日本にも女性たちを隔離する「月経小屋」が存在した
まずは、パッドマンが生理用ナプキンを開発するにいたった、インドの状況に言及しておきたい。
インドでは、月経は「穢れ」とされてきた。少なくとも、劇中では彼が住むような田舎では、2000年代初頭にもかかわらず、女性たちは生理中には家に入ることさえ禁止されている。5日間は男性との接触と避け、食事も家族とは別に取らなければならないのだ。
生理用ナプキンは高価なこともあり、もってのほかだ。彼の妻ガヤトリはほかの洗濯物の下に隠して干したぼろ布をあてがっている。このような状況を知ると、「インド、遅れてるなあ」と鼻で笑いたくなるかもしれない。しかし、月経は「穢れ」だとする考え方はわたしたちにも無関係ではない。
歴史学と社会学を専攻した田中ひかるさんの『生理用品の社会史 タブーから一大ビジネスに』(ミネルヴァ書房)によると、ユダヤ教の『旧約聖書』には生理中の女性が使ったものだけではなく、その女性に触れた人さえ汚れると書かれている。イスラム教の『コーラン』にも、生理は「不浄」であり、近づいてはならないという記述がある。
日本でも、西南日本を中心とする各地に、生理中の女性たちを隔離する「月経小屋」が存在した。地域によっては、1970年代までは温存されていたというから驚きだ。生理を不浄とする風習は世界中に存在した、あるいはいまだに存在し続けている問題である。この作品は遠い国の話ではなく、わたしたちもかつて経験したであろう物語なのだ。
※そもそも「タブー」という言葉は、ニュージーランドやイースター島などで話されるポリネシア語の「タブ(月経)」が語源である。2019年の1月9日にも、ネパール西部のバジュラ郡で月経を不浄とする「チャウパディ」という風習で、小屋に隔離された35歳の女性とその2人の息子が亡くなるという事件があった。AFPBB Newsなどが報じている。同紙によると、この風習は2005年に法律で禁止されたものの、現在も多くの地方で生き続けているという。ネパールにもパッドマンの登場が望まれる。
(次ページでは「「5億人の女性を救った男」の意味とは?」)
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