パナソニックは5月28日、「働き方改革」に向けたクラウド型勤怠管理サービス「しごとコンパス」と連携して使用する新サービス「きもちスキャン」を発表した。両サービスを併用した場合、月額で1アカウントあたり2000円台半ば程度になる見込みだ。
パナソニックが持つセンシング技術を働き方改革に応用
「しごとコンパス」は、現在約1万3000台の端末で稼働中だ。働き方改革関連法案の施行による、罰則付きの残業事案の上限規制の導入への対策、2020年の東京五輪の開催によって想定される、首都圏の交通混雑などを背景にしたテレワークの導入などが追い風になっている。
「自発的に向上心を生むために、仕事を可視化(定量化)し、どこに課題や問題があり、どのような改善ができるかを自ら見つけてもらおうとしている」とパナソニック コネクテッドソリューションズ社 モバイルソリューションズ事業部 営業企画部 部長の中島功太郎氏はコメントした。
4月には、ユーザーが申告した就業時間と、実際にパソコンを使っていた時間の差を見える化できる機能を追加。勤務認定しにくいグレーな仕事時間を明確にできるようにした。また、ファイルの利用時間から、どういった業務にどのぐらいの時間をかけているかは把握し、“本来業務”と“減らせる業務”の仕分けができる機能なども持つ。業務の中身を把握することで、ムダな会議を削減したり、内部向け資料作成を簡素化したりするなど、具体的な対策が立てやすくなるという。
「きもちスキャン」は、しごとコンパスと一緒に使うことが前提のオプションサービスとなる。パナソニック コネクテッドソリューションズ社 モバイルソリューションズ事業部 開発センター 所長の栂尾幸一郎氏によると、「従業員の心と体の“元気度”を判別して、自分の仕事をコントロールする“セルフケア”の部分と、(個人情報を省いた形で統計化して)管理職が部門全体の見直しをすることを目的としている」とのこと。「従業員のメンタルヘルスの安定化は、個人と組織の両面のアプローチがあってはじめて実現する」とする。
血管の伸縮度合いを目安にした非接触型システム
きもちスキャンでは、レッツノートのフロントカメラで撮影した顔画像から、脈拍レベルを検出し、その結果から、自律神経の活動量を推定。これを「こころと身体の元気度」という指標として提示する。その実現のために、パナソニックが持つ「非接触バイタルセンシング技術」を応用。光の反射を利用して、血管の収縮度合いを計測し、それを画像処理技術を通じて最適化し、脈拍レベルの情報に置き換えていく。計測には2~5分ほどの時間が必要で、定期的に計測を続けることで、正常値と異常値の識別が可能となる。
商用サービス化に際しては、疲労を客観的かつ科学的に測定することを目的として(株)疲労科学研究所と協業した。脈拍レベルの大小を、疲労科学研究所と一緒に作ったアルゴリズムを通じて、データ化する。50を基準に活動量の高低を把握できる仕組み。直近10回分など、過去の履歴をグラフ化して変化を知ることができる。また、「休息が必要」「医師の診断を勧める」といった、活動量に応じたアドバイスも表示される。
「疲労とは何か」についての解説もあった。(社)日本疲労科学学会の理事で、放送大学の客員教授などを務める小泉淳一氏によると、2005年に設立した日本疲労学会では、生理的疲労(スポーツ)、病的疲労、慢性疲労、産業疲労など、疲労全般を科学的に扱い、学術の発展や医療の質の向上に寄与することを目的としているという。
疲労とは、外的な要因を心理・肉体的な変化として人間が受け止めることによって生じるが、日本疲労科学学会では、より進んだ定義として、疲労を「過度の肉体的および精神的活動、または疾病によって生じた独特の不快感と休養の願望を伴う身体の活動能力の減退状態」としている。これは、動物実験の結果なども網羅できるよう、観測や測定ができることを念頭に置いた定義だ。人が「疲れた」と思うかどうかなど定性的なものではなく、客観的に計測可能な現象として疲労をとらえている点が特徴だ。
小泉氏によると、疲労感が発生するメカニズムは、外的要因(ストレッサー)を通じた変化から、人間が元に戻るために起こるための調節にあるという。人にストレスがかかった際には、脳の中枢自律神経線維網が、免疫、内分泌系、自律神経などを調節し、恒常性が保たれる。しかし、この調節が不十分だったり、過度になった際には、独特な不快感が生じる。これを知覚するのが疲労感だと説明した。この変化のサインを見つけることで、ストレスとストレス反応、自律神経の低下、疲労の程度が推計できる。つまり、疲労を客観的にとらえることができるとする。
自律神経系は交感神経と副交感神経からなるが、1996年に北米とヨーロッパで、心電図から交感神経の活動を推計するゴールデンスタンダード(心拍変動解析)が確立されており、この方法を使って自律神経の活動量を計測する。過去に実施した調査では、企業の部門や従事する業務によって、この活動量には大きな差が見られた。
過去の調査では、96名ほどの協力者に対して、電極を付けて計測を行っていたが、非接触型のシステムを利用し、活動力を計測する機器の商用化はおそらく初めてではないかとする。
最新のレッツノート2シリーズが対応
きもちスキャンを利用するには、サービスの契約に加え、パソコン側の対応も必要だ。現状では、本日発表された最新モデルの「レッツノート SV8/LV8」のほか、一世代前の「レッツノート SV7/LV7」が対応機種として挙げられている。理由は、機能を実現するために、カメラモジュールとのチューニングが必要になるため。画像認識については、利用者に極端な日焼けがある場合には認識精度が落ちたり、光が激しく変化する環境下では測定時間がかかったりする場合もあるが、社内トライアルの範囲内では、おおむね問題なかったとする。
レッツノートの夏モデルは、6月14日から順次発売。店頭モデルの価格はオープンプライスだが、LV8は実売24万円(税別)、SV8は実売24.5万円(税別)程度からになる見込みだ。
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