SNSのエンジニア界隈で「あのボタン」という単語を見たことはないだろうか。何なら「#あのボタン」というハッシュタグまである。これはPoCから本番環境まで手軽に使えるIoTデバイス、SORACOM LTE-M Buttonのことだ。1年間/1500クリックまでの利用料込みで約8千円、翌年からは1年間/1500クリックを1200円で使えるお手頃デバイスということもあり、筆者も気になっていた。そんなところ、JAWS-UG名古屋とSORACOM-UG東海が共催して“あのボタン”のハンズオンセッションを開催するというので、筆者は名古屋へとクルマを走らせた。
ハンズオンを前に、あのボタンの基本的な知識を松下さんから授かる
会場を提供くださったアイレットの高野 一さんの挨拶から、「JAWS-UG名古屋 SORACOM-UG東海 共催 LTE-M Button ハンズオン」という、とても長いタイトルのイベントはスタートした。
この日の予定は、ソラコムのテクノロジーエバンジェリスト“Max”こと松下 亨平さんのプレゼンテーション、“あのボタン”ことSORACOM LTE-M Button(以下、「“あのボタン”」)を使ったハンズオンが2セッション、さらにその後もプレゼンテーションが続くという内容盛りだくさんの予定だった。
実は筆者は少し心配していた。ハンズオンセッションというのは、時間が読めないものだ。今回はハンズオンセッションにそれぞれ2時間と30分が割り当てられていた。2本目セッションの時間が短いのは、1本目のハンズオンで“あのボタン”の基本的な設定が終わっている前提だと考えても、時間の余裕が少ない気がした。しかも、ハンズオンセッションの前に松下さんのプレゼンテーションがあるのだ。こちらは50分が予定されていたが……時間内に終わるとは到底思えない。なぜかって。
「今回はハンズオンがあるのでその前に簡単に仕組みを解説するだけのつもりだったのですが、気づいたらスライドが47枚になっていました。でもなんとか持ち時間内に終わらせます」(松下さん)
そう自己紹介しているときに出ていたスライドがこちら。自ら「オーバーラン常習犯」と書いている。そう、Facebookなどでも「Max安定のオーバーラン」などと書かれるほど、松下さんのプレゼンテーションは時間内に終わらないことで有名。その松下さんのプレゼンテーションから始まってハンズオンが2セッションもるのだから、時間の心配もしたくなろうというもの。
とはいえ、オーバーラン常習犯でありながら年間140回も呼ばれるのは、松下さんのプレゼンテーションに得るものが多いという裏付けでもある。今回のプレゼンテーションからポイントをいくつか抜き出してみよう。
「SORACOM LTE-M Buttonとボタンを支えるバックエンドシステムの紹介」というセッションは、まずは“あのボタン”の紹介からスタート。筆者は不勉強にして知らなかったのだが、“あのボタン”はAWS IoT 1-Clickで正式にサポートされているたった3種類のデバイスのひとつだった。そのおかげで、マネジメントコンソールから簡単にIoTの設定ができる優れものなのだ。
もうひとつ大きなポイントとしては、ボタン側はできるだけ簡素に、ハードウェアに情報を多く持たせない設計思想になっていること。“あのボタン”をクリックすると、AWSのサービスを直接呼び出せるようになっているが、その間で一度SORACOMのシステムを通っている。サービスに必要な情報やシステムをハードウェア側ではなくSORACOMのシステム側に持つことで、今後のアップデートやサービス変更に容易に対応可能になっているのだ。ボタンを使うユーザーが意識することなく、新しいサービスに対応したボタンに買い換えたりすることもなく、バックエンドシステムが成長できる仕組みだ。
ほかにも、“あのボタン”をクリックすることでAWS側でどのような情報を取得できるのか、その中でも特に活用したいデータはどれか、などの説明があった。また参加者に初心者が多かったことから、AWS IoT 1-ClickやLambdaを使ったシステム開発の基本的な説明も行なわれた。
「ハマりポイントとしては、ボタン登録直後は無効になっているので、デバイスの有効化を忘れず行なうこと。また、コンソール画面を行き来しているといつの間にかオレゴンリージョンに飛んでしまい、東京リージョンで作ったはずのIoTプロジェクトが見つからなくなって焦ることがあります。そんな心配をしないでいいように、今回のハンズオンは初めからオレゴンリージョンでやります」(松下さん)
筆者も含め、会場にはこれから初めて“あのボタン”を使ってシステムを組もうという参加者が何人もいた。事前にこうしたハマりポイントの解説を聞けるのは、初学者にとって非常に助かることだった。そして、ここまで盛りだくさんにすれば当たり前のことなのだが、やはり規定時間には終わらず今回も「Max安定のオーバーラン」となったのだった。
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