のなかから、有望なネオアンチゲンを、短時間に、もっとも特徴的ながん細胞の目印を選定することができる。

 ここでは、NECが独自に蓄積してきたMHC結合活性の実験データによる学習に加えて、ネオアンチゲンの多面的な項目を総合評価することで選定するという。グラフベース関係性学習では、異なる種類のデータを扱えること、欠損値があっても、精度よく予測ができること、それらをAIによってカタチに変換できることが特徴。また、20年以上におよぶ免疫の専門家との連携により、信頼性の高いデータを蓄積してきたことも、選定に重要な要素になるという。

「単にAI技術を持っていたり、単にデータを持っていても、創薬事業には参入ではない。グラフベース関係性学習という『よい方法』と、蓄積した独自の質の高い試験データによる『よいデータ』を持っていることが重要であり、それを実現できるのはNECだけである。NECがなぜ創薬分野に参入するのではなく、NECが参入しなければ、これだけの短期間にがん治療のための薬を作り出すことができない」(藤川氏)。

グラフベース関係性学習という「よい方法」と蓄積した独自の質の高い試験データによる「よいデータ」

定款変更を前提に創薬、医薬品の開発に踏み込む

 協業するTransgeneは、1897年にフランスで設立したバイオテクノロジー企業。兄弟会社として、検査および診断の大手企業であるビオメリューがあり、1988年に上場している。

 Transgene エグゼクティブバイスプレジデント兼最高科学責任者のエリック・ケメナー(Eric QUEMENEUR)博士は、「個別化がんワクチンの開発は、他社との協業が重要であり、それぞれが持つ専門知識とノウハウを生かす必要がある。NECには、高い技術力がある。NECとの協業によって、強力なウイルスに関する技術とIT技術をバックボーンに持つことができるとともに、NECとはビジョンを共有でき、長期にビジネスを行なえるパートナーにもなれる。この取り組みで開発する個別化ネオアンチゲンワクチンは『TG4050』と呼び、われわれが収集したゲノム情報などのデータをもとに、NECのAIを活用して分析を行ない、それをもとに当社が薬を製造し、患者に投与することになる。再発卵巣がんの臨床試験はフランスで実施し、再発頭頸部がんについては、英国とフランスで実施する。NECとの協業では、他の疾患でも研究を開始するとともに、グローバルに事業を拡大し、価値を届けたい」とした。

Transgene エグゼクティブバイスプレジデント兼最高科学責任者のエリック・ケメナー(Eric QUEMENEUR)博士

 過去、がんの創薬研究において、NECは高知大学や山口大学と、長年に渡って取り組んできた経緯がある。また、2016年12月には、NECのAI技術を活用して創薬に取り組む先行実証例として、CYTLIMICを設立。2019年4月には、生物医学ソフトウェアによる高度な患者データ解析を行なう米BostonGeneに出資している。そして、今回のネオアンチンゲン予測システムによって、NECは、がん治療の向上を目指す国際コンソーシアムであるTESLA(TumorneoantigEn SeLection Alliance)への参画が認められ、がん治療の向上の世界的な取り組みにも貢献するという。

 藤川氏は「NECは、創薬事業を行なう会社になる」と前置きしつつ、「近年ではゲノム解析技術の進展により、AIによる膨大なデータ処理が求められており、創薬とAIの結びつきは緊密なものとなっている。だが、他社がAIやITツールなどを活用して、創薬支援をするのに留まっているのに対して、NECは創薬、医薬品の開発に取り組み、患者に薬を届ける事業を行なう。AIを用いた免疫治療領域のInnovation Firmとして、がん、感染症、自己免疫疾患に特価した先進的免疫医療法を実現し、患者に負担が少ない治療を目指す」とした。

創薬支援ではなく、創薬、医薬品の開発に取り組む

 NECでは、創薬事業のビジョンに「患者さんとご家族に希望にあふれる未来を届けるために」を掲げる一方、2019年6月に開催する株主総会で、定款変更の議案を付議し、「医薬品、医薬部外品、試薬その他の化学製品の製造および販売、その他の処分ならびに医療支援サービスおよび検査サービスの提供」を盛り込む。なお、創薬事業の経営指標を事業価値としたのは、「今回のような新規事業については、売り上げ規模や利益で評価するのではなく、事業価値で判断するのが最適と判断した。ベンチャー企業が売上高や利益で評価されていないのと同じである。将来のキャッシュフローから逆算し、売却したときにどれぐらいの価値があるのかという指標が重要である」(藤川氏)と説明した。

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