評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。音楽の秋に合った優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
『ショスタコーヴィチ:交響曲第6番・第7番、他[Live]』
ボストン交響楽団, アンドリス・ネルソンス
アンドリス・ネルソンス絶好調。エモーションと躍動、そしてスパークル(燦めきの爆発)が彼の音楽の真骨頂だ。最近のネルソンスで素晴らしかったのが、NHKの新8K衛星放送で放映されたウィーン・フィルとの昨年5月ライブの「第九」。12月1日に渋谷のストリームホールのNHK8Kイベントで体験した。
映像は8Kならではの細部の質感が豊かなもので、たいへん鮮鋭だ。弦楽器の飴色に乗る反射のシャープさ。演奏も圧倒的だ。細部までの彫塑が見事で、ウィーン・フィルならではの豊潤さが両立。細部の質感が豊かで、鮮鋭感がシャープだ。
このウィーン・フィルとは2020年のベートーヴェンのアニヴァーサリー・イヤーに向けてベートーヴェン交響曲9曲全集録音が進行中。第21代カペルマイスター(首席指揮者)のライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団ではブルックナーの交響曲9曲全集録音が、そしてボストン交響楽団ではショスタコビッチの交響曲9曲全集録音が同時進行している。すべてユニバーサル・ミュージックという最大手レーベルにて、だ。まさに現代のトップスター指揮者だ。
本ファイルはショスタコビッチ第1弾「第10番」、第2弾「5番、第8番、第9番」、第3弾「4番、11番」に継ぐシリーズ第4弾。雄大にして繊細、音の粒立ちがひじょうに細やか。ロシア的な土着的なレニングラードではなく、近代的でスマート、同時に悲劇性も十分に含有する、またにこのコンビだけがなしうる新時代の「レニングラード」だ。音質も、毎度、このシリーズで評価していることだけど、ボストン・シンフォニーホールの豊穣なソノリティと、細部の音楽情報までまで屹立させるディテール再現とのバランスが素晴らしい。曲の持つ緊迫感を見事に音楽的に描いた、ネルソンス/ボストン響の黄金時代を告げる名録音だ。2017年、ボストン・シンフォニーホールで録音。
FLAC:96kHz/24bit、e-onkyo music
『ブラームス:主題と変奏、バラード集、幻想曲集』
デニス・コジュヒン
世界三大ピアノコンクールの一つ、エリザベート王妃国際コンクール(2010年)の覇者、ロシアのデニス・コジュヒン。詰め襟の黒い衣装と長い金髪を後ろでまとめる、彼の姿は2011年、2013年に日本で披露され、圧倒的な感動を聴衆に残した。PENTATONEレーベルでは、チャイコフスキーとグリーグの協奏曲でデビュー。第2弾がこのブラームスのピアノ独奏作品集だ。
クララ・シューマンに献呈された「主題と変奏」を聴く。弦楽六重奏曲第1番の第2楽章ニ短調をピアノ独奏用にブラームス自身が編曲した作品だ。悲劇的、悲愴的な作品性を見事に表現した演奏と音に圧倒された。音質も彼のピアニズムの隅々まで、明瞭に照射する。レンジ感が広大で、美的で繊細な音が聴ける。、ペンタトーンの特徴である音場の深さと同時にピアノ音色の華麗さがDSDのソノリティ豊かな表現性を伴って聴ける。2016年3月、オランダ・ヒルフェルムスのMCOスタジオ5で録音。制作はフィリップスの流れを汲むポリヒムニア・インターナショナル。
FLAC:96kHz/24bit、DSF:2.8MHz/1bit
PENTATONE、e-onkyo music
私は冬の浅い日の情景が、しっとりと描写されている「雪の華」を好む。4曲入りのマキシシングルは、ドライブの“ヘビロテ”アルバムだ。44曲もの本ベストアルバムでは、3曲の違うバージョンの「雪の華」が、収録されている。
1曲目は2003年のオリジナル版そのものだ。16曲目の「雪の華 Piano & Voice Sty」e」は先月、紹介した最新録音バージョン。オリジナル「雪の華」に比べると音程が少し低く、声質が太くなっている。3曲目「雪の華 Reggae Disco Rockers 2018 Relaxin' mix」のレゲエ演奏は、マキシシングルのレゲエ版とは異なる。個人的にはマキシシングルでの、すっきりとした見渡しの良さも忘れられない。
でもどのバージョンでも、「雪の華」の名曲性はまったく変わらない。いずれの「雪の華」のハイレゾらしい質感が聴ける。
FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music
75年の名作のハイレゾ・リマスタリング。アナログ的な堂々とした音像感と、緻密さ、音のエネルギー感が、デジタルのプラットフォームでリアルに聴ける。
デジタルはアナログの質感を大切に運ぶ“キャリア”(運び手)であるという、デジタル時代における“アナログが出自の音源”のあり方を、再認識させられる。ヴォーカル音像はセンターに大きなサイズで定位。バックを務めるティンパン・アレイのメンバーの各楽器の音像も明瞭に識れる。編成は小さいが、それらの充実度は高い。山下達郎、吉田美奈子、大貫妙子のコーラス陣も絶品だ。
FLAC:96kHz/24bit
Sony Music Direct(Japan) Inc.、e-onkyo music
「SEIKO JAZZ」快調だ。#1はアメリカ名門ジャズレーベルVerveから全米リリース。ハイレゾ大手配信の「HD tracks」においてジャズ部門で第2位という嚇々たる成果を上げた。勢いに乗り、#2が制作された。
ジャズ、ラテン、スタンダードと幅広い選曲にて松田聖子の今を聴く。ラテンの名曲「スウェイ」はリズムの鋭敏さ、乗りの良さ、ニュアンスの豊潤さが躍動している。ヴィブラートにはゾクゾク。本アルバムではリズミックな曲の出来がよい。若い頃のハイノートでなく、年齢を重ね、音程が低くなり、声質に味わいが出てきたことも、本アルバムが制作された理由であろう。
FLAC:48kHz/24bit、MQA:48kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music
アイデア賞ものというか、この手があったか!。福山雅治がコンサートの最後に必ず行う、ギター弾き歌いのアンコールピースを、MC付きで収録。MCの内容は毎回変わるので、ファンにはまさに垂涎のアルバムだ。
31コンサートでの31曲が収められている。収録パターンはまず拍手、次ぎにMC、アコースティック曲という順番が多い。場所や時間は異なるが、音調はほぼ同じだ。音はライブらしさと同時に、声と楽器がとても明瞭だ。MCにも響きが適度に与えられているが、意外にクリヤーだ。
FLAC:48kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music
『マーラー:交響曲第6番「悲劇的」』
Paavo Jarvi (conductor) NHK Symphony Orchestra, Tokyo
複雑なスコアを、精緻に読みくだき、再構成して明確に、明瞭に聴かせることでは、パーヴォ・ヤルヴィは抜群の手腕を発揮する。マーラーのロマンティックな側面の表現が特に上手い。音調的には、とろけるような表情豊かな弦の響きが特に耳に心地よいのは、演奏時の音調に加え、DSD録音のメリットもあるだろう。
優しく、包容感が豊かで、麗しい響きはDSDに拠っているところが大きい。冒頭の低弦と高弦がコントラストを成しながら進行していくスリリングさも、聴きどころのひとつだ。2017年2月、横浜みなとみらいホールでDSD録音。「N響横浜スペシャル」でのライヴ・レコーディング。
DSF:2.8MHz/1bit
Sony Music Labels Inc.、e-onkyo music
『Trevor Horn Reimagines The Eighties feat. The Sarm Orchestra』
Trevor Horn
数々の大ヒットを生み出してきたイギリスのトップ・プロデューサー、トレヴァー・ホーンが手掛けたヒット曲を中心に、80年代の大ヒット曲をフルオーケストラに編曲した最新アルバム。
ハイレゾ時代になり、過去の名作をハイレゾで蘇らせる試みが多く登場しているが、これはその最新版だ。オーケストラの雄大さと、それを背景に朗々と歌うヴォーカルの明瞭さが同居している。スケール感と突きぬけ感で迫り、音場的、音像的なバランスが良好だ。
FLAC:44.1kHz/24bit、WAV:44.1kHz/24bit
U/M/A/A Inc、e-onkyo music
現代ジャズ・シーンの神的な存在が、ウェイン・ショーター。CDでは3枚組の弩級のアルバムだ。叙情性とイマジネーションに溢れた壮大なサウンドである。
2曲目「プロメテウス・アンバウンド」と3曲目「ロータス」はオルフェウス室内管弦楽団の濃密な歌い、オーケストレーションの斬新さ、弦の弦と管のリズムの饗宴が強烈に印象に残る。まさに現代版のガーシュウイン「ラプソディ・イン・ブルー」と言っても過言ではない、ジャズ版のニュークラシックだ。旋律の不思議なエスニックさとリズムの衝撃には打たれる。9曲目「アドヴェンチャーズ・アボード・ザ・ゴールデン・ミーン」ではシンプルなコンボでの、ウェイン・ショーターの名技がたっぷりと味わえる。
FLAC:44.1kHz/24bit、MQA:44.1kHz/24bit
Blue Note Records、e-onkyo music
ジャズシンガー/ピアニストのシャーリー・ホーン(1934~2005年)は味わい深い艶声のヴォーカルで、ファンを魅了した。歌とピアノの同時演奏の達人で、マイルス・デイビスのお気に入りだった。
彼女の1988年作「Softly」。65歳の時の作品だ。アナログからのトランスファーでは、抜群のセンスと音楽性を感じさせるレーベル:2xHDのリマスタリング。DSD11.2MHzでも提供される。ひじょうに透明感が高く、音のグラテーションも豊穣だ。弾き語りのピアノが繊細で、味わいが深い。オンマイクのヴォーカルの表情がこと細かに明瞭に聴け、語り口のニュアンスの豊富さが、DSDだからこそ生々しく伝わる。コンポをバックにしても各楽器の音像はひじょうにクリヤーだ。
FLAC:96kHz/24bit、192kHz/24bit
WAV:96kHz/24bit、192kHz/24bit
DSF:2.8MHz/1bit、5.6MHz/1bit、11.2MHz/1bit
2xHD、e-onkyo music
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