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ダイレクト受注がアップし、従業員満足度も向上

日報をkintone化した「ミヤツークラウド」が社内に浸透するまで

2019年04月11日 09時00分更新

 kintone hive 仙台 2019のユーザー事例でピックアップしたのは、地元仙台で電気工事業を営むミヤツー。ジュークボックスのメーカーから音響、照明へと仕事を広げ、今は防犯カメラやモニターの設置にまでその事業範囲を広げている。理想の企業像を「ミヤツードリーム」として社員で共有しているという同社が、下請けメインの一般的な電気工事業者からダイレクト受注専門の企業へと転換した影には、kintoneの活用があったという。

ミヤツー 取締役社長 吉田 建是氏

ジュークボックスのメーカーからスタートし、電気工事業に転身

 2代目社長である吉田 建是氏は、学生時代から近所の解体屋に通ってはパーツを集めてバイクを組み立てていたという機械好き。今はアメリカ車に乗っていると、愛車のスライドを見せてくれた。筆者も好きな旧型のシボレーカマロで、排気量が5000ccと言っていたので恐らくCF34型と呼ばれるモデルだ。角目のいかつい顔と、V8エンジンの分厚いトルクが魅力のモデル。筆者も一時期5900ccのダッジバンに乗っていたが、「1リッター当たり3キロか4キロしか走らない」という燃費など気にならなくなる不思議な魅力が、この時代のアメリカ車にはある。

 話が完全に逸れてしまった。クルマではなく、ミヤツーの事業の話である。

 先代社長の時代、ミヤツーはジュークボックスのメーカーだった。賢明にして博識なアスキー読者ならご存知だと思うが、大きな装置にレコードが何枚も収められており、曲名のボタンを押すと該当するレコードが機械でピックアップされ、自動再生される装置だ。飲食店などに設置される場合には、1曲100円程度のお金を払って好きなBGMを選んでいた、アレである。今でもカラオケ機器レンタルなどの事業にその係累を見ることができる。

 そんなミヤツーは、時代の変遷とともに事業を変化させてきた。ジュークボックスの販売、設置から音響設備工事へ。それに付随して照明設備、防犯カメラやモニターの設置、電気設備のメンテナンスへと、その時代に求められる事業に柔軟に対応してきた。事業内容だけではなく、20名弱の従業員全員が一丸となり、家族のような企業を目指して働ける会社を目指し、それぞれが会社に託す夢を具体的にしてまとめた「ミヤツードリーム2020」を作成。全員が満足できる仕事ができる環境を目指して日々の業務に取り組んでいる。しかし、電気工事業者には従業員満足度を高く保てない特殊な事情があった。

受注が安定する下請け事業中心のビジネスモデルよりも、社員のやり甲斐を優先

 電気工事業の仕事は、建設業者からの下請けがほぼ100%だという。ゼネコンやサブコンと呼ばれる大手の建設会社から、ビルなどの電気設備を受注し、施工する。しかも、これは筆者の知り合いから聞いた話だが、電気設備工事は年々複雑化していく上に納期が非常に厳しい。建物のガワができあがらなければ工事ができないので、順番は後回しだ。その分、前半の工期の遅れのしわ寄せを受けることになる。しかも、ほぼすべての受注を建設会社からの下請けが占めているので、クライアントの言うことは絶対だ。工期だけではなく、コストダウンのしわ寄せもある。言われるがままの価格で、言われるがままの仕事ををこなす日々。これでは仕事が楽しくなる訳がない。

「下請け仕事は悪いことばかりではありません。新しい建物の建設が続いている間は、仕事が途切れないのですから。しかし、自分のやりたいことを提案する仕事のような、やり甲斐は感じにくい。そのせいで、社員の定着率が低い状態が続きました」(吉田氏)

 業績の安定を選ぶのか、従業員にやり甲斐を感じてもらうことを選ぶのか。吉田氏は後者を選び、ミヤツーは下請け業者から自分たちで仕事を作っていく企業へと大きく舵を切った。下請け仕事を一切引き受けずに、顧客との直取引にこだわるようになった。

「今は直接取引させていただく仕事だけになりました。そうすると、お客様にも私たちにもメリットがうまれました」(吉田氏)

 間に別の事業者が入らないため、顧客は同じ予算でこれまで以上の品質と機能を得られるようになった。ミヤツー社員は、顧客と直接やりとりすることでダイレクトに課題を聞き出せるので、より理想的な提案が可能になった。なにより、顧客から感謝の言葉を聞けるようになったことが従業員満足度を高めたという。

年功序列を廃して生まれたデメリットをkintoneで解決

 下請け仕事の排除以外にも、吉田氏には実現したいことがあった。それは年功序列の排除だ。社歴が長いというだけで高い給与をもらう社員がいる一方、がんばっている若手社員の給与は安く抑えられている。これはおかしいと吉田氏は言う。そこで取った施策は単純かつ大胆なものだった。

「部門別に売上利益と経費を全部ガラス張りにしました。数字に基づいた公正な評価ができるようになり、若い人がどんどん頑張るようになり、会社の業績も上がりました。しかし、負の副産物も生まれました」(吉田氏)

 負の副産物とは、個人主義の蔓延だった。自分の業績だけを考えて仕事をすることが当たり前になり、情報共有は滞り、社内の風通しは悪くなった。「業績は上がったが、組織としては空中分解寸前」だったと吉田氏は振り返る。横のつながりが薄くなり、それぞれが自分の予算と売上数字だけを見て仕事をしていた。すぐ隣で同じような案件に携わっている同僚がいても、情報が共有されず、それぞれがいちから提案書と見積書を作っていた。社内にある情報が共有、活用されずに個人個人で業務を抱え込んだ結果、残業は増え、有給休暇も取りにくくなり、次第に社内に不満がたまってきた。業績は上がったのに、会社の雰囲気は悪くなる一方だった。

「これを解決するために考えられる施策はたくさんありました。しかし、みんなが疲弊している中であれもやれこれもやれと言うのは逆効果に思えました。だから、やるべきことをひとつだけに絞って、それを徹底してもらおう、そう考えました」(吉田氏)

 全員が納得してくれる、たったひとつの業務とはなんだろう。吉田氏がそう考えて辿り着いたのが、日報だった。それまでにも日報はあったが、紙やExcelベースで記入していた。吉田氏はkintoneを使って、この日報を変えた。

「日報に必要な要素を、いつ、どこで、誰に、何を、どうしたという5つに絞り込みました。これさえ記入すれば日報ができあがって、しかも社内で共有できる仕組みを作ったのです」(吉田氏)

 日報に記入された情報は案件情報や顧客情報、設備台帳にも自動的に反映されるようにした。これらが全員で共有されることで、誰がどのような案件に携わっているのか、新たな受注時に類似案件の経験者がいないか、簡単に検索できるようになった。その効果は大きく、増え続けていた残業が減り帰宅時刻も早くなったという。

 その後、見積アプリや会議室アプリ、回覧板アプリなどを作って社内でのkintone活用が広まっていった。

やるべきことをひとつに絞ったことが成功につながった

 いまでこそkintoneを業務に使いこなしているミヤツーだが、風呂敷を一度に広げなかったことが成功につながったと言える。毎日書いていた日報をkintoneに移行し、必ず記入するようにした。やらなければならないことを日報だけに絞り込んだことで、kintoneになじむためのハードルを下げることに成功したのだ。

「やらなければならないことが多いと、余裕がなくなります。逆にやるべきことが少なく明確になっていると、余裕が生まれて気づきが多くなることがわかりました。たとえば日報に問題定義という欄を設けているのですが、kintoneにしてから記入されることが増えました。現場を改善するアイディアが、現場の社員から出てくるんです。これはすごいことですよ」(吉田氏)

 改善要望が多く出てくれば、稟議書も出しやすい。しかも以前は紙の稟議書を数日かけて回していたものが、kintoneのワークフロー機能を使うことでスピードアップ。稟議が通ったことは本人に通知されるので、自分のアイディアが認められたという自己肯定感が生まれる。これはそのまま、日々の仕事のモチベーションアップにもつながる。

「システムだけに頼らない努力もしています。kintoneはコミュニケーション機能が充実しているのが魅力のひとつですが、文字だけのコミュニケーションは誤解も生みやすい側面があります。なので、問題定義をしてくれた社員には直接声をかけてフォローするようにしています」(吉田氏)

 kintoneを社内に浸透させるために吉田氏が取った施策はほかにもある。それは、「kintone」と呼ばずに「ミヤツークラウド」という愛称で呼ぶこと。そして、それが自分たちの業務を楽にし、顧客に届ける価値を高めるものだと社内に浸透するまで、その良さを訴え続けること。

「kintoneの最大の魅力は、自炊。自分で自分のアイディアを形にできるところにあると思います。ただし、その魅力に気づいてもらうために、最初に取り上げるポイントは最小でなければなりません。必ずやることをひとつだけに絞ること。そうすることで余裕ができ、気づきとアイディアが生まれ、それをkintoneで形にして業務に反映されると、自己肯定感に満たされます。社員が立てたプランを、自ら行動に移して、自らアプリという形にして、さらに現場で改善していく。そんなPDCAサイクルのスタートは、たったひとつの行動なのです」(吉田氏)

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