2019年5月30日、「Elasticsearch」を開発するElastic(エラスティック)は自社イベント「Elastic {ON} Tokyo」内でメディア発表会を開催した。OSSの検索エンジンとして幅広い実績を持つElasticsearchだが、性能やコスト、機能面などで高い評価を得ており、日本のエンタープライズでの導入も増えているようだ。
高速な検索を可能にするElasticsearchの軌跡
オランダ・アムステルダムを本拠にするElasticは全文検索エンジン「Elasticsearch」の開発元。ログを取り込む「Logstach」やデータ転送を行なう「Beats」、データ可視化を実現する「Kibana」などを統合した「Elastic Stack」とあわせてOSSプロジェクトとして開発されている。
ElasticsearchはOSSとして提供されており、フリー版も用意されているが、開発元のElastic自体からは機械学習やアラート、セキュリティなど先進的な機能とサポートを付与した商用版を提供している。オンプレミスやパブリッククラウドでの利用も可能だが、最近では「Elastic Cloud」においてエンジンだけでなく、アプリ検索、サイト検索などをサービスとして提供し、高い成長を遂げているという。
Elasticは2018年10月にNASDAQへの上場を果し、従業員はグローバルで1500名を超えた。世界40カ国でビジネスを展開しており、日本法人も5年ほど前から活動を進めている。また、コミュニティにフォーカスしている点も特筆すべき点で、100カ国で開発者向けのコミュニティが生まれているという。
発表会に登壇した米Elastic ワールドワイドマーケティングVPのジェフ・ヨシムラ氏は、Elasticの概要を紹介したビデオを披露。その上で「検索は人間が毎日やること。サーチと言えばGoogleだとみなさん思っている。でも、Googleはあくまでテキスト検索であり、WWW上のデータを引っ張ってくるサービスだ」と語る。
これに対してElasticは、Webサービスやモバイル、エンタープライズなどさまざまなシステムにおいて検索機能を提供する。「素早く検索結果が出てくるのは、ユーザー体験としてすでに当たり前となっているし、日常的に役立ってくれる検索結果にならなければならない」とヨシムラ氏は指摘。
その点、Elatsicsearchは性能面や拡張性という点で優れており、大容量のデータを扱う巨大インフラやエンタープライズシステムでも高い性能も発揮するという。「Active DirectoryやLDAPにも対応し、ドキュメントの閲覧権限をかけられる。機械学習の機能もわざわざデータを移動させなくても利用できる」(ヨシムラ氏)とのことで、エンタープライズ向けの機能も強化している。
検索からスタートし、ログ、ITオペレーション、セキュリティ可視化まで
ヨシムラ氏に続いて登壇した米Elastic チーフ・レベニュー・オフィサーのアーロン・カッツ氏は、Elasticのビジネス変遷を説明。6年前、会社が立ち上がったときは約30億ドル規模の市場だった「検索」にフォーカスしていたが、ユーザー主導でログデータの収集・分析が始まったことを受けて、ITオペレーションの分野にも拡大。その後、Hadoopなどのビッグデータや分析、セキュリティのSIEMの分野にも事業を拡大しており、すべてを合わせると、対象市場規模は約450億ドルにまで拡大しているという。
また、Elasticは海外売上がすでに40%を超え、すべての業種と市場規模に参入している。全世界のPOSデータのリアルタイム分析に用いるウォルマート、火星のテレメトリデータを分析するNASAのJPL、デジタルアセットの検索として導入しているアドビなどがElastic製品を採用しており、日本企業でもソフトバンク、リコーなどが導入しているという。「開発者はおおむねOSSのElasticsearchをサービスに導入し、プロジェクトが成功すると、結果として社内利用が拡大し、大手企業のCXOからも問い合わせが来るようになる」とカッツ氏は語る。用途も当初はアプリ検索からうスタートし、ログ分析、セキュリティ分析、ビジネスアナリスティックに進むパターンが多いという。
日本ではパートナー経由での販売も注力している。Google、Alibaba、Azure、Tencentなどがクラウドパートナーとなっているほか、国内でもアクロクエストテクノロジー、伊藤忠テクノソリューションズ、NTTテクノクロス、クリエーションライン、ネットワンシステムズ、日立ソリューションズ、富士通ソーシアルサイエンスラボラトリのインテグレーターがパートナーとして名前を連ねる。
入力データ量の課金はすでに時代のオーダーにあわない
今月からElasticのカントリー・マネージャーとなった川崎友和氏は、「企業でもデータは大量に増えてきているが、システムがサイロ化し、データを適切に使うのが難しくなっている。でも、大量のデータ正しいデータを、正しいタイミングで選び出すことが非常に重要になる」と指摘する。川崎氏は、Elasticのビジネスを拡げるとともに、日本でのニーズを汲んだ開発を進めていくという。
イベントの後半では、リコージャパン、メタウォーター、三井住友DSアセットマネジメントというユーザー3社が登壇した。セキュリティの可視化、IoTのテレメトリ分析、社内データの検索など利用用途は異なるが、一言で価値を語ると、「素早く見える化ができる」(リコージャパン 和久利智丈氏)、「ビジュアルが美しい」(メタウォーター 浦谷貴雄氏)、「簡単で速い。これに尽きる」(三井住友DSアセットマネジメント 池田佳弘氏)という評価になるという。
歴史の長い検索エンジンという市場において、Elasticの差別化要因は「優れたユーザー体験をもたらす性能」「ビッグデータ前提の拡張性」「多様なユースケース」になるという。「かつてはギガバイト単位だったが、ユーザーはすでにテラバイト、ペタバイト単位のデータをインジェストしている。そんな中、入力されたデータ量に応じて課金されるSplunkは、すでに時代のオーダーにあわない」とアーロン氏は語る。
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