週刊アスキー

  • Facebookアイコン
  • Xアイコン
  • RSSフィード

もっとローカルに!もっとグローバルに!

立花さんが語る田舎とクラウドの話はバージョンアップしてた

2018年12月19日 07時00分更新

クラウドとコミュニティで成し遂げた「地産地消」

 クラウドとコミュニティの力により、「地元の仲間を集め、グローバルの技術やノウハウを使い、東北エリアで仕事をする」という当初描いていた絵に近づいた。しかし、完成したと思っていたこの絵が、ここ1~2年で別の変化を見せてきた。「この絵には地元のビジネスがない。理由は、地元にはITを使うような産業や予算がないとあきらめていたから。でも、最近この地元のビジネスに少しずつアプローチできるようになってきた」と立花さんは語る。

 2年前、ヘプタゴンに舞い込んできたのは、青森県や三沢市など地元自治体が取り組む観光マーケティングの案件。「いま地方の自治体はインバウンドの観光客をいかに伸ばそうかいろいろな施策を考えているのですが、これを実施するために観光客の傾向や嗜好をSNSやオープンデータから分析するというもの」(立花さん)で、これを地元の3社でタッグを組んで実現するという案件だった。

 システムとしては、SNSで投稿されている写真を画像処理APIと機械学習サービスで分析し、オープンデータと組み合わせることで、観光客の興味とトレンドを調べられる観光データベースを作るものだ。今までこのクラスのシステムは、自治体が都内の代理店やシステム会社に数千万円で外注し、半年~1年かかって納品されていた。

 しかし、クラウドというテクノロジー、コミュニティというつながりを得た田舎のシステム会社は、今までとまったく違うスピード感と予算で一気に課題解決と価値提供までたたみかける。こうしたデータ分析のシステムも、AWSであれば、環境構築、データ収集、分析まで2週間くらいでできるし、料金も低廉だ。「なにより、これをクラウドが得意なうち、企画が得意な会社、データ分析が得意な会社が組むことで地元で実現できた。地方の案件を地方の企業で完結する、まさに『ビジネスの地産地消』が実現した」と立花さんは語る。

青森県や三沢市などの案件を地元企業でこなせるように

 もう1つの地産地消ビジネスとして、立花さんは地元の介護施設の事例を披露した。その介護施設では、利用者の写真をアルバムとして家族に提供していたが、利用者ごとの写真の分類をスタッフが人手でやっており、大きな作業負担になっていたという。「利用者は20人程度だが、1人100枚の写真でも、2000枚を分類しなければならない」(立花さん)。

地元の介護施設でもテクノロジーの恩恵を受けられるように

 ヘプタゴンではこの作業を自動化すべく、写真内の事物を自動認識する画像処理サービスであるAmazon Rekognitionを用いた写真分類システムを構築。2日かかっていた作業を数分で完了できるようになった。「EC2でシステム構築する方法もあるが、月に数千円も払えないこの規模の会社だとコストが合わない。でも、LambdaやS3を使う形なので、ほとんどコストがかからない」と立花さんはアピールする。

 最近は地元の学生を相手にAlexaスキルを作るという職業体験を実施した。「彼らはITに興味を持っているんだけど、どうしても東京に行ってしまうんですよね。学校もないし、会社もない」という田舎でも、地元に残るという選択肢を得られる。これもクラウドがあったからこそ実現したことだという。

海を越えた地元同士がコミュニティでビジネスできる可能性

 地元での活動だけではなく、グローバルでの活動も変化が訪れたという。昨年はソウルや北京のAWS Summitで登壇してきたが、各国からリクエストされたのはJAWS-UGでの活動の話ではなかったという。「韓国AWSのエバであるチャニーさんからリクエストされて、JAWS-UGの全国代表だった話ではなく、今日話したような田舎でのクラウド活用の話をしてきたんですが、現地ではすごい反響をいただきました」(立花さん)。

 実は韓国や中国は日本以上に首都一極集中。「韓国のエンジニアは、地方に生まれてもソウル以外では仕事はできない。でも、クラウドがあれば田舎でも仕事できるよという話をしたら、そんなこと思ってもいなかったと感激されました」と立花さんは語った。「ハングルだからよくわからないけど(笑)」と補足していたが、確かに私が2年前に韓国に行ったときも、ソウル一極集中の話は現地のエンジニアから聞いたので、おそらく正しい。

韓国や中国からの講演依頼は「地方の話」

 ということで、立花さんが語る田舎のクラウド話はバージョンアップしていた。地域課題の解決に結びつく新しいサービスを、地元の仲間だけできちんと回せる素地がクラウドによって生まれたのが1つ。そして、「コミュニティ経由で地方のビジネススキームを東京を経由しないでグローバルで展開できる可能性」が生まれたのがもう1つ。海を越えて地元の課題を共有し、地産地消のビジネスを拡げていけるなんて、夢の拡がる未来像だろう。

新しいローカル、リージョン、グローバルの関係性

 まとめてとして立花さんは、「競争領域と非競争領域の見極めが重要」と語る。クラウドはすでに非競争の領域なのでうまく利用し、勝てる競争領域をコミュニティの力を借りて、きちんと伸ばしていくことが大事。その上で、重要なのは協業だ。立花さんは、「シューペンターという経済学者は、イノベーションの源流は新しい発見ではなく、新しい結合であると言っている。つまり、結合による足し算、足し算で新しい価値が生まれてくる。コミュニティを通じて、いろいろな人とつながり、得意なものを組み合わせることでイノベーションが生まれていくと思っている」と語り、地方のハンディがなくなっていく将来像を示した。

 立花さんのセッションは何回か聞いたことがあるし、タイムラインで活動はチェックしていたのだが、結果的にこういう形で彼のビジョンが実現に近づいていったとは思わなかった。特にクラウドとコミュニティにより、地元の案件をきちんと地元で回せる地産地消の話は、首都圏以外の多くの地方でそのまま横展開できる話であり、いろいろなやり方が模索できるのではないかと思う。今回のJAWS FESTAは、ITの民主化や自動化などクラウドを使うべきさまざまな文脈が大きなテーマだったと思うが、バージョンアップした立花さんのクラウド&コミュニティ話も、「地方だからあきらめる」「田舎だから期待しない」を打破する実用性の高い1つの理論武装になるはずだ。

■関連サイト

この記事をシェアしよう

週刊アスキーの最新情報を購読しよう

この連載の記事