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VRの「もどかしさ」をゲームデザインに転化

VR謎解きアドベンチャーゲーム「星の欠片の物語、ひとかけら版」

2018年12月18日 15時45分更新

 今回は、VRコミュニケーション謎解きアドベンチャーゲーム「星の欠片の物語、ひとかけら版」を紹介しよう。開発元は日本のインディーデベロッパー「自転車創業」。1999年にリリースされたノベルゲーム「あの、素晴らしい をもう一度」をはじめ、独自のシステムを活用する謎解きのゲームデザインや歯応えのある難易度を誇る作品をリリースし続けているが、今回が初のVR作品となる。2018年1月にPlayStation VR版が発売され、11月にSteamにてPC版が発売された。

 内容は、砕けて力を失った星の欠片に取り残されたヒロインの少女と、他の世界を覗き見ることができる装置をかぶったプレイヤーがお互いを認識し、2人が力を合わせて謎を解き、星を元に戻して力を取り戻して脱出を目指すというもの。星の上に落ちているブロックやさまざまな装置などを調べ、使い方を推理していくという、謎解きがメインの作品となっている。

 本作のコンセプトは、VRの「もどかしさ」をゲームデザインに転化すること。VRのもどかしさ、つまり視界の直感性は高いものの、視界以外の直感性が悪い点(たとえば歩きまわる状況を用意することは難しいといった点)を、「プレイヤーがヒロインと視線でコミュニケーションを取って指示を出す」というシステムに落とし込んでいる。プレイヤーは別世界のものに直接触れられず、別世界を自由に動き回ることもできないため、指示を受けた少女がすることを見守るという仕組みだ。

  とはいえ、昨今のVRでは「ものをつかむ」感覚の再現性の向上を目指したコントローラーや、VR内を歩き回れる「フリーローム」型のVRなど、こうした制約を解消していく試みも多数なされており、そうした意味での「もどかしさ」は絶対的なものではない。しかしそれでも絶対に越えることができない「もどかしさ」が本作にはある。それは「目の前に居るヒロインに触れられない」こと。

 こちらの声は届かなくても頑張って意を汲もうとしてくれたり、こちらを覗き込んできたりとヒロインの所作はとても可愛らしくいじらしく、また一緒になって謎を解いているうちに一種の連帯感も生まれてくる。そんなヒロインが目の前に居るのに触れることができない、というのは確かに「VRならではのもどかしさ」だと感じさせられた。声の演技やビジュアルも含めヒロインを魅力的に描くことにはかなりのこだわりを感じるが、これは本作を成立させるための重要なポイントなのだろう。

 また本作は非常に頭を使うゲームなので、その上でフィールドを歩き回ったり、自分でものをつかんで拾う操作を行なったりとしていると流石に疲れてしまいそうだ。視線操作は思考ゲームとの相性という面でも上手い作りだと感じた。座った状態などリラックスした姿勢でプレーすることも可能だ。フィールドは全方位を見渡す必要があるが、今見ている方向を正面にリセットする機能もあるため後ろを振り向き続けたりする必要もない。

 制約のある中で唯一自由自在に動かせる「視点」が、謎解きにおいて重要なポイントとなっているのも面白い。ヒロインに調べてほしいものを指示するには対象を一定時間見続けて「フォーカスロック」する必要があるのだが、周囲を見渡して目に映るものをこれ以上ロックしても状況に変化がない、という時に、文字通り「視点を変える」ことで道が開けることがある。

 なお、「ひとかけら版」である本作はプロローグ版という位置付け。とはいえ謎解きのボリュームは十分あり、その体験のユニークさも含めて現段階でプレイする意義は十分ある。そして何より、「ひとかけら版」だからこその演出、この作品が真に完成した際には恐らく見られなくなるであろう演出も仕込まれているので、興味があれば是非いま、このひとかけらを体験してみてほしい。

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