週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Twitterアイコン
  • RSSフィード

3ヵ月間の集中メンタリングでビジネスと知財戦略はどう変わったか? 特許庁IPAS Demo Day

スタートアップが陥りがちな8つの課題 日本初知財アクセラの成果

事業計画からトラブル解決まで、状況に合わせてアドバイス

 パネルディスカッションでは、採択企業4社とそれぞれのメンターがIPASへの応募動機や支援内容を語った。

DeepFlow株式会社 代表取締役社長 深川宏樹氏、インハウスハブ東京法律事務所 マネージング・パートナー 足立昌聰氏、DBJキャピタル株式会社 シニアインベストメントマネージャー 石元良武氏

 DeepFlowは、2018年7月5日に会社を設立し、独自技術のビジネスへのつなげ方を模索していたタイミングに、IPASの公募を知ったという。

 「IPAS参加時はまだ事業計画もなかった。最初のうちは、ビジネスモデルなどの話がほとんど。知財に関しては、クラウドサービスで提供するので、秘匿で十分だと考えていたが、取得しなくてはならない知財があることを指摘されました」と深川氏。事業計画、知財戦略のブラッシュアップに加え、ビジネスパートナーも紹介してもらえたそうだ。

iCraft法律事務所 代表 内田 誠氏、株式会社アクセルスペース CTO 宮下直己氏

 超小型衛星ビジネスを展開するアクセルスペースは、これまでブラックボックス戦略をとっていたが、新たに地球観測画像データのプラットフォーム「AxelGlobe」の知財戦略が必要になったことがIPASの応募理由(参考:「地球観測インフラ展開で変化したアクセルスペースの知財意識」)。設立10年目でビジネスモデルはできていたので、知財メンターのみを依頼したそうだ。

 メンタリングを担当した内田弁護士は、「大企業とは異なり、スタートアップは人的・財務的な資源が少なく、中に入って知財のシーズがあるのかどうかを掘り起こせるのが楽しい。技術者と話すのが好きなので、楽しそうなので応募した」とのこと。

 具体的な支援としては、AxelGlobeビジネスでは衛星画像をもとにAIで加工したデータをウェブサイトで提供していくにあたり、データ取引に関する利用規約を作成。特許については、画像データを提供するインターフェースの特許を取得、また裏で動いているAIの学習モデルに関しても特許を出願中だ。どういったフローで知財のシーズを掘り起こして出願していくのか、今後の知財戦略についても助言を受けたそうだ。

 「データ利用規約でのメンタリングがよかった。ディープラーニングの世界では、データを加工して、副次的にデータが使われる可能性がある。古いデータ利用契約ではケアできない部分について、最新の知識から利用規約を見ていただけたのは非常に感謝しています」と宮下氏。

株式会社Kyulux CTO兼知財部長 岡田 久氏、Abies Ventures株式会社 代表取締役 マネージング・パートナー 山口冬樹氏、内田・鮫島法律事務所 弁護士 石橋 茂氏

 キューラックスは、有機ELディスプレーに使われる発光材料を開発する九州大学発ベンチャー。プログラムに応募した時点では、トータルで知財戦略をサポートしてもらうつもりで応募したそうだが、メンタリングが始まったとき、事業に重大なトラブルが発生し、その解決のためにメンタリング時間の大部分を割いてもらったそうだ。知財の専門家のサポートが重要な局面であったため、ある意味、タイミングが良かったともいえる。

 「IPASの良さは、企業ごとに、ニーズの高いところに対応してくれること。本当に助かりました」と安達氏は振り返る。

 石橋氏は、「キューラックスさんは、ベンチャーとしては所有する特許の件数が非常に多く、その処理がオーバーフローしていた。そこで、出願するかどうか、権利化を継続するかどうかといった判断の基準についてアドバイスをさせていただいた。日常の業務を見直すきっかけになってもらえたのでは」とコメント。

株式会社Jiksak Bioengineering 代表取締役 川田治良氏、株式会社慶應イノベーション・イニシアティブ 執行役員 本郷有克氏、大澤国際特許外国法事務弁護士事務所 所長・弁理士 大澤健一氏

 Jiksak Bioengineeringは、iPS細胞から作製した神経細胞と三次元培養技術を用いた創薬研究を進めている。IPAS応募の理由は、「ひとつは知名度を上げるため。もうひとつは、産業的に成熟していない分野で、どのようなビジネスをしていけばいいか不安だったため、サポートを得たかった」と川田氏。

 メンタリングでは、川田氏がこれから事業としてやりたいことを説明し、事業計画のアドバイスを受けることに半分以上の時間を費やしたという。

 「創薬ベンチャーなので、今後、億単位の資金を調達していかなくてはならない。どの順番で何をいつまでにやるのか。まず、やりたいことの優先順位をつけて事業計画を立て、個別に戦略を立てていきました」と本郷氏。メンタリングではかなり厳しい指摘も受けたそうだが、現在は、資金調達を始めており、ビジネスの進めていくうえで重要なステップになったようだ。

 大澤氏は、「知財の専門家は、ビジネスのことはわからないことが多い。このプログラムに参加して、逆にすごく勉強になった部分もある。IPASは専門家の人材を育てるのにもいい機会。若手の弁理士にも積極的に参加してほしい」と語った。

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります

この特集の記事