メルティンMMI 關達也氏、リンクウィズ 吹野豪氏インタビュー
スタートアップ×ものづくりの先駆者が語る「ものづくり協業の作法」
組み立てロボットが品質検査もこなす――リンクウィズの場合
リンクウィズは産業用ロボット向けソフトウェア開発で著名なスタートアップ。チームメンバーは21名で、外国人が4割を占める同社には、世界中からロボットにまつわる就職先を探すエンジニアがアプローチしてくるという。人材不足で悩むことが多いスタートアップにあって異例の存在だ。
産業用ロボットは1つことをこなす能力に秀でており、寸分違わぬ動きを繰り返すことを得意としている。しかしその特性は必ずしもメリットばかりではないと同社代表取締役の吹野氏は語る。
たとえば、何らかの部品として形作られる前の鉄はトイレットペーパーのような状態で工場に運ばれてくる。当然、ロールの中心に近づくほど、より強く曲げられている。このような材料を加工して熱を入れると、ロールの位置によってそれぞれ異なるねじれが生じる。そのため同じ製造ラインで作ったにもかかわらず品質に差が出てしまう。つまり、同じ動きの繰り返しだけでは正確な加工を実現できないのだ。
そこで工場では、職人が長年の経験をもとに金型を調整したり、手触りで出来上がった部品の良し悪しを見定めている。しかし国内は人手不足に突入しており、これまでのような体制を敷くことは難しいのが実情だ。一方、海外では単純に大量生産し、品質の良いものだけを出荷する方法がメジャーだという。
そこでリンクウィズは、産業用ロボットに加工前の鉄の微細な歪みまで判断させ、その歪みに合わせて自ら動きを変えていくことで均一な部品作りを実現するソフトウェア「L-ROBOT」を開発した。
さらに、1つの工場で1日2000~3000個の部品を作っていたとして、それを人間が24時間目視で検査することは難しい。どうしても見落としが起きてしまう。そこで同社のソフトウェア「L-QUALIFY」を導入することで、疲れを知らない産業用ロボットに全数検査させることができる。その代わり、産業用ロボットが不得意なこと、たとえばカメラでは判断できないような色ムラを見つける検査は人間に担当させる。そうすることで、これまで以上の適材適所が実現するわけだ。
昨今、工場にはいたるところにロボットが配置されている。そのロボットたちすべてにセンサーを取り付けてデータを集めればリアルタイムで品質を計ることができるのではないか、そしてゆくゆくは「工場の見える化」につながるのではと吹野氏は語る。
ものづくりの現場には絶対に曲げちゃいけない作法がある
とはいえ、その目標を達成するには、まずはじめに品質の違いを判断するソフトウェアが産業用ロボット上で動くことを証明しなければならない。その実証実験には当然、工場で使われる産業用ロボットそのものが必要だ。
つまり、産業用ロボットが材料の歪みを見越して作業している様子を実際に見てもらわない限り工場側の信用は得られない。そのためには検証・開発用に産業用ロボット(ハードウェア)を購入せざるを得ず、すでにリンクウィズは中小規模の工場に勝るとも劣らない数の産業用ロボットを購入している。
また、産業用ロボットに取り付ける専用センサーは存在しないため、当初は入手が容易な市販品を流用していた。しかし、センサーは基本、静止させて使うことを前提に設計されているため、産業用ロボットに取り付けて何万回も動かすと、センサー内部のコードが摩耗して切れてしまうといった不具合が発生した。元々イメージセンサーは振動に弱いこともあり、結局はセンサーメーカーとの共同研究の必要が生じたという。
ただ、「(私たちが説明した)達成すべき未来の姿に共感してくださる企業・人としか協業はできません」と吹野氏は語る。たとえば、大企業ならではの堅実な仕事の進め方と、スタートアップの生命線であるスピード感は基本的に相容れない。開発計画、予算をしっかりと立てて稟議を通した後に変更が生じた場合、スタートアップはその場で計画を破棄して新しく計画を立て始めるが、大企業では社内システム的に、スタートしてしまった計画はたとえ無駄だとわかっていても止められない、ということが往々にしてあるのだ。
このスピード感の違いについて吹野氏は、「(協業する企業側がスタートアップに)合わせていただく必要があります」と強調した。スピード感を持って一気に世の中を変えていく気概を持つスタートアップ側がスピードを緩めるわけにはいかないからだ。もちろん、事前にきちんと説明しておくことが大前提ではあるが。
従来のものづくり企業は「利益を積み重ねていくことで、プロジェクトや企業そのものを徐々に大きくする」というモデルだった。しかし吹野氏曰く、「従来のモデルではリンクウィズが目指す『労働力人口減少の対策として産業用ロボットに検査を肩代わりさせる』という目標を達成するまでにあと15年は掛かってしまう。それでは日本の労働力人口が減少する速さに対して開発が間に合わない。我々はあと5年で達成したいと考えています」。このスピードを維持するには、やはりスタートアップ主導の協業が必須なのだ。
今回のStartup Factory構築事業については、提携先のファーストコンタクトとしてStartup Factoryがあり、その先に協業先がいるという作りはわかりやすいと吹野氏は評価する。一方的なビジネスマッチングではミッションや熱意が伝えられないからだ。なお、Startup Factoryには量産に向けた試作・設計の支援拠点として、著名企業のほか、確かな技術を有する大企業の下請け工場、大学・団体などが集っている。
そしてスタートアップ側もテキスト主体の企画書だけでなく、ビジョンを伝える動画コンテンツがあると使い勝手がよいとの指摘もあった。たとえばピッチ用の動画アーカイブを公式サイトに揃えておけば、企業側からも探しやすくなるとのこと。
最後に、ソフトウェアを中心としたスタートアップなど、非ハードウェア企業がハードウェアに関わる際の注意点を吹野氏に伺ったところ、「ものづくり企業とつきあう際に大事なのは、ものづくり企業独特の作法があることを知ること」という答えが返ってきた。
ものづくり企業の経営者が一番に考えていることは、工場を安全にして従業員がケガをしないことだ。そのために「工場に立ち入る際は安全靴を履く」「髪の毛が機械に巻き込まれないように帽子を被る」「工場内を歩くときは指さし確認をする」といった、一見地味だが絶対に曲げてはいけない作法がそれぞれの企業に存在する。これを軽視すると、ものづくり企業とは協業できない。
実際、吹野氏も創業当初、地元企業を訪問したときに上記を指摘された経験があるという。それ以降、ものづくり企業を訪ねるときは必ず「入場する際に必要なものはありますか?」と聞いたうえで持参しているとのこと。
協業にあたってスタートアップのスピード感を重視してもらうことは大切だが、それ以前にものづくりの基本的な作法を知っておくことが必要なのだ。
Startup Factory構築事業の成果報告イベントが3/14(木)に決定
スタートアップ、支援者が集まる交流会も同時開催
詳細は下記をご参照ください!
(提供:環境共創イニシアチブ)
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