評論家・麻倉怜士先生による、今月もぜひ聴いておきたい“ハイレゾ音源”集。おすすめの曲には「特薦」「推薦」のマークもつけています。音楽の秋に合った優秀録音をまとめました。e-onkyo musicなどハイレゾ配信サイトをチェックして、ぜひ体験してみてください!!
待望のカモミールシリーズ、8年ぶりの新作。東京・音響ハウスでアナログで録音した。毎回のカモミールの暖かな音調は、アナログへのこだわりから来ている。今回も優しく、人間味豊かに、癒し的な感覚が愉しめる、耳に心地よいサウンドだ。本シリーズは誰も知っている名曲を、アコースティックに編曲するのが特徴だが、今回も「1.Close to You」「3.Let It Be」「8.You Raise Me Up」……などが藤田節で聴けるのが嬉しい。特に「8.You Raise Me Up」は有名になったケルテック・ウーマン版的な強力な鼓舞ではなく、「あなた、頑張ってね」と優しく囁く藤田バージョンに共感する人も多いだろう。2番の歌詞がケルテック・ウーマン版と異なるのも興味深い。
FLAC:192kHz/24bit、96kHz/24bit
WAV:192kHz/24bit、96kHz/24bit
DSF:5.6MHz/1bit
HD Impression、e-onkyo music
『The Beatles[White Album / Deluxe]』
ザ・ビートルズ
2017年の『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』のハイレゾ化に続き、ビートルズ・ハイレゾプロジェクトはホワイト・アルバム、『ザ・ビートルズ』のハイレゾ(96kHz/24bit)を完成させた。1968年11月のリリースから50年周年記念だ。2009年にはリマスターされたが(この時は44kHz/24bitのUSBメモリーが発売)、今回はリミックス&リマスターだ。プロデューサーのジャイルズ・マーティンとミックス・エンジニアのサム・オケルは、ビートルズ楽曲の本当の価値の表出に努めた。
私はe-onkyo musicで、「最新リミックス・ハイレゾ『ホワイト・アルバム』の音楽理論的、音質的徹底考察」を書いた。音楽理論とオーディオの両方の視点から、本アルバムのハイレゾ・バージョンを考察した記事だ。ビートルズが自分たちの独自メソッドを活用して、絶対的な音楽的境地を切り拓いたことが明確に識れるのが本アルバムであり、特にメンバーによる音楽性の違いが色濃く表出されている。
さて、e-onkyo musicで購入できるハイレゾホワイトアルバムは2種類、White Album / DeluxeとSuper Deluxeだ。Deluxeは「2018ステレオ・ミックス」と1968年5月に、ジョージの自宅でデモ・テープをレコーディングした「イーシャー・デモ」のふたつが収録。Super Deluxeはさらにアウトテイクが増え、それも単にテイク違いだけでなく、「インストゥルメンタル・バッキング・トラック」、「ヴォーカル、ギター&ドラムス」「アンナンバード・リハーサル」「スタジオ・ジャム」……などさまざまな種類の秘蔵音源が聴けるのが嬉しい。
音質はさすが、リミックス&リマスター&ハイレゾの威力だ。私のe-onkyo music記事から個々の曲解説の冒頭部を引用しよう。2009年のリマスターCDと比較した記事だ。
While My Guitar Gently Weeps
ハイレゾは音質が圧倒的に良い。冒頭の左チャンネルのピアノと、右チャンネルのベース、ドラムスが主役という点は同じだが、CDはこれらを太い輪郭とボディ感で聴かせるのに対し、ハイレゾは繊細さ、緻密さ、品質感も加わる。冒頭の左のピアノは同じA音を叩いているが、途中で微妙に音価(音符の長さ)が異なる。その細かな時間軸の差異は、音の立ち上がり/下がりが素直で、余計な輪郭がまとわり付かないハイレゾのほうが、よく分かる。
Ob-La-Di, Ob-La-Da
ハイレゾはCDとはまるで音色が違う。冒頭の鋭いピアノの音像が引き締まる。明らかに音像はタイトになり、質感が向上している。同時にベースの輪郭感に密度感がしっかりと伴ってくる。ヴォーカルも、とても上質だ。♪Ob-la-di Ob-la-da life goes on bra Lala how the life goes onのコーラスがひじょうにクリヤーになり、量感主体のCDに比べ、質感と明瞭さが格段に向上している。
Glass Onion
楽器とヴォーカルの質感はCDより遙かに優れる。粒子サイズが圧倒的に小さく、細やかになり、それらが絡み合い、高密度に充填されるというイメージだ。ジョンのヴォーカルもCDでは太めで粗野感が強いが、ハイレゾでは、叩き付けるような迫力が実は緻密な音楽的なコンテキストに支えられていることが、聴き取れる。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music
アルバム・タイトルの「L'Heure Bleue」は、英語でBlue Hour。日の出前と日の入り後、赤や緑の波長は途中で消え去り、青の波長だけが残るので、空が神秘的な濃い青色に染まる。このところカバー作品が多かった原田の「noon moon」(2014年)以来4年半ぶりのオリジナル・アルバム。「1.Hello」は、弦楽の不安定なオブリガードに乗る、感情豊かなヴォーカル。センター定位が確実で、バックのオーケストラが、左右に広く深く展開する。バスドラムの一定のリズムが心地好い。「2.銀河絵日記」も、しっかりとしたリジッドな感覚だ。細部まで感情が行き届き、サイズの大きなヴォーカル音像からは、ディテールまでのニュアンスが豊かに聴き取れる。
FLAC:96kHz/24bit
Universal Music、e-onkyo music
週刊アスキーの最新情報を購読しよう
本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ている場合があります