評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめ度に応じて「特薦」「推薦」のマークもつけています。新生活を迎える4月を目前に控えてリリースされた優秀録音を中心にまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
『アブソルートリー・ライヴ!(コンプリート・エディション)』
寺久保エレナ
若手サックスプレーヤーとして絶大な人気の寺久保エレナの初のライヴ・アルバム。エレナの書き下ろし新曲2曲「A CRYSTAL PATH」「BE NICE」含めオリジナル3曲、スタンダード6曲の全9曲だ。怒濤のスウィングで、ビバップ快進撃の醍醐味を聴かせてくれる。本稿では以前本来では前回はスタジオセッションアルバムを採り上げたが、ライブならではのスリリングなモーションと、各奏者との即興のやり取りがたいへんダイナミックだ。ライブ録音だが、音のクオリティはひじょうに高く、各楽器がクリヤーで明瞭だ。特に寺久保のシャープで太く、突きぬけたサックスサウンドはまことに素晴らしい。特に高音への突進感が耳と体の快感だ。寺久保エレナ・カルテットによる2019年1月14日、新宿PIT INNでのライヴ収録。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
キングレコード、e-onkyo music
『Bruckner: Symphony No. 9 (Live)』
Münchner Philharmoniker & Valery Gergiev
オーケストラの自主制作が流行だが、私の聴くところ、「作品」というより「ドキュメント」としての要素が強く、音楽と音響の素晴らしさを堪能するというレベルを獲得するのは、なかなか難しい部分もある。しかし、ミュンヘンフィルの自主制作作品は違う。まず演奏が素晴らしい。ミュンヘンフィルのブルックナーと言えば、チェリビダッケが有名だが、ゲルギエフは異なる地平にて、新たなブルックナー像を打ち立てている。細部まで切れ込みが鋭く、解像度が高く、なおかつブルックナーらしい巨魁さが聴ける。録音も素晴らしい。ひじょうに透明で見渡しがよく、細部への暖かな眼差しとクリヤーな質感が聴ける、高水準なもの。自主制作でここまでのハイクオリティは、たいへん貴重だ。
その秘密は制作陣にありそうだ。録音はCPO(ドイツ) や BIS(スウェーデン) などのレーベルで高音質作品をものするエンジニアStephan Reh 氏が担当。マスタリングはECMでの傑作が多いChristoph Stickel氏が担当したというだけあり、ひじょうに高品質だ。2018年9月26日、リンツ、聖フローリアン修道院でのライヴ収録。
FLAC:96kHz/24bit、MQA Studio:96kHz/24bit
MUNCHNER PHILHARMONIKER GBR、e-onkyo music
『Soul of the Bass』
John Patitucci
驚異のベーシスト、ジョン・パティトゥッチの4年ぶりのリーダー・アルバム。彼にまつわるエピソードは多い。1987年にはデビューアルバム『ジョン・パティトゥッチ』を発表。エレクトリック6弦ベースの高音域での速弾きは、驚異的だった。その後、アコースティック・ベースに持ち替えても同様のテクニックで聴く者を驚嘆させた。
「1.Soul of the Bass」のベースソロ。どこまでも伸びるかのような低音の勢い、まさに地を這うような偉容感。体積が大きく、その内実も充実するベースサウンド……ハイレゾのベースは凄い。ハイレゾというと高域が伸びるというイメージがあるが、逆に低域の重量感、質感に大きなメリットを与えるのがハイレゾであることが耳と体で知悉できるアルバムだ。「3.Morning Train (Spiritual)」もベースソロ。「4.The Call」からバンドが入る。バンドサウンドもキレがシャープだ。「5.Mystery of the Soul」は弓弾きだ。flac 44.1kHz/24bitというパラメーターなのに、ひじょうにハイレゾ的なテクスチャーが楽しめる。ニューヨークのTHE BUNKER STUDIOで録音。
FLAC:44.1kHz/24bit、WAV:44.1kHz/24bit
AGATE、e-onkyo music
『ファリャ:《三角帽子》《恋は魔術師》他』
スイス・ロマンド管弦楽団, エルネスト・アンセルメ
私のDSDコンピレーションから新規にDSDアルバムとしてリリースされた一枚。イギリスデッカの録音能力を最大限に発揮した天下の名盤のDSD化だ。エルネスト・アンセルメは、 《三角帽子》を1919年、ロンドンで初演した当の指揮者であり、アナログ時代から決定盤とされていた。これが64年前の録音とは信じられない、もの凄く新鮮な音だ。冒頭の左に位置するティンパニの連打、続くセンターやや右の金管の躍動、センター位置のメゾソプラノの包容感、左右に拡がる男性コーラスの力強さ。まさに、鮮明でカラフルなデッカサウンドの極致だ。本DSDバージョンは演奏会場情報の豊かさ、色彩感の鮮やかさ、生々しい質感……で、格別の魅力を持つ。1961年2月、ジュネーヴのヴィクトリア・ホールで録音。オリジナル・アナログ・マスターから英Classic Soundにて2012年に制作したDSDマスター(2.8MHz)。
DSF:2.8MHz/1bit
Universal Music、e-onkyo music
『ヘンデル: 皆既日食 - ヘンデルのテノール作品集』
アーロン・シーハン, スティーヴン・スタッブス, パシフィック・ミュージックワークス・オーケストラ
ヘンデルと若きテノール歌手、ジョン・ビアードをテーマにしたコンセプトアルバム。ヘンデルのオラトリオからの歌曲、合奏協奏曲集。ピリオドなバロックはハイレゾに最適だ。細部までの抑揚と、伸び、躍動感はハイレゾの表現力が大いに効く。本作品はバロック的な愉悦が素晴らしい録音で堪能できる。ひじょうにクリヤーで、解像感が高く、音の進行に格段の勢いがあり、弦楽もテノールも生々しい質感を聴かせる。直接音と間接音のバランスが良く。豊かな響きの中に、伸びやかな音楽が聴ける。2017年2月21-24日、アメリカはワシントン州のバスタ大学・聖トマス教会で録音。
FLAC:192kHz/24bit、WAV:192kHz/24bit、WAV:352.8kHz/24bit
ナクソスジャパン、e-onkyo music
このところノラ・ジョーンズは、「My Heart is Full」「A Song with No Name」「It Was You」「Wintertime」「Just a Little Bit」---と立て続けにハイレゾシングルを先行リリースしていたが、それらを含む全7曲のニュー・アルバムだ。もともとの粘性の高いこってりとしたヴォーカルはさらに濃くなり、ソウルフルになった。感情感、ニュアンス感が実に濃密だ。ハイレゾらしく、上質なディテール感と輪郭感も聴き物だ。「It Was You」は昨秋の東日本カーサウンドコンテストの課題曲だった。ノラ・ジョーンズの新境地を確認するための必聴のアルバムである。
FLAC:96kHz/24bit、MQA:96kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music
ドミニカ出身の人気ピアニスト、ミシェル・カミロの通算25枚目アルバム。全曲カミロ作品を18名のビッグバンドと共演だ。ブリリアントで、鮮明、くっきりのサウンドとミュージック。リズムの鮮烈さと爽快さ、ブラスの吹き抜けの心地よさ、快適さは抜群だ。まさにこれから向かう、初夏から夏にふさわしいサマーサウンド。「1.And Sammy Walked In」のサックスソロから入るカミロのグルーブ溢れた突き抜け感が実に鮮烈だ。大編成バンドだが、個々の楽器が混濁することなく、ひじょうにクリヤーで、見渡しの良さを聴かせる。2018年7月23~26日、米ニューヨーク“パワーステーションスタジオでの録音。
FLAC:88.2kHz/24bit
Sony Music Labels、e-onkyo music
『“TWO OF US” Acoustic Session Recording at VICTOR STUDIO 302』
LOVE PSYCHEDELICO
LOVE PSYCHEDELICO(ラヴ・サイケデリコ)は男女2人組による音楽ユニット。二台のギターの重量級のサウンドがいい。「1.LADY MADONNA ~憂鬱なるスパイダー~」ビートルズ風のリフと、ビートルズ的なギターの音色がこの曲のコンセプトを鮮やかに打ち出す。文字通りLADY MADONNA的な旋律とコード進行、そして切れの良いストレートなヴォーカルはまさにビートルズへのオマージュだ。音はひじょうに鮮明。ギターもヴォーカルもセンターに定位し、切れ味がシャープで、緻密だ。「4.Sally」のナチュラルさ、「5.1 2 3」は60年代の懐かしいテイストも素敵。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
SPPEDSTAR RECORDS、e-onkyo music
『羽田健太郎: 交響曲 宇宙戦艦ヤマト (96kHz/24bit)』
大友直人, 東京交響楽団, 横山幸雄, 大谷康子, 小林沙羅
国民的人気アニメ「宇宙戦艦ヤマト」のテーマ・モチーフを用いて、羽田健太郎が作曲した「交響曲宇宙戦艦ヤマト」の三度目の録音だ。第一回は1984年に初演の大友直人指揮NHK交響楽団。第二回は2009年、大友直人指揮/日本フィルハーモニー交響楽団によるセッション録音。今回は2018年8月25日の東京交響楽団名曲全集第139回で演奏されたライブ版だ。会場はミューザ川崎シンフォニーホール。 ライブらしい躍動感に溢れた白熱の演奏。ワインヤード形式ならではの音の拡がりと透明度を兼ね備えたクリヤーな音響がそのままリアルに収録されている。
FLAC:96kHz/24bit、WAV:96kHz/24bit
日本コロムビア、e-onkyo music
『シューベルト: 歌曲集《冬の旅》』
ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ, ジェラルド・ムーア
私が最初に《冬の旅》を買ったのは、高校への入学祝いだった。その時の歌手がフィッシャー=ディースカウだった。何と素晴らしいビロードの歌模様だろうと、当時感激したことを覚えている。本DSDはその時の感動を蘇らせてくれた。私のDSDコンピレーションでまず紹介し、この四月にe-onkyo musicから正式にDSDアルバムとしてリリースされたアルバムだ。
大歌手、フィッシャー=ディースカウには7種類の《冬の旅》全曲録音があるが、本作は4度目。ジェラルド・ムーアのピアノの前奏がしっとりとした味わいを醸し出し、フィッシャー=ディースカウの声はビロードのような濡れた光沢感。DSDは端正なテクスチャーと潤いの音描写にて、深みと自然な滑らかさを聴かせる。声とピアノがたえなる調和を聴かせ、余韻が美しく、 滋味豊かで静かな情趣に浸れる。1971年8月、ベルリンで録音。DGのオリジナル・アナログ・マスターから独Emil Berliner Studiosにて2011年制作DSDマスター。
DSF:2.8MHz/1bit
Universal Music、e-onkyo music
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